Webメディアにも、なぜ、編集が必要なのか?

私が、編集の世界に足を踏み入れたのは、今から20年ほど前。当時、出版業界の編集者は花形の職業で、とても狭き門でした。この狭き門をくぐれなかった私が編集者になりたい一心でたどり着いたのが、いろいろな意味で過酷だった編集プロダクション(編プロ)です。編集者の数も、今と比べると、そう多くありませんでした。

しかし、現在は違います。Twitterを覗けば編集者の方々のアカウントをたくさん見つけることができ、求人サイトで「編集者募集」の文字を見る機会が明らかに増えました。この背景には、年々深刻さを増している出版不況と、その不況と相反するかのように増え続けるオウンドメディアと商業メディア、そしてマーケティング手法としてメジャーになった感がある「コンテンツマーケティング」という言葉の浸透があるでしょう。

今年の5月、『POPEYE』の前編集長・木下孝浩氏があの株式会社ファーストリテイリングにグループ執行役員として入社したニュースは、記憶に新しいところです。入社にあたって、同社の代表取締役会長兼社長・柳井正氏は、「ユニクロが真のグローバルブランドとして成長していくためには、これまで以上に情報の編集力が重要になってきています」と話されていました。

社会から「編集」という職業が要請され、「編集者」の価値が高まっている——。そんな時代になったのです。

今回のBLOGでは、紙媒体・Webメディア問わず、長く編集に携わってきた者として知り得る経験や知識をもとに、そもそも編集とはどのような仕事なのか、Webメディアが編集を取り入れるとどのような課題が解決でき、どのようなメリットが得られるのか……といった内容を、これまでにあったお客さまからのお問い合わせ内容も参考にしながら、お伝えします。あくまでKRAFT独自の見解になりますが、Webメディアの編集やコンテンツ関連でお悩みを抱えている方の一助になれば、幸いです。

※「Webの」オウンドメディアと商業メディアです。
※以後は、「Webのオウンドメディアや商業メディア」=「Webメディア」と表記します(タイトル含む)。

「Webメディアの編集」の定義

「『Webメディアの編集』って、どんな仕事なんですか?」。そう問われたとき、皆さんは、どのように答えますか?

KRAFTでは、Webメディアの編集を、周囲の人と力を合わせ、Webメディアのコンセプトに則った上でユーザーが求めている、あるいはこれから求められるであろうコンテンツをつくり出し、そのクオリティを高いレベルまで引き上げて保ち続けられる、“信頼”を生む機能(永続的なコンテンツの品質管理)と考えています。少し言い換えると、Webメディアとユーザーの間にコンテンツで橋を掛け、橋を通じて情報を提供し、結果、コンテンツの集積ともいえるWebメディアのグロースやブランディングにも貢献する仕事、という解釈になるでしょうか。

 

「紙媒体の編集」と「Webメディアの編集」の共通点と違い

紙媒体の編集とWebメディアの編集で共通しているのは、周囲の人と力を合わせ、メディアのコンセプトに則った上で読者(ユーザー)が求めている、あるいはこれから求められるであろう記事(コンテンツ)をつくり出し、クオリティを高いレベルまで引き上げることです。逆に、決定的に異なる点は「永続的なコンテンツの品質管理」SEOの概念。PVやCV、離脱率に読了率などの“見える数字”でコンテンツの検証ができるのはWebメディアの特徴であり、コンテンツ公開後のメンテナンスも可能なので、日々、コンテンツをより適切な形にアップデートできます(弊社の永田が寄稿した「コンテンツSEOとは?50社以上との取り組みでわかったこと」もご覧ください)。

 

紙媒体とWebメディアの編集業務を比べてみる

では、Webメディアの編集の具体的な業務は、どのような内容なのでしょうか? 私が編集者として行ってきた仕事の経験をもとに、紙媒体とWebメディアの編集の業務内容を比較しながら、整理してみます。

 

◎紙媒体

カスタマージャーニーマップの作成、ペルソナ設計、マネタイズ(主に編集長の業務)、編集会議の参加、編集方針の策定、コンセプトメイキング、企画立案(ネタ出し)、取材・インタビュー、関係者(デザイナー、カメラマン、スタイリスト、ライター、監修者、校正士など)のアサインとマネジメント、紙面ラフの制作、デザインの赤入れ、進行管理、校正・校閲、各方面との調整業務、原稿の修正やり取り、コンテンツ制作(ライティング、リライト、場合によっては自分で撮影~画像補正まで)、印刷会社との色校正のやり取り など

 

◎Webメディア

紙媒体の「印刷会社との色校正~」を除く全業務に加えて……

コンテンツをつくるためのスキームづくり、GA(Google Analytics)を用いたWebメディアとコンテンツの分析、(コンテンツ公開後の)メンテナンスを目的としたリライト、コンテンツ内のリンク設定(内部リンク)、SEOコンテンツのKW設定・構成案作成・ライティング、他メディアやSNSとの連携推進

こうしてみると、Webメディアの編集業務は紙媒体と比べて、求められる業務が幅広いことがわかります。留意すべき点は、同じ業務内容でも、紙媒体とWebメディアで手段が異なるということ。例えば、Webメディアの「校正・校閲」では、ツールを使ったコピペチェックや画像盗用チェックをします。「編集方針の策定」「コンテンツ制作」は、Webメディアの場合、戦略・戦術——例えば、SEO狙いなのか、Referral狙いなのか——によって内容が変わり、「マネタイズ」の手段も紙媒体とWebメディアでは大きく異なるでしょう。「紙面ラフの制作」は、ワイヤーフレームの作成やパンくずリストの設定などに置き換えられます。

 

求人サイトでWebメディアの編集業務について、調べた結果

とはいえ、上記はあくまで私の経験に基づいた比較になりますので、「そんなに幅広くない!」「〇〇の業務が抜けてない?」といった異論はあるかもしれません。そこで、「Webメディア 編集 求人」で検索をして求人内容にある「想定される業務」を調査したところ、Webメディアの編集に求めている業務内容は、それを表す表記も、次のように会社によってかなりばらついていることが、わかりました。


●A社 コンテンツ・記事広告の企画立案、校正、ライティング(SEOには関与しない)
●B社 記事の企画立て、キーワード調査と分析、ライターの教育、記事添削
●C社 コンテンツの企画立案、SNS運用、ライター発掘、一眼レフでの撮影

 

また、お客さまからいただくWebメディアの編集のお悩みも、実にさまざまです。少なくとも、紙媒体と比較するとWebメディアの編集業務はとても幅広く、各社(各Webメディア)の編集の定義は異なるといえそうです。

 

[参考]これまでに寄せられたWebメディアの編集のご相談例

・専門性を持ったライターやカメラマンがいないので、探してほしい。

・ライターを、育ててほしい。

・編集部のメンバーが若いので、教育をしてほしい。

・今後のひな型となるような記事広告のコンテンツをつくってほしい。

・SEO対策として、すでにあるコンテンツ(過去分)を全てリライトしてほしい。

・コンテンツをつくっても読まれず、原因もわからないので、調査し、改善してほしい。

・ライターの原稿の手直しに工数を多く割いているので、フォローに入ってほしい。

・Webメディアを立ち上げるので、編集部を組成してほしい。

・コンテンツ改善のために外部コンサルを入れたけれども、効果がなく、逆に体制が乱れてしまったので、立て直してほしい。

・校正・校閲・監修をしてほしい。

・薬事法・景表法の観点でコンテンツをチェックしてほしい。

・医療コンテンツをつくるので、監修者(医師)を見つけてほしい。

・コンテンツをチームで回す“仕組みづくり”を支援してほしい。

・とにかく、PVを増やしたい! けれども、その施策がわからないので、教えてほしい。

・読み物系のコンテンツは問題ないけれど、コンテンツSEOが弱いので、テコ入れしてほしい。

・編集会議に参加してほしい。

・記事広告のマネタイズを一緒に考えてほしい。

・親和性の高い他のWebメディアと共同でコンテンツをつくりたいので、相手先を探してほしい。

・Webメディアを立ち上げたいが、編集長・編集者が採用できないので、採用が決まるまで代行してほしい。

 

Webメディアに編集の機能がないと、どうなるのか

冒頭でも触れましたが、先ほどの求人の話題や上述のご相談例を見ても、編集の機能を求める声は多くあります。それでは、“編集”の機能を持たない、もしくは機能不全を起こしているWebメディアの現場では、具体的にどんな障害が起きるのでしょうか? 今回は、よく耳にする実例を3つ、ご紹介します。

①コンテンツのクオリティ低下→ブランド・信頼低下→ユーザー離れ

定期的に起こる、Webメディアの炎上。その大半の原因が、コンテンツの内容の信ぴょう性が疑わしい——つまり、真偽が明確ではない情報や素材でコンテンツをつくってしまったばかりに疑念をはらんだコンテンツを生み、流通させてしまったことにあります。

過去に、健康系メディアのコンテンツに不適切な画像と内容が掲載され、炎上したケースがありましたが、この例であれば、そもそも企画が適切だったのか(リスクがなかったのか)を見極める。適切だとしたら、権威があり信頼もできる監修者を見つける。的確な赤入れをする。画像などの素材もエビデンスを取る。ファクトチェックを入れる。これらの工程が組み込める余裕のあるスケジューリングをする。こういった段取りを編集者が踏んでいれば、恐らく回避できたはずです。

私は毎日、Yahoo!ニュースを見るのが習慣ですが、コメント欄、いわゆる“ヤフコメ”を見ると、定期的に、誤字脱字や文章のわかりづらさについて指摘をしているコメントや、「曲がりなりにも情報を発信しているメディアなんだから、責任を持てよ……」という類のコメントに出くわします。当初は、ニュースサイトで編集をやっている友人の顔を浮かべながら、「Webの強みは速報性だから、致し方ないのかな」と思っていました。しかし、人名を間違う、日付を間違う、事実を間違う、タイトルと本文の関連性がない。こういったエラーは、情報を扱う同じ編集者として、看過できません。たった数文字の間違いがユーザーの信頼低下を招き、Webメディアの信頼の毀損(きそん)も引き起こしていると思うと、ぞっとしました。

ちなみに、次の文章は最近見つけた一文なのですが、どこに誤りがあるか、わかりますか?

昨年、12月16日の第18節シティ戦から14試合無敗(11勝3敗)のトッテナム。

 

私の愛読書でもある『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』で、毎日新聞社の用語委員会用語幹事の岩佐義樹さんは、次のように述べられています。

インターネットで何らかの確認をする場合、その中に明らかな間違いが一つでもあれば、他の部分がいかに正しくても疑いの目で見られ、参照に値しないとみなされるでしょう。

 

とあるニュースの通称「ヤフコメ」。時折、「ヤフコメ民」と揶揄(やゆ)されますが、これも一ユーザーの声です。

②コンテンツの力を引き出せない

Webメディアのコンテンツは、紙媒体と違い、数字で成果が測れます。前職のリミアでは、KPIによる管理が徹底されており、毎朝、各記事の数字を細かくチェックしていました。記事広告であれば、送客、つまりCTRの数字が低かったらリンクバーの文言を変えたり、PVが低ければサムネイルの写真をフォトジェニックなものにしたり。『LIMIA』はアプリのプッシュ通知もあったので、SNSに豊富な知見を持っている若い女性社員に、(プッシュ通知時に出る)コピーをどのような文言にすればよりシェアをしてもらえるのか、相談したこともありました。descriptionや本文のリライトを毎日のルーティンワークにしているWebメディアもあります。

KRAFTでは、こういったWebメディア特有のKPI設定やKPIに基づく一連のメンテナンスも、編集の仕事だと考えています。もちろん、後述の企画立案や編集方針の策定も大切なのですが、Webメディアの強みを考えると、つくったら終わり、ではなく、いかにそのコンテンツが結果を出せるハイパフォーマーになれるのか、結果を出すレベルまで引き上げられるのかが、重要なポイントになるのではないでしょうか? コンテンツが選手だとすると、編集は選手を管理し、パフォーマンスを最大限に引き出してあげるトレーナーのようなもの。せっかくつくったコンテンツが腐らないよう、トレーナーである編集が、「永続的なコンテンツの品質管理」をしてあげることが大切です。

 

③コンテンツの“面”が少なくなる

編集者がいるからといって、必ず、ユーザーから愛されるコンテンツが生み出せるわけではありません(もしかしたら、打率10割に近いヒットメーカー編集者がいるかもしれませんが……)。また、最近のWebメディアのおもしろい企画はSNS発信であることも多く、こと、おもしろいコンテンツを生み出すという点で見ると、全員が主役のような気もします。ただ、おもしろい・読まれる企画や文章を考える、いわゆる“ネタ出し”をする存在は、紙媒体・Webメディア問わず、編集者(場合によっては編集長)だと考えます。

ある介護系メディアの編集のお仕事で、毎週ルーティンになっている業務がありました。それは週1回、10案、企画案を提出するというものです。企画を考えるために、介護士を生業にしている友人に頼み込んで“介護士覆面座談会”を開催してもらったこともありました。また、コンテンツをつくるために大学の教授をアサインし、論文のような文章をリライト・編集してマンガのコンテンツに変化させたこともあれば、インフルエンサーさんを自ら探して執筆を依頼し、特定の専門分野について、寄稿いただいたこともあります。

あくまでこれらは一例ですが、このように、編集者がWebメディアのコンセプトを理解した上でユーザーが求めているコンテンツを外部の協力者も巻き込みながらつくっていくことは、コンテンツのストライクゾーン(コンテンツの“面”を増やす)を広げるという点で有益です。

 

Googleも“編集”の必要性に言及しているという事実

『Google ウェブマスター公式ブログ』の「良質なサイトを作るためのアドバイス」に、次の一文があります。

記事はしっかりと編集されているか? それとも急いで雑に作成されたものではないか

検索の世界をつかさどるGoogleが「編集」をどのように定義しているのかは定かではありませんが、参考までに同じGoogleの社内資料『Search Quality Evaluator Guidelines』(検索品質評価ガイドライン)を見てみると、「高品質なWebサイト・Webページを判断する際に、Expertise(専門知識)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の3軸を用いる」ことが示されています。この事実を踏まえると、Webメディアの編集には、この3つの視点が必要不可欠な要素といえそうです。少なくとも、先ほど挙げた3つの実例は、「E-A-T」と関連しています。

Webメディアに携わる方は、Googleが編集の必要性に触れている事実をしっかりと認識しておく必要があるでしょう。

 

コンテンツの生涯に付き添い、品質を管理することが、Webメディアの編集者の責務

とあるWebメディアで、誤字脱字やUI/UXの不具合がユーザーにどんな影響を及ぼすのか、それを調べるために、こんなテストをしました。「①:正規の記事」「②:①にあえて大量の誤字脱字やレイアウトの崩れを含ませる」を用意し、その読了率を週替わりで調べる、というものです。結果、①の読了率が高く、②と約2%の差が付きました。先ほど挙げた通り、「誤字脱字を見つけて、修正する」「適切なレイアウトを模索し、提案する」ことだけがWebの編集の業務ではありませんが、少なくとも、コンテンツの表面をきれいにする行為がコンテンツのパフォーマンスに影響を及ぼしている、と確信できた出来事でした。

Webメディアの編集は、戦略・戦術の策定から企画立案、コンテンツ制作~完成、その後のアフターケア、データ分析まで、いわば“コンテンツの一生”に付き添える仕事。「発行してしまったら再版まで修正ができない」紙媒体のコンテンツとは異なり、Webメディアのコンテンツはメンテナンスのリライトなども含めれば、永続的に続けられるものです。

次回のBLOGでは、実際に今まで私が行ってきた(行っている)仕事をご紹介しながら、Webメディアの編集業務の実例も交えつつ、編集という仕事の必要性について、さらに深堀りをして、お伝えします。

大坪隆史 大坪隆史
KRAFT Producer / Director / Editor / Writer
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大坪隆史

この記事の著者

大坪隆史

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編集プロダクションで雑誌や書籍などの編集・執筆に従事した後、コンサルティングファームで東証一部上場企業やベンチャー企業のインナーブランディングに携わり、編集長として多種多様なオウンドメディア(紙媒体、Web)をプロデュース。その数は、300件以上にものぼる。その後ジョインしたグリーグループのリミア株式会社では、同社が運営する月間約1.8億PVのWebメディア『LIMIA』の広告営業、コンテンツ制作・編集、SEO、外部アライアンス、CS(Community Support)などを担当し、期間MVPも受賞。2018年2月、MOLTSへジョイン。紙媒体とWeb、両方を経験してきた“両刀使い”として、KRAFTとクライアントを支える。“社会人サッカーチーム代表”という一面も。