なぜデジタルメディアはコンテンツよりも「ユーザーコミュニケーション」が重要なのか

メディアの現場では、往々にして「どういったコンテンツをつくるべきか」といったことを中心に議論されがちです。テレビやラジオ、新聞や雑誌といった従来型のマスメディアでは、コンテンツの伝達手段が放送波やアナログな配送網に依存しているため、コンテンツ制作にフォーカスすることは間違いではありません。

しかし、デジタルメディアの場合はコンテンツよりも考えなければならないことがあると私は考えています。それは、ユーザーとのコミュニケーションです。

ユーザーコミュニケーションのあり方が、従来型のマスメディアとデジタルメディアの大きな違いであり、ユーザーコミュニケーションの主導権を最後までメディアが握っていることがデジタルメディアの特徴だと考えます。

そこで今回は、私がデジタルメディアはコンテンツよりもユーザーコミュニケーションが重要だと考える理由、また実際に私がメディア運用に携わる際に、具体的にどのような点を意識しているのかをご紹介します。

なぜデジタルメディアはユーザーコミュニケーションが重要なのか

なぜ従来型のマスメディアとデジタルメディアでは、ユーザーコミュニケーションのあり方が異なるのか―― 

その理由はコンテンツの制作からデリバリーまでの違いにあります。

従来型のマスメディアの特徴

たとえばテレビやラジオでは番組を制作して、24時間の配信枠に当てはめ、そして送信所から電波を流して受信機で受け取り、再生するという流れです。一度番組が放送されると、つくり手は基本的に番組内容を修正することができません。

新聞であれば紙面を制作し、輪転機で大量の部数が発行され、そして販売店に輸送されて、その後各家庭に配達されます。雑誌や書籍は印刷会社から配送業者にわたり各書店で販売されます。

つまり、従来型のマスメディアにおいて、つくり手は “つくること” だけに関わっており、その後のコンテンツを届ける部分は他の事業者が担っている形になります。

また、従来型のマスメディアは一度配信された情報を編集することはできず、受け手の興味関心に応じてコンテンツ内容を変えることもできなかったりと、コミュニケーション(情報伝達)が一方通行であることも従来型のマスメディアの特徴です。

デジタルメディアの特徴

一方でデジタルメディアの場合、届けることを考えずにコンテンツ制作だけを行っていては、日の目を浴びない、誰にも見てもらえないコンテンツになってしまいかねません。

コンテンツを制作してCMSへ入稿し、さらにリンクをGoogleにインデックスされるようにしたり、SNSで発信したりと、デジタルメディアはコンテンツ制作だけでなく、コンテンツを届ける部分までを設計することが求められます。

ユーザーが検索したキーワードという “情報” に応じて表示されるコンテンツが異なったり、過去のデジタル上での行動履歴という “情報” から最適な広告を表示させたりと、情報の伝達、すなわちコミュニケーションが相互で行われることがデジタルメディアの特徴です。

こうしたコミュニケーションに齟齬があれば、当然ながら適切なコンテンツを適切なユーザーに届けることはできません。

そのため、デジタルメディアの運営者はどのようなユーザー接点で、どのようなユーザーコミュニケーションを取るべきかを考えなければ、コンテンツをユーザーに届けることは難しく、それがデジタルメディアはユーザーコミュニケーションを重要視すべきだと私が考える理由です。

デジタルメディアが重視すべき3つのコミュニケーション軸

では、デジタルメディアにおけるユーザーコミュニケーションを考える上で、特に重視すべきだと私が考える軸が以下の3つになります。

デジタルメディアが重視すべき3つのコミュニケーション軸
  • ブランドコミュニケーション
  • サーチコミュニケーション
  • ソーシャルコミュニケーション

それぞれがどういったコミュニケーション軸なのか、一つひとつご説明いたします。

01. ブランドコミュニケーション

3つの中で、最も難しい軸がこのブランドコミュニケーションです。従来型のマスメディアであれば、私たちは「○○新聞」や番組名といった何かしらのブランドタイトルを私たちは認識して、その中のコンテンツを閲覧しています。

しかし、デジタルメディアではどうでしょうか。特定のデジタルメディアのトップページにアクセスして、そこからコンテンツを閲覧するという行為を月に何回行いますか? 多くの人は、そこまで頻繁には行わないでしょう。

つまり、従来型のマスメディアはコンテンツがパッケージ化されて消費されていたのに対し、デジタルメディアはコンテンツごとに消費されやすいという特徴があります。

しかし、デジタルメディアであっても「このメディアには、このような情報が載っている」といったブランドを形成することができれば、ユーザーは求めている情報があったときに、能動的にサイトに訪問してくれるようになります。

能動的に訪問してくれるユーザーが増えれば、必然的に届けられるコンテンツも増えていきます。

そのため私自身はデジタルメディアであっても、こうしたブランド形成は重要であると考えており、ブランドとしての情報伝達、すなわちブランドコミュニケーションを重要視しています。

02. サーチコミュニケーション

次に情報伝達手段として重要なのが、検索によるコミュニケーションです。みなさんも何か知りたいことがあったときに、様々なプラットフォームで検索をしているはずです。検索するプラットフォームは、Googleだけとは限りません。

YouTubeで検索することもあるでしょうし、Instagramで検索することもあるでしょう。

コンテンツを届けるためには、コンテンツを届けたいユーザー群の検索結果に自分たちのコンテンツが表示されている必要があります。仮に検索結果に表示されなければ、そのコンテンツはユーザーにとっては存在しないのも同じだからです。

そのため、デジタルメディア運営者は、ユーザーがどのようにコンテンツを探しているか、どのような検索ニーズに応えられるコンテンツを提供できるかなど、サーチコミュニケーションを考慮することが大切です

03. ソーシャルコミュニケーション

最後に重要な軸として、ソーシャルコミュニケーションがあります。私は “ソーシャル” を「血縁、地縁、知縁」という3つの “縁” で考えています。そして、ソーシャルコミュニケーションというのは、デジタルメディアが存在する以前からもあったコミュニケーションです。

たとえば家族からの情報提供は血縁のコミュニケーションですし、近所の人や同級生からの情報提供は地縁のコミュニケーション、そして共通の趣味や興味で繋がった人からの情報提供は知縁のコミュニケーションと言えます。

デジタルメディアに移行しても、これらの縁のコミュニケーションは存在しています。家族とはLINEでコミュニケーションを取ったり、FacebookやTwitterで友人や共通の趣味を持った人とコミュニケーションを取ったりするというのは、縁のコミュニケーションなわけです。

そしてデジタルメディア運営者は、こうした縁のコミュニケーションがあるということを理解し、縁に入り込んでいくことが重要であると思っています。縁のコミュニケーションを井戸端会議に例えるならば、井戸端会議でいかに話題にしてもらえるかを考えるのです。

井戸端会議で話題にしてもらおうと思っても、ただ無理やりSNS広告を出すだけでは意味がありません。

ソーシャルリスニングといったTwitterなどでどういったコミュニケーションが発生しているのかを分析する手法などもありますが、縁の中でどういったコミュニケーションが行われているのか、どういった情報であれば話題に上がりやすいのかなどを考えたソーシャルコミュニケーションが求められます。

実際のメディアオペレーションで意識したい5つのポイント

では、これら3つのコミュニケーション軸を踏まえた上で、具体的に大切にすべきことが点ではなく線で捉えた運用です。

従来型のマスメディアであれば、基本的にコンテンツはフロー型であり、つくって終わりでした。しかし、デジタルメディアはつくって終わりではありません。検索で過去の記事が表示されるように、過去のストックされたコンテンツであっても、ユーザーとのコミュニケーションが可能です。

そのため、バズだけを狙ったコンテンツをつくったり、公開したコンテンツを自動的にtwitterに投稿するといった点での運用ではなく、メディアとしてどうコミュニケーションを取っていくのかという線での運用が求められると考えます。

そこで線での運用を行うために、実際に私がメディアのオペレーションで意識しているポイントが以下の5つです。

01. ブランド形成に繋がるサイトトップの運用改善

上述の通り、デジタルメディアはコンテンツごとに消費されやすい傾向がある、すなわちパッケージ化が難しいからこそ、デジタルメディアのパッケージであるトップページをどう見せるかは非常に重要だと考えています。

たとえば、ポータルサイトのトップページには、人力で選ばれたニュースタイトルがリライトされた上で表示されていたりします。私自身、これまでのキャリアの中でそうしたトップページのディレクションを担当してきたことがありますが、どういったニュースを選ぶかでトップページの数字に影響してくるのを目の当たりにしてきました。

ポータルサイトでなくても同様で、メディアの顔とも言えるトップページが代わり映えしていなければ、ユーザーは何度も訪れたいとは思えないと私は考えています。

そのため、これまでも私はトップページだけは専任のオペレーション担当を置くなど、メディアのブランド形成に繋がるトップページの運用改善を重視しています。そうすることで、ユーザーにとって心に残るサイトになることはもちろん、広告主の印象も変わり、より多くの成果に結びつくと考えるからです。

02. コンテンツ一つひとつのメンテナンス

「過去のコンテンツだから」と安易にコンテンツを削除してしまっていませんか? 従来型のマスメディアと違い、デジタルメディアは運営側が簡単にコンテンツを削除することが可能です。

一方で、デジタルメディアのコンテンツはストックしていくことができるからこそ、細かいチューニングを行い続ければ、永続的にそのコンテンツは成果を生み出していきます。

特に長い期間運営を行っているデジタルメディアほど、サーチコミュニケーションの積み重ねは重要です。過去に私が携わったメディアでは、90年代後半の記事もいまだに残っており、SEO観点でのチューニングを続けてきたことで、トータル1,000万PV以上の多大な数値を残し続けてきました。

新しいコンテンツを企画し、公開することは、多くのデジタルメディアが行っていることですが、そのコンテンツを永続的に残し続けるためには、メンテナンスのオペレーションも非常に重要です。

検索であればアルゴリズムの変化に対応したり、サイトリニューアル時にディレクトリ構造が変わるのであればリダイレクト対応を正確に行ったり、またスマホ対応を行うなど、コンテンツを資産としてメンテナンスし続けることを私は意識しています。

03. タイミングを考えたコンテンツの公開スケジュール

デジタルメディアは、いつでもサイトを更新できるからこそ、いつコンテンツを届けるかは非常に重要であると考えています。

たとえば、以前担当していたメディアでは、毎日同じ時間に記事を配信することで、読者が定期的にサイトを訪問するよう促しました。読者が期待している時間に新しい記事が公開されることで、その時間帯にサイトにアクセスすることが習慣化し、定期的な読者数が増えたと考えられます。

ただし、公開スケジュールを設定する際には、目的やターゲット層を考慮することが重要です。たとえば、ビジネスパーソンを対象にした記事の場合、平日の朝早くに公開することが効果的です。また、エンターテインメント系の記事であれば、週末の夜に公開することで、読者がゆっくりと時間を過ごすための娯楽情報を提供することができます。

最後に、公開スケジュールは常に変化し得ることを忘れてはなりません。ターゲット層や情報の性質によっては、公開時間の見直しが必要な場合があります。たとえば、特定のニュースが発生した場合は、即座に記事を公開することが望ましいでしょう。そのため、公開スケジュールは常に見直し、改善を行うことが重要です。

04. ストレスを与えないタイトルとサムネイルの設計

メディアへの信頼というのは、たった1回の失敗で崩れるものだと考えています。そのため、メディアを成長させていくためには、ユーザーが離れしまう要因を少しでも除去していくことが大切です。

その上で特に気を使うべきは、ユーザーとデジタルメディアの接点となる「タイトル」と「サムネイル」です。タイトルとサムネイルに関しては様々なテクニック論はありますが、ここでは点ではなく線での運用を考えた、ユーザーコミュニケーションの視点でお話します。

まずタイトルに関しては、まずクリックしてもらうためにも魅力的な文字列が並ぶことは大切です。しかし、やり過ぎて意図が異なっていたり、いわゆる “釣りタイトル” になってしまうと、メディアとしての信用が毀損されてしまいかねません。

また、“【】”の多用など、インパクトを持たせようとするあまり、読み手にストレスを与えてしまうようなタイトルは避けるべきだと私は考えています。

サムネイルも同様に、慎重に設計する必要があります。様々な考え方があるとは思いますが、私は極力穏便な画像によるコミュニケーションを心がけています。具体的には、虫の画像を使わない、性的な画像を用いないなどのポリシーを私は持っていて、読み手にストレスを与えないサムネイルを意識しています。

05. ユーザーに寄り添ったコンテンツ企画

最後にお伝えしたいのが、コンテンツです。そもそもコンテンツ自体がユーザーに寄り添ったものでなければ、理想のユーザーコミュニケーションは実現できません。

実際に過去に、ユーザーに寄り添ったコンテンツ企画の重要性をあらためて感じたことがありました。あるジャンルのコンテンツ特集を行っていたときのことです。

当然ながらユーザーはそのジャンルに興味があって、デジタルメディアに訪問していました。そんな中、集客に繋がるだろうと、別のジャンルのコンテンツをその特集に組み込んでしまったことがあります。

私は良かれと思って、安易にそのコンテンツを特集に組み込んでしまったのですが、結果的にその特集の閲覧数は著しく低下してしまい、慌ててそのコンテンツを外したという経験があります。

つまり、Aというジャンルに興味があるユーザーに対して、Bという別のジャンルのコンテンツを無理やり見せてしまったわけです。ユーザーに寄り添ったコンテンツ企画を行っていれば、こうした安易な企画は生まれていなかったでしょう。

このような読者離れというのは、デジタルメディアだからこそ気づくことができた事実でしたが、サイレントに読者が離れていってしまっているということは、どのデジタルメディアも起こりうることです。

そのため、小さな数字の変化であったり、ソーシャルメディア上のコメントであったりをしっかりと把握し、改善に役立てることは非常に重要だと感じています。

デジタルメディアはユーザーの反応を様々な手段で確認できるからこそ、私はデータを可視化するオペレーションから逃げてはいけないと考えています。

おわりに

コミュニケーションというのは、ひとりではできません。必ず相手が必要です。そして、相手が誰なのかによって、伝えたいことや伝え方は変わってくるでしょう。

また、つくり手はしばしば独りよがりな、自分たちがつくりたいものをつくってしまいがちだと感じています。

しかし、双方向のコミュニケーションができるデジタルメディアだからこそ、誰に届けるかをより意識することが大切であり、それが私がコンテンツよりもコミュニケーションが重要であると考える理由です。

特に従来型のマスメディアで働いていた方がデジタルメディアに移ってくると、このようなコミュニケーションの違いに気づかないまま、誰にも読まれないコンテンツを配信しているケースは少なくないように感じています。

そうした方々に対して、今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

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