マーケティングオートメーション(Marketing Automation、通称MA)は、北米を中心に2000年代から注目を集め、日本でも2016年頃から広く認知されるようになりました。

近年では、マーケティングや営業活動の効率化のため、導入する企業も増えており、実際に耳にしたことがあるというマーケティング ・営業担当者も多いのではないでしょうか。

しかし、マーケティングオートメーションの言葉の意味や、それによってもたらされるメリットをしっかりと把握しているという方は、多くありません。特に、MAツールは、「メール配信を行うツール」だと認識している方がいますが、メール配信はMAツールの一機能に過ぎません。

そこで本記事では、マーケティングオートメーションとはそもそも何かといった基礎知識や、企業がマーケティングオートメーションを活用すべき理由、そして運用していくために大切なポイントを、実際の活用事例も交えて解説していきます。

マーケティングオートメーションとは?

マーケティングオートメーションとは、企業のマーケティング活動において、マーケターが手動で行なっている膨大な業務を自動化して、効率を高めるシステムを指します。

マーケティングオートメーションの登場以前は、獲得したリード(見込み客)のメール配信リストの作成やメール開封率・サイト訪問の分析、営業へのリードの引き渡しといった業務は、全てマーケターが手動で行う傾向にありました。

これらの業務は、マーケターの時間を奪ってしまい非効率なだけでなく、属人的な判断に頼ることが多く、見込み客の温度感を「定量的に測る」ことができません。結果的に、購入意欲の低いリードを営業に引き渡してしまい、失注や商談に至らないなど営業リソースの無駄遣いを招いてしまいます。

そこで活用するのが、MAツール(マーケティングオートメーション・ツール)です。MAツールは、獲得したリードを一元管理することができます。メール配信や自社サイトへの誘導を通じて、リードの購入意欲を育成し「定量・定性の両面で効果測定」することで、営業が適切なタイミングで見込み客にアプローチすることが可能になります。

マーケティングオートメーションが求められる背景

マーケティングオートメーションの始まりは今から20年前、2000年のこと。

カナダのベンチャーがセールス&マーケティングプラットフォーム「Eloqua」をリリースし注目を集めてから、多くのシステムベンダーが市場に参入し、瞬く間に市場が誕生しました。

Googleトレンドより

日本でも2016年ごろから、「マーケティングオートメーション」や「MAツール」といったワードが認知され始め、Mtame株式会社が2018年にBtoB企業のマーケティング担当者に行なった調査では、全体の約47%が「マーケティングオートメーションを知っている」または「すでに導入している」と回答しています。(※有効回答4,663社)

急速に認知や導入が進んでいるマーケティングオートメーションですが、企業がはなぜ、マーケティングオートメーションを必要としているのでしょうか。

1.扱うリード数が増えている

最大の理由は、企業が管理するリード数が大幅に増えていることが挙げられます。かつては、名刺交換やセミナー開催・テレアポ営業など、見込み客との接点は限られていました。

そのためマーケターが属人的にリードを管理しても、大きな工数は掛からず、一つひとつのリードに関して、時間をかけて、適切なアプローチをすることができました。

しかし、インターネットの普及により、顧客は製品やサービスの情報を簡単に収集できるようになりました。そのため企業も、より多くのリードを獲得することができるようになったと共に、顧客が抱える様々なニーズに対して、One to Oneのマーケティングを行う必要に迫られています

そのため、リードを一元管理して、一つひとつのリードに適したアプローチを自動で行うことができるマーケティングオートメーションの需要が高まっていると推測できます。

2.営業リソースの節約

MAツールを用いて一括にリード管理を行うことで、リードの属性や行動から、優先的に営業活動をすべきホットリードを抽出することができます

今までは、本来注力すべき受注確度の高いリードと、時間をかけてじっくりと育成すべき受注確度の低いリードを見分けることができずに、無駄な営業リソースが多く発生していました。

労働人口の減少や働き方改革が叫ばれる中、いかに限られた営業人員の中で、最大の成果を出すことが求められています。

このことから、MAツールを活用して、ホットリードを抽出することで、受注に繋がりやすい「今すぐ客」に効果的にアプローチしていくことが可能になります。結果的に、受注率を大幅に向上させ、今までかかっていた無駄な営業コストを削減することができます。

マーケティングオートメーションでできること

MAツールには、リードを生み出す作業(リードジェネレーション)〜リードを育成する作業(リードナーチャリング )〜リードを選別する作業(リードクオリフィケーション)の一連の流れに対応する機能を備えています。

国内外のベンダーから様々なMAツールが開発されていますが、以下の6つの機能は多くのツールで搭載されています。

WEBトラッキング リードのWEB上の行動を把握する
リード管理 リード情報を一元管理し、効果測定を行う
フォーム / LP制作 WEBフォームやLPを制作し、リードを獲得する
メール送信 / 開封確認 テンプレートを利用し、簡単にHTMLメールを作成
スコアリング 優先的にアプローチすべきリードを算出
シナリオ リードの反応によって、自動でアクションを実行

ここでは、MAツールがサポートする

  • リードを生み出す作業(リードジェネレーション)
  • リードを育成する作業(リードナーチャリング )
  • リードを選別する作業(リードクオリフィケーション)

について、それぞれ解説していきます。

リードジェネレーション

リードジェネレーションとは、自社の商材に興味や関心を持つ、見込み客を獲得することを指します。MAツールでは、リードを獲得するための様々な機能が備わっています。

その代表的な機能が、「フォーム / LP制作」です。リスティング広告やバナー広告をはじめとするWeb広告からLP(ランディングページ)に誘導して、資料ダウンロードやメルマガ登録のために、個人を特定出来るデータ(氏名・会社名・部署名・メールアドレスなど)を入力してもらうことで、リードを獲得します。

従来は、Web制作の知識が無ければ、フォームやLPを作ることができませんでした。しかし、MAツールは、誰でも簡単にそして時間をかけずに、フォームやLPを制作することができるので、リード獲得に役立ちます。

また、MAツールによっては、SEOで集客するための「コンテンツ制作機能」や、セミナーや展示会といったオフラインイベントでリードを獲得するための「イベント管理機能」、また過去に交換した名刺の情報をリード化する「名刺管理ツールとの連携機能」を備えているものもあります。

リードナーチャリング

リードナーチャリングは、獲得したリードを受注確度を高めていくために、育成することを指します。

MAツールには、リードをしっかりと一元で管理し、効果測定をしていく「リード管理機能」をはじめとし、商材への関心度を高める「メール配信機能」や、Web上でのリードの行動を把握する「WEBトラッキング機能」が備わっています。

また、特定の行動を起こしたリードに対して、自動で次のアクションを促す「シナリオ設計」も重要な機能です。例えば、ある見込み客がサイトに訪問したタイミングで、関連する内容のメールマガジンを自動で配信することで、興味や関心を高めていくことができます。

リードクオリフィケーション

リードクオリフィケーションは、リードの受注確度を見極めて、購入意欲の高い「今すぐ客」を見つけることを指します。クオリフィケーションとは、絞り込みを意味して、大量のリードの中から、近い将来顧客になるリードを見つけ出すという意味合いがあります。

このリードクオリフィケーションで大きな役割を果たすのが、「スコアリング」と呼ばれるMAツールの機能です。

スコアリングでは、メールの開封・資料のダウンロード・動画の視聴・サイトの訪問・特定ページの閲覧など、リードの行動に点数を付与します。

例えば、メールの開封であれば5点、価格シミュレーションの実行であれば30点など、購入するユーザーによく見られる行動には高い点数を設定します。

こうすることで受注確度の高い「今すぐ客」を抽出して、営業へと引き渡すことができます。

BtoBとBtoCの違いは保有リード数

MAツールにおいて、BtoB向けツールとBtoC向けツールに大きな違いはありません。どちらも見込み客を育成して、受注確度の高い見込み客を選別していくために必要な機能が備わっています。

しかし、BtoBとBtoCでは、保有するリード件数が異なります。BtoBは、数千〜数万のリード件数なのに対して、BtoCの場合だと、数十万〜数百万のリード件数を管理する必要が出てきます。そのため、リードを管理できるデータベース量には違いがあります。

例えば、BtoC向けのECサイトの場合、顧客一人ひとりに合わせて最適なレコメンド(おすすめ商品の情報)を出したいといったニーズがあります。このような場合は、数百万単位のリードをクラスタリング(分割)してセグメント(グループ化)することによって、顧客にとって最適なレコメンドを出すことができます。

大量のリードを扱い、セグメント毎にアクションを起こすという意味では、BtoCに特化したMAツールの方が良いと言えるでしょう。

マーケティングオートメーションの2つの事例

ここからは、マーケティングオートメーションを活用して、企業がどのような成果をあげているのか、実際の事例を見ていきましょう。

※「BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方」の事例を参照

BtoB|資料DL2倍、SF連携で売上2倍

BtoB向けにWebマーケティングツールやアクセス解析ツール、広告配信サービスといった各種ツールの制作や販売を行なっているS社では、MAツール「Pardot」を導入。

フォームやLPを作成することでリードを獲得、見込み客の行動を元にした「スコアリング」と、見込み客の役職や会社の規模といった属性データを元にした「グレーディング」を活用して、セグメントを実施。セグメント毎に最適な資料をメール配信することで、月間資料DL数を2倍にしました。

またPardotの強みである、SFA(営業支援システム)「Sales Cloud」とのシームレスな連携により、マーケティング活動から営業活動までの適切なパイプライン管理を実現。売上2倍にも大きく貢献しています。

BtoC|ROI808%、CVR42%増加

BtoC向けに家具や装飾品を扱う米国のホームファッションブランドC社では、MAツール「IBM Silverpop Engage」を導入。

課題であった余剰在庫を、小売業に見切り放出するキャンペーンを実施。保有する購買履歴のデータベースから、過去3ヵ月以内に当該商品を購入した業者をターゲットとして、メールを自動送信

元の価格と割引額を記載することで、業者の再注文を促し、ROI808%とCVR42%増加を達成しました。

事前に知っておきたいMAツール活用に向けた知識

MAツールは導入することがゴールではなく、うまく活用して、企業の売上貢献や課題解決に役立てる必要があります。MAツールを導入する際に、知っておきたい知識について解説します。

MAツールをどのように活用すべきか

MAツールでよくあるのが、導入したけれども、何のために使えばいいか分からないという担当者の悩みです。

MAツールを使って様々なことができますが、おすすめしたいのが、受注確度の高いリード「今すぐ客」を見つけることです。今すぐ客を見つけることができれば、効率的な営業活動や短期での売上アップに大きく貢献します。

今すぐ客のペルソナを作り、リードのスコアリングを行う

では「今すぐ客」は、どのように見つければいいのでしょうか。

その答えは、まず自社にとっての「今すぐ客とは何か」を定義するところから始まります。受注確度の高い見込み客は、業種や業態、また企業によって様々です。どのような見込み客が、今すぐ客になるのか、その特徴を洗い出してペルソナを作る必要があります。

例えば、A社が月100件のリードを獲得して、その内の3件が実際の受注に繋がるとします。今すぐ客を見つけるためには、この3件のリードに共通する要素をペルソナとして抽出していきます。

サービスページに定期的に訪問をした、複数の資料をダウンロードした、架電の際に強いニーズを持っていることを示したなど、リード獲得〜受注に到るまでに各フェーズでどんな行動を取っているのかに着目しましょう。

これらの行動一つひとつにスコアを付与していくことで、「スコアの点数が高いリード=過去に受注に繋がったリードと行動の一致率が高い」と判断することができ、今すぐ客を見つけることができます。

 どのような運用体制になるのか

MAツールの運用体制というと、インサイドセールス部門の担当者が複数人で運用すると思われがちです。

しかし、SEOや広告運用などリードを生み出している担当者やフィールドセールスの担当者がMAツール運用を担うことは多々あります。また、MAツールにある程度知識があり、ペルソナ設定やPDCAを回せるのであれば、一人でも十分に運用していくことができるでしょう。

ただし、誰でもMAツールに触ることが出来る環境にしてしまうことは、避けなければいけません。担当者同士の連携がうまくいかずに、MAツールの設定に変更を加えてしまうと、適切なリードナーチャリングやリードクオリフィケーションができなくなってしまいます。

しっかりと設定に変更を加える責任者を決めること、管理権限を設定するといった工夫が必要です。

ツール運用で得た情報は社内で共有しよう

MAツールは月に20〜30万円、年間で約300万前後の予算かかる高額なツールです。また、専門知識がない人から見ると、高額なツールを使って一体何をしているのか、分からないという側面があります。

そのため、MAツールの運用で得た情報や成果は、定期的に社内で共有することが大切です。しっかりとマーケティングや営業活動に貢献していることを周囲に知ってもらうと共に、ペルソナ作りを属人的にしないという役割があります。

先ほど、今すぐ客を定義するためには、ペルソナ作りが大切だと述べました。しかし、担当者がひとりでペルソナを作ると、自分の経験のみで受注がしやすい見込み客を考えてしまいがちです

マーケティングや営業、カスタマーサクセスなど様々な視点から、ペルソナを考えるためにも、定期的な情報共有は必要と言えるでしょう。

費用対効果をどのように考えるか

MAツールを導入しても、初期の段階から採算が取れることは稀です。先ほども述べましたが、MAツールは安くても年間で200〜300万円程度の投資が必要ですし、しっかりと使いこなすためには、それなりの人件費もかかってきます。

MAツール導入の費用対効果を高めて採算を取っていくためには、MAツールを介した受注数を創出する必要があります。そのためには、一定のリード数やリードナーチャリングの精度を高めていくことが求められます。

例えば、ある商材のセミナーへの案内メールを配信したとします。

セミナーに参加してもらうためには、まず見込み客にメールを開封して貰わなければいけません。そのために、見込み客の興味をそそるキャッチーなメールタイトルを付ける必要がありますし、メールのリード文を読んでもらい、実際にセミナーに参加を促さなければいけません。

また、いくらメールタイトルや内容が魅力的でも、メール開封率の平均は約20%、また開封からのCTR(クリック率)に至っては2〜3%が平均です。一定のセミナー参加者を集客するためには、多くのリード(メール配信先)が必要になってくるでしょう。

このような様々な要素を考慮して、1件の受注に至るまでに発生したコストと商材単価を照らし合わせることで、MAツールの費用対効果を算出することができます。

代表的なMAツール3つの比較

MAツールは国内外のベンダーから多数展開されていますが、ここではその中でも代表的な3つのツールについてご紹介します。

Pardot

「Pardot」は、株式会社セールスフォース・ドットコムが、BtoB向けに開発したMAツールです。全世界で15万社以上で導入されている「Salesforce」の他ツールと連携できるのが、最大の魅力です。

特に同社のSFA(営業支援システム)の「Sales Cloud」と連携することで、マーケティングと営業のパイプライン管理を一気通貫で実現できます。営業担当者は商談に至るまでの、リード獲得状況やリード行動を把握することができ、顧客に合わせて、最適な営業トークに役立てることができます。

また、Pardotのユニークな機能として、リードの役職や会社の規模・立地といった属性情報を元に受注確度を評価する「グレーディング」という機能を備えています。役職の低いリードに営業活動を行っても、受注に至るまでには様々な障壁があります。

「スコアリング」機能と併用して活用することで、意思決定者に効果的にアプローチすることが可能になり、営業の効率化に貢献します。

Marketo Engage

アドビシステムズ株式会社が開発するMarketo Engage(マルケト)は、全世界で5,000社以上の企業に導入されているMAツールです。もともとは、米国の株式会社マルケトが開発しているツールですが、2019年3月にアドビシステムズと経営統合を完了しました。

「顧客一人ひとりとの関係構築」に重きを置き、リードの獲得から顧客化、そして顧客のリピート化までの一連の流れを同一プラットフォームで管理することができ、一貫した顧客体験を提供することができます。

株式会社マルケトは、マーケティング専業ベンダーとして成長していたこともあり、実際にマーケターが使うことを想定して、シンプルで使いやすい設計になっています。「トークン」と呼ばれる変数を設定することで、画像の差し替えや文言の修正などを、時間をかけずに素早く実行。マーケターの業務効率化に役立ちます。

またOne to Oneコミュニケーションを可能にするため、多数のシナリオを分岐させ、キャンペーンを実施することができます。真の意味で、顧客一人ひとりに向き合ったマーケティングを行いたいという企業におすすめです。

Hubspot Marketing Hub

米国のHubspot,inc.が開発するインバウンドマーケティングの全機能を搭載したソフトウェア「Hubspot Marketing Hub」。コンテンツマーケティングや、インバウンドマーケティング、といったリードジェネレーションの機能に強みを持っているMAツールです。

ドラッグ&ドロップで制作できるLPやEメール、最新のSEOに対応した記事コンテンツの制作、クリックを誘うような魅力的なCTAの設置など、いずれも複雑なコーディングを必要とせず、エンジニアの手を借りずにマーケター自身で簡単に行うことができます。

自社で保有しているリードが少ない、これからリードを獲得していきたいという企業におすすめです。「HubSpot CRM」や「Salesforce」と連携が可能なので、営業とのスムーズな連携ができるのも魅力です。

MAツール導入に失敗しないために気をつけるべきポイント

MAツールは、導入すれば勝手に成果が上がる魔法の道具ではありません。「何となく流行っているから」といった理由で自社に取り入れても、成果に繋がることはまずないでしょう。

大切なのは、MAツール導入の目的をしっかりと定義することです。「受注の獲得」が目的なのであれば、自社の商材において受注確度の高い「今すぐ客」とは、どんなリードなのかを、見極める作業を怠ってはいけません

今すぐ客を定義できたら、カスタマージャーニーマップに落とし込んで、各フェーズでどのようなコミュニケーションを取れば、適切なナーチャリングしていくことができるかといったシナリオ設計を行いましょう。

また、費用対効果の観点も忘れてはいけません。仮にMAツールによって、受注が1件生まれたとしても、MAツールの導入にかかる費用や人件費を考慮すると、ペイしないということが十分に考えられます。

費用対効果を高めていくためには、リード数を増やす、メールの開封率やクリック率を上げるなど一つひとつの施策をPDCAを回して、改善していく必要があるでしょう。