広告成果をさらに飛躍させるため、私が「地道なプロダクト理解」にこだわり続ける理由
私はこれまで、大手総合通販やポータルサイトのマーケティング担当として、またデジタルマーケティング会社でのクライアント支援を通して、14年以上に渡りさまざまな広告運用に携わってきました。
その中で、担当するプロダクトやそれを取り巻く市場について、いかに理解を深め、地道に仮説立てや検証を繰り返せるかどうかが、広告の成果を大きく左右することを実感しています。
例えば、広告の成果をさらに押し上げるためには、
- 何度もリピートする商品なのか、一生に1~2回程度しか利用しない不動産のようなプロダクトなのか
- 去年と今年で、競合はどのようにプロダクトを改善し、その結果どれほど伸びているのか
- そのサービスやプロダクトについて、ユーザーは「何をする場」として認識しているのか
などを理解し、戦略や入札を細かく調整することが非常に重要だと考えています。
過去には、競合との差別化が難しく、かつ頻繁に利用されるわけではない医療系ポータルサイト(自分に最適な医療サービスを探せるサイト)のマーケティングにおいて、それらの特性をもとに戦略や運用を最適化することで、1年で売上を約500%へと成長させた経験があります。
また不動産事業の広告展開において、営業との連携を行い「セールスが受注しやすい状況を作り出すための広告露出強化」などの調整をしたこともあります。事業の収益が立ちやすい状況を構築することで、半年間で20倍以上の広告予算を取り扱うまで事業成長させることができました。
こうした成果は「地道なプロダクト理解」を徹底していたからこそ、実現できたのだと考えています。
そこで今回は、本当の意味でプロダクトを理解するとはどういうことか、またそれによって広告運用の戦い方がどう変わっていくのかを、具体例を交えて紹介していきます。
※なお、今回は話が広がりすぎないように、リスティング広告を運用する場合のみに絞ってご紹介します。
「プロダクトを深く理解する」とはどういうことか
「プロダクトを理解する」とは、単に製品の機能や価格などを正しく把握することだけではありません。
それを広告運用に活かし成果を上げるためには、より深く、以下のような観点を持つことが重要だと考えています。
- ユーザー視点で「なぜ」「どのように」使われるかを理解する
- プロダクトを取り巻く環境を正しくキャッチアップする
そのプロダクトが「なぜ」「どのように」使われるかを理解すること
プロダクトをそれ単体で見るのではなく、ユーザーにどう使われているのかを考えることが重要です。
例えば「医療サービスを探せるポータルサイト」を展開しているケースを考えてみます。
ユーザーはそのポータルサイトをどのように利用するのでしょうか。基本的には自分に最適な医療サービスやその費用が分かれば十分なので、ポータルサイトのブランドやコンセプトを確認したり、ポータルサイト自体を競合と比較したりといったことは行わないケースが多いです。
この点を理解すると、ポータルサイトの広告運用において、ブランドや競合との差別化ポイントを強く打ち出した訴求は必要なく、いかにユーザーにとって最短で情報を探せるかどうかに注力するなど、どう戦えば成果が伸びるのかが見えてきます。
また「そのプロダクトはなぜユーザーに選ばれ使われているのか」という観点も大切です。
ポータルサイトの例では、単に「真っ先に接触できたから」という理由で利用されているのかもしれませんし、何かお得なポイントが付く点に魅力を感じて利用するユーザーが多いのかもしれません。
このように、プロダクトをさまざまな観点で深く観察・分析して理解を深めることで、広告での戦い方が変わり成果を飛躍させていくことを、これまで何度も経験してきました。
そのプロダクトを取り巻く環境を正しくキャッチアップすること
競合や流行・シーズンなど、プロダクトを取り巻くあらゆる環境を正しく理解することも重要です。
私がプロダクト理解の重要性を身にしみて実感した例を紹介します。
とある総合通販事業で、「レインブーツ」という商品の広告運用を行っていました。開始した1年目は雨の日になると、いわゆる「長靴」がよく売れていました。
しかし2年目になると「レインブーツ」というキーワードの検索数自体は増えていたものの、1年目のときに売れていた長靴がまったく売れていないことに気付きました。
その原因を探るために、小売店の靴売り場を実際に回ってみたところ、2年目は単なる長靴ではなく、「レイン加工されたお洒落な靴」が競合では扱われ、ユーザーもそれを求めていることが判明したのです。
市場では「レインブーツ」という言葉の認識が、「長靴」から「雨の日にはけるお洒落な靴」になっており、競合はそれを的確にキャッチアップすることができていました。
結果、その年はどうやってもレインブーツの売れ行きを伸ばすことが難しいと判断し、無駄な配信を防ぐためにあえて雨の日には広告を減らし、従来の長靴を求めている少数のユーザーのみとコミュニケーションを取るという戦い方を選択しました。
競合のように、そのプロダクトは今どのような環境の中にいるのかを適切にキャッチアップし反映させ続けていれば、広告成果を大きく伸ばすことができていたかもしれません。
こうした経験によって、いかに地道なプロダクト理解を徹底し続けられるかどうかが、広告運用の成果を大きく分けるのだと実感しました。
3Cの観点からプロダクトを理解することが、広告成果をさらに押し上げる
ここまでの内容を踏まえて、プロダクトの理解を深めるとはどういうことか、一言でまとめると「ユーザーニーズを深掘りし解像度を高めること」だと考えています。
例えば「夏だからクーラーが売れる」というのは想像しやすいことですし、どの競合も同じ考えのもと運用を行っています。ここで重要なのは、数あるエアコンの中でも、なぜその商品が選ばれるのか、その時々でどのようなニーズが強いのかを考えることです。
仮に、ユーザーが単に涼しい部屋を求めているのではなく、外から帰ってきたばかりでもウイルスの影響を心配しなくて済む清潔な部屋を求めていることが理解できれば、「ウイルス除去の機能」をアピールするクリエイティブを制作したり、ウイルスを心配するユーザーとのコミュニケーションを考え直したりすることができます。
- 市場はどのような状態にあり、ユーザーはなぜ・どのように利用するのか
- それに対して競合はどのようなコミュニケーションを取っているのか
- 自社はそれらに対して、自分たちのサービスの良さを適切に伝えることができているのか
このような3C分析の観点から、リアルなユーザーや市場の解像度を上げ、本当の意味でプロダクトを理解すること。それが広告運用において、一定以上のさらなる成果を上げるためには重要だと考えています。
プロダクト理解を深め、広告成果を飛躍させる10の視点
3C分析の観点からプロダクトを深く理解することが、広告成果を大きく伸ばすために重要だと説明しました。
そのため私は、実際に商品の売り場に出向いてみたり、購入して使ってみたり、自社製品を使うユーザーのリアルな動きを観察してみたりといったことを日ごろから徹底しています。
では次は、具体的にどのような視点でどうプロダクトを理解するのか、それによってどう広告運用が変わっていくのか。私のこれまでの経験から重要だと感じた10の視点を説明していきます。
戦略を変える4つの視点
01.ユーザーがそのプロダクトに何を求めているのか正しく理解する
医療系ポータルサイト(自分に最適な病院やサービスを探せるサイト)のマーケティングを担当したときの例です。
冒頭でもお伝えしましたが、そのポータルサイトは競合とは取り扱う商材に大きな違いがなく、差別化する要素がほとんどありませんでした。さらに「医療機関を探せるサービス」という特性上、年に1~2回程度しか利用されず、またポータルサイト自体はサービスを探す目的で利用されるため、そのブランドを重視しているユーザーはほとんどいないことが推測されました。
実際にユーザーは、ポータルサイトの良し悪しをそこまで細かくチェックせず、最初に見つけたところを利用するケースが多いことが判明したため、「いかに競合よりも早く接触できるか」という観点での運用を行いました。
またユーザー視点に立って考えると、「数多くのサービスの中からいかに自分に最適なものを見つけられるかどうか」がそのポータルサイトに求められることだと考えられます。
そのため私は「探しやすさ」に着目し、広告のクリエイティブでの訴求に反映させたり、ポータルサイト自体の構造やトップページの見せ方の工夫を行ったりすることで、コミュニケーションを最適化していきました。
このように、ユーザーは何をそのプロダクトに求めているのか、ユーザーにとって何が重要なのかを考え抜くことで、1年で売上を約500%へと成長させることができました。
02.ユーザーは何を購入する場として認識しているのかを理解する
「日用品を購入するならこのサイトに訪れる」「安くて丈夫な洋服が欲しい時はこの店を利用する」など、ユーザーはそのプロダクトについて、何を行う場なのかを認識して利用しているケースも多いです。
自社のプロダクトが何をする場として認識されているのか(されたいのか)によって、KPIやコミュニケーションなどを見直して、より成果を伸ばせることもあります。
例えば、アパレル通販において「インナーや簡単なTシャツなどの消耗品を買う場として認識されていることが多く、そういったユーザーはリピート購入する確率が高い」ということが分かったため、インナーの購入に繋げるための広告費や目標獲得単価を上げることで、LTVを伸ばしたケースがあります。
他にも、アパレル通販で「自分の服だけではなく、家族向けの服も一緒に買う場として認識されている」という場合に、ファミリー向けの広告クリエイティブを用意することで獲得効率を高めることができたこともありました。
03.競合と自社の得意領域を明確に把握する
競合が強い領域の広告運用では「どのような条件が揃っていれば勝てるのか」を正しく理解し、その条件に当てはまる領域に絞って広告を配信していくといった戦い方が有効になります。
例えばアパレルのEC事業を行っている企業において、競合の扱うトップスが非常に認知度が高く人気商品だったとします。同じトップスの領域で真っ向勝負をしても勝ち目は薄いため、似たような商品は扱うもののあえて入札を弱めて、「色々なトップスを見てみたい」と考えているユーザーとのコミュニケーションを取りに行く、といった運用を行うこともよくあります。
なお、私はリスティング広告において、競合製品のほうが圧倒的に優位で、勝ち目がないと判断した場合は出稿自体をやめるという判断をすることもあります。無理に競合他社と直接勝負する必要はなく、自社のプロダクト価値は何で、自分たちが勝てる領域はどこであるかをしっかりと探すことが重要です。
04.競合プロダクトの状態を常に把握する
前述のレインブーツの例のように、競合がこれまでどのような運用・サービス展開をしており、今年はどう変化を加えてきたのか、その結果なぜ伸びているのか、などを把握することが重要です。
例えば、競合が商品のラインナップやサイズ展開を増やした結果売上が伸びているのであれば、その要因を深く分析し、それに合わせて自社の商品ラインナップを見直したり、サイズ展開を増やしたり、それらに伴う広告クリエイティブを制作したりすることで、成果を伸ばせる可能性があります。
逆に競合の動きを適切にキャッチアップできていないと、前述のレインブーツの例のように、気付いた時には競合にユーザーを取られてしまい、追いつけない状況になってしまうこともあります。
そのため、競合の動向は「現在」だけではなく、中長期的な観点で把握し続けることが重要です。
入札条件を変える6つの視点
05.気候・気温によるニーズの強弱を理解する
気候や気温によってニーズやユーザー行動に変化が生じるため、それに合わせて運用を変えることもあります。
例えば以前「平均気温が○度以上になったら広告クリエイティブを夏の訴求に切り替える」といった取り組みをしたこともありますし、前述のレインブーツの事例ではユーザーニーズを的確に反映した商品を提供できていなかったため、雨の日に抑制するという運用を行っていました。
他にも、総合通販で水着の広告運用を行っていた時は、夏前から検索ボリュームが増えるものの、その時点では「閲覧はするが購入はしない」というユーザーが多いことが分かりました。そのため、夏前は一定の接触を保てる程度に控えめに出稿しつつ、水着の需要が高まったタイミングで入札を強化し、一気に仕掛けていくといった運用で成果に繋げたケースもあります。
気候や気温は地域ごとに異なるため、そうした地域性(気温が変わり始めるタイミングなど)も意識しながらトライ&エラーを繰り返すことが重要です。
06.シーズンによるユーザー行動の変化を理解する
気候や気温と重複する部分もありますが、業界ごとに、シーズンによるユーザー行動の変化を捉えることも重要です。
特に分かりやすい例を挙げると、家具・家電の通販事業を行っているなら、春先に引越しをするユーザーが増え、それらの購入が盛んになることはマストで押さえておく必要があります。その時期は広告予算を増やし入札を強めたり、「新生活応援」といった広告クリエイティブを展開するなどの戦い方が考えられます。
場合によっては、「年末になるとニーズが高まるため、12月だけは広告予算を通常の10倍以上確保しておく」などの対応が必要なケースもあるでしょう。
他にも、例えばゴールデンウィークであれば、帰省ラッシュの渋滞によって退屈な時間を過ごす人が増えるため、商材によっては「暇つぶし」といったキーワードで出稿することが有効なケースも考えられます。
このようにシーズンによってユーザーの行動にどのような変化が生じるのかを観察し理解して、予算や入札・クリエイティブなどを調整していくことが重要です。
07.マーケティングの全体像や組織体制との繋がりを理解する
広告施策のみではなく、マーケティングの全体像や組織体制と広告がどう連動するのかを鑑みて、広告の入札を調整するもあります。
例えばBtoB事業において、広告でリード獲得を行い、その後セールスがオフラインで商談を行うフローの場合、エリアによってはセールス担当の数が限られていることもあります。
それにもかかわらず、他のエリアと同様に広告を配信していては、仮に獲得できたとしても営業リソースが足りず、広告費が無駄になってしまう可能性もあります。そのため、各エリアのリソースや対応できる案件数などを把握し、それに応じて広告出稿量を調整する、といった運用を行うこともあります。
また他にも、営業が行うセールストークの成約率を上げるために、広告を活用したこともあります。
サービスのマーケティングにおいて、地方での提携店舗を増やすためにセールスが尽力している際、そのエリアに対して本気で拡大を図っていることを示すために、その地域でセグメントした広告を出稿しました。営業の場で、検索結果画面で広告が表示されているのを見せ本気度を伝えることで、セールストークの成約率向上を実現することができました。
08.ニュース・番組によるニーズの発生をキャッチアップする
自社プロダクトについて、またはプロダクトに関する話題がニュースやテレビ番組などで取り上げられると、関連するキーワードでの検索が急増するケースも多いです。最近であれば、SNSでバズが起こると、検索流入が増えるといったこともあります。
特定の検索クエリが急激に伸びている場合、入札を強化するだけではなく、SNSで検索を行ったり、キッカケとなったニュースがないかを地道に調査したりして、どのようなコミュニケーションが最適なのかを考えるようにしています。
例えば過去に、「有名人が大きな病気になった」というニュースが流れた際に、ユーザーが自分ごと化して保険の検討が増えたことがあります。それに対して入札を強めるだけではなく、ニュース内容に応じて、ユーザーはどのような動機・ニーズを持って検索するのかを汲み取り、クリエイティブに反映させ成果を伸ばしたこともあります。
また、そうしたチャンスを見逃さないよう、時には番組表を毎日チェックして関連しそうな番組を事前に把握し、いち早く運用に活かせるよう備えておくこともあります。
09.景気動向によるニーズの高まりを理解する
過去に証券口座の新規開設を目的とした、広告運用を担当したことがありました。
日経平均株価と円ドル相場を毎日チェックし、CVRとの相関関係を見ていた結果、あるしきい値を越えたときにCVRが高まることがわかりました。そこで、そのタイミングだけ広告予算を追加することで、コンバージョン数を増やすことに成功したのです。
前述のニュース・番組にも関連することですが、広告運用で大きな成果を上げるには、このような地道な情報収集を日々続け、その都度細かな調整を行うことも重要だと考えています。
10.流行・トレンドワードを的確にキャッチアップする
広告運用担当者は、今何が流行っているのか、今どのような言葉が使われているのかを常に掴み続けることが重要です。
例えばその業界の雑誌を定期的に確認し、今どのような言葉が流行っているのかをもとにクリエイティブを更新し続けます。「プチプラ」「楽かわ」といった、雑誌でよく使われているワードを使用した訴求に切り替えてみるなど、細かな調整を行っていきます。
また流行に敏感なユーザーだけではなく、「流行を気にしないユーザー」に対してどうコミュニケーションを取るのかを考えることも重要です。
前述のレインブーツの例のように、その時の最先端の市場が求めているものと自社の商品が食い違っているため、雨の日に入札を弱めて従来の長靴を求めているユーザーとだけコミュニケーションを取りに行くよう、調整したこともあります。
その他の例では、過去に「バンドビキニ」という、通常とは少し異なった形状のビキニが若い世代で流行ったことがありました。私が広告運用を担当していた通販事業ではバンドビキニを扱っていなかったため、若い世代へアプローチしても大きな効果は見込めません。
そこでクリエイティブで「体型補正」といった訴求を行うことで、流行を気にしないユーザーとコミュニケーションを取ることに成功したケースがあります。
あらゆる観点からプロダクトを理解し、地道な最適化を繰り返す
今回紹介したこのように広告運用では、ユーザー・競合・自社について、あらゆる角度からリサーチや分析を地道に行うことで、成果が大きく飛躍していくと考えています。
それは広告の管理画面から分かることだけではなく、実際に現場を見て回ったり、リアルなユーザーを観察したり、日々の情報収集を徹底したりと、地道な作業の繰り返しです。
私はよくクライアントに「広告の最適化に、最短ルートはありません」と伝えています。
今回紹介したような観点から、どうすればプロダクトをより伸ばしていけるのかを考え続け、それら一つ一つを検証し続けるといった遠回りに見えるルートこそが、成果を最大化するためには大切だと考えています。
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