会社のXを擬人化した理由
THE MOLTSの寺倉です。
公式X(旧Twitter)アカウントについてご報告させていただきます。
THE MOLTSでは、運用していた公式アカウントを実験的に「擬人化」する取り組みをおこなっていました。

※自己紹介として公開した投稿は、モデル本人と話し合った結果、画像を活用しないことになりましたので削除させていただきました
先日私のアカウントにて、この擬人化の背景や目的を綴った投稿をおこなったところ、さまざまなご意見をいただきました。そして、たくさんの方にご心配いただいたり、一部の方を悲しい気持ちにさせてしまったりしました。
はじめに、不愉快な気持ちにさせてしまった人がいることに対して謝罪いたします。そして、ご迷惑とご心配をかけた方々にもあわせてお詫び申し上げます。
ポジティブな意見とネガティブな意見、それぞれいただきました。自身の未熟さに悔しい気持ちや悲しい気持ちが生まれ、いろんな感情が錯綜し、この記事を出すまでに数日かかってしまいました。
不愉快な気持ちにさせてしまった方々に対して、ご報告までお時間をいただいてしまい申し訳ありません。
ここから、なぜ擬人化したのか、どういうプロセスだったのか、いただいたご意見についてどう考えているのかを、きちんと説明しようと思います。
なかなか簡潔に説明できず、長文になりますことをはじめにお詫び申し上げます。
なぜ、擬人化しようと思ったのか
THE MOLTSは、デジタルマーケティングカンパニーとしてマーケティング支援事業と自社サービス事業をおこなっています。マーケティング支援事業は、おかげさまでお問合せやご相談を多くいただいており、創業以来、特別に営業をせずとも、反響が反響を呼びこれまでやってくることができました。
そんな会社ではありますが、2023年1月、これまで取り組んでこなかったXを活用したコミュニケーションに挑戦しようと、法人の公式アカウントを開設しました。もともとはメンバーが業務の合間にゆるやかに運用しておりましたが、「もっと活用してみよう」ということで、2023年9月より少額ながら予算をつけてやってみることにしました。
THE MOLTSを深く理解できていることが重要であったため、Xの運用は、これまで長い付き合いのある方に副業で依頼をさせていただくことにしました。
開始して1か月ほど経過したタイミングで振り返りをおこなったところ、その方のパフォーマンスはすばらしく、初月としてはよい数値になりました。
しかしながら、投稿内容の決定にどうしても時間がかかってしまい、「投稿件数を増やすのが難しい」「なかなか綺麗に前に進めず、担当者の成長スピードが遅れてしまう」という課題に直面しました。この課題はXに始まったことではなく、過去、記事コンテンツ等を用いた情報発信でも同じような課題が発生していました。
弊社はデジタルマーケティング領域のあらゆるプロフェッショナルを中心に採用していることもあり、以下の2つの特徴があります。
- 1領域でなく、さまざまな支援領域がある
- 属人性を肯定しており、クライアントに成果を提供することを大事にしている
本にも書いていない、検索しても出てこないような、さまざまな領域における成果創出のプロセス・アイデア・考えをコンテンツに落とし込まなければならず、それらを理解するためにはかなりの時間がかかります。また、1領域ではなく、複数領域を満遍なく投稿することで我々のあり方を伝える必要があるため、運用担当者の学習スピードは落ちる一方でした。
実際には、企画・切り口をヒアリングして決め、取材し、確認を2度3度おこない、OKが出たらデザイナーに依頼する、という流れを組んでいました。裏では20以上のアイデアが出ていましたが、なかなかFIXまで持っていくことができていなかったのが実情で、今のままではXに企画1つを投稿するのにに2〜4週間もかかってしまう状況でした。
また、このままだと時間がかかってしまう以上に、運用側もヒアリングされる側も疲弊してしまう懸念がありました。
ただ、コーポレートサイトや公式アカウントから発信する以上、きちんとしたものを出したい。それは、THE MOLTSをみなさんに正しく理解していただきたいからです。
そのため、ちょっと発想を変えてみて、「アウトプット元がコーポレートサイトや公式アカウントでなく、“若手マーケター” の個人アカウントという構図にすれば、完成されたアウトプットではなく、学習中の内容をアウトプットする見え方が作れて、社としての情報発信に対して心理的かつクオリティのハードルを下げられるのではないか」「運用者の現状と近しい構造にすれば、運用側もヒアリングされる側も動きやすいのではないか」というアイデアが出ました。
また、当初よりX運用についてさまざまな人にアドバイスをもらっておりましたが、「人感が大事」と聞いていました。これについて、どこかで実験したいと思っていました。
この2つが重なり、公式アカウントを擬人化するという実験をすることにしました。
どういうプロセスで擬人化したのか
どういうプロセスで擬人化に至ったのかを説明する前に、大事な点についてお伝えします。今回のご意見のなかには、ジェンダーにまつわる内容がありました。
私の意図したことからずれて伝わってしまいましたが、これは私がジェンダーバイアスを深く理解していなかったことが原因です。そのため、多くのご意見をいただく結果になりました。
ここから100%偽りのないプロセスを、できる限りしっかりと説明します。
以下に書き記す内容は、Xの運用に関わっていた2名(先ほどご紹介したX運用を副業で受けてくれている方・XのDMを使って採用候補者とやりとりしていた弊社のリクルーター)に見ていただき「認識に齟齬はありません」と確認してもらった内容になります。
擬人化するまでの流れ
条件設定
前提として、「若手マーケターが学びながら発信する」という設定は確定していました。そのうえで、現状メインでXを活用していた運用者・リクルーターがどちらも女性であったため、特に深い意図はなく、ただ運用をしやすいように、擬人化するキャラクターを女性に決めました。
擬人化画像の撮影
アイコンをどうしようかと考えたとき、AI・キャラクター・実物の3択がありました。リクルーターに相談してみたところ、「従姉妹にモデルになってくれそうな子がいるため聞いてみる」という話になり、確認したところ前向きな返答をいただけました。
一度面談してみたところ、とてもよい方であり、おこないたいことやリスクを説明したうえで承諾いただけたので、撮影料や使用料を毎月定額でお支払いする契約で、モデルとして正式に依頼することにいたしました。
何名も候補者がいたということはなく、声をかけさせていただいたのはその方だけです。
また、撮影の際には、人感を出すべく、いつも通りの服で、自然に会話している写真を撮りました。
プロフィールの設定は、撮影に立ち会った私とリクルーターと2人で本人にヒアリングをしながら決めていきました。くわえて、弊社のゆかりのある事柄から発想して「鳥居ミレイ」という名前を考えました。
アカウントの差し替えと、趣旨の説明投稿
準備が整ったため、2023年10月23日にXアカウントを「THE MOLTSのひと」から「鳥居ミレイ|THE MOLTS 広報」へ切り替えました。
擬人化にあたり、運用メンバーには事前に以下を注意していました。
- 周りのみなさんに「実在する人物かと思った、ダマされた」と思わせないこと
- モデルになってくれた方に、変な被害が及ばないようにすること
なので、プロフィールにはその説明を入れて、私からも「あくまで鳥居ミレイという人物は実在しない」「複数人で運用している」ことを投稿しました。
その投稿が、こちらです。
この内容は、投稿する前に一度Xの運用者に確認と、読みやすさの調整をおこなってもらっていました。
結果として、さまざまなご意見をいただくことになりました。
いただいたご意見について
投稿した当初、ポジティブな声も多くいただきましたが、リーチが伸びるにつれて、さまざまなご意見をいただくようになりました。
ご意見は大きく分けて3タイプありました。
- ジェンダーを売りにして成果を出そうとするのはよくない
- ブランディング / 顧客との信頼関係を構築するという点で擬人化はよくない
- 実在するモデルに頼む、AIを使う、または従姉妹に頼むのはよくない
ここに書けていないご意見も数多くいただいていますが、特に多かったこの3つについて、ひとつずつ回答させていただきます。
ジェンダーを売りにして成果を出そうとするのはよくない
まったく意図は違えど、若い女性の顔を使って投稿ハードルを下げる = 無知でも許される役割 を担わせる構造自体が、
- マーケティング支援会社の施策である以上、若い女性を好意的に受け止める層をターゲットにして、意図的に作られたように見える
- 男性のための営業ツールとして、若い女性を利用している構図に見える。それに嫌悪感を示す層は潜在的に多そう
と投稿に違和感をもった昔からの友人に指摘いただき、モデルを使うリスクや事例、X運用のアドバイスをもらいました。その方は、丁寧に、すぐに情報をまとめてくれて、友人として本当にありがたく思っています。
前述したプロセスと重複しますが、
- 若い女性を売りにしようという思考をまったく持っていなかった
- ただただ、アウトプットの内容を変えていこうと思っていただけだった
- 私と一緒に動いていたX運用者、モデルの方も上記のような意図をまったく持っていなかった
というのが実情です。
今回の企画は、よりよいアウトプットをおこなうために若手マーケターという設定にした、そして、たまたま運用者が女性だったので、女性の設定にした、というのが真実です。
本件に関しては私の担当領域のため、全責任を追っています。私のジェンダーに対する認識の甘さ、ジェンダーバイアスを理解できていなかったせいで誤解を招き、意図とは違えど、構造を作ってしまったことに対して、不快な思いをさせてしまった方々がいたことにお詫びいたします。
本当に、申し訳ございませんでした。
ブランディング / 顧客との信頼関係を構築するという点で擬人化はよくない
信頼関係という観点において、お考えを提示してくださった方々もいらっしゃいました。
投稿を見ていて、とても学びになりました。そのうえで、私なりの考えもお伝えします。
私は、公式アカウントを擬人化することで、顧客やステークホルダーとの信頼関係が崩れるとは、いまも思っていません。
なぜなら、THE MOLTSのようなBtoB支援事業においては
- クライアントになにを提供するのか示せたか
- そのうえで、きちんと提供すべきことができたのか
この2つが信頼関係を作るうえでもっとも重要なことだと思っているからです。また、こうした実績の積み重ねをもって、市場・ターゲットとどうコミュニケーションをとっていくのかも、信頼関係の構築、および新しい機会の創出のためには大切なことだと思っています。
なので、Xの擬人化によって顧客やステークホルダーとの信頼関係が崩れてしまうこともあるかもしれませんが、擬人化することでより良いアウトプットにつながっていくのであれば、そのほうがより信頼関係の構築につながることもあるのでは、と思っています。
今回擬人化しようとした理由は、市場・ターゲットとよりよいコミュニケーションを、中長期的な視点でおこなっていくためです。公式アカウントによる情報発信から、「若手マーケターが学びながら発信するアカウント」へコンセプトを移行することで、弊社から発信できる情報の量が増やせ、運用担当者の学びと育成が加速し、よりTHE MOLTSらしい有益な情報を中長期的な視点を持ってお届けできると考え、この取り組みを進めることにしました。
そのため私は、擬人化自体に悪い印象をもっていません。
ただし、あくまで実験をしようとしていた最中であり、BtoCでもBtoBのプロダクトでもなく「BtoBの支援領域においてどうあるべきか」は私がこれまで経験してきたなかでの考えです。そのため、もしお時間がありましたら、今回ご意見をくださった方とどこかでディスカッションさせていただけると嬉しいです。とても学びになりましたし、改めて私が考えていることが整理できました。
本当にありがとうございます。
実在するモデルに頼む、または従姉妹に頼むのはよくない
もともと、AI・キャラクター・実在モデルという3つの選択肢がありましたが、「人感が弱くなることを避けたい」という理由から、私が実在するモデルにこだわってしまいました。
モデルを頼むにあたり、
- 弊社リクルーターに相談をして従姉妹を紹介してもらった
- 目的とリスクを説明した
- その上で承諾してくださった
- 撮影料と使用料を支払うモデル契約をおこなった
というプロセスを経ています。
ただし今回の状況を受けて、モデルの方には、リクルーターと私の3人の場を設けて、改めて説明の時間をいただきました。そのうえで、
- 目的とまったく異なるところでさまざまな意見が飛び交っている
- ジェンダー問題に対してご意見いただくことは想像していたリスクとまったく違った
ということで、お互いに話し合い、掲載を止めることにしました。
ひとえに、私の説明が足りず、かつ認識が甘すぎました。モデルの方に深くお詫び申し上げます。二次的な被害が起きることのないよう、今後も定期的に連絡をとらせていただくことになっています。
今後どのようにアカウントを運用していくのか
さまざまなご意見を踏まえ、今後は以下のように運用していきます。
- 擬人化はそのままに、運用準備が整い次第再開する
- 擬人化のキャラを、未経験からIT/Web業界に飛び込んだ10年前の私寺倉にする
本意思決定の理由
この意思決定に至った理由をお伝えします。
私たちが何をしたかったのかは、運用内容を見てもらうしかない
今回たくさんのご意見をいただきましたが、多くの方に伝わっていなかったことがあります。それは、我々が何をしたかったのか、です。
純粋に、アウトプットできるものを増やして、市場・ターゲットとより多くのコミュニケーションをとれるようにすることが重要でした。それを、擬人化という手法を用いることでどう変えることができるのか、という実験をしたかった。
「公式としてのアウトプットでなく、学びをアウトプットする」
前述したとおり、もともとはその変化を生み出すためのアイデアでした。
言い訳や釈明というわけではなく、その変化を理解していただくには運用期間が必要ですし、運用を見ていただくことで、我々が何をしたかったのかが伝わると思います。
ただ、我々が何をしたかったのかが伝わらないで終わることは、私たちのためにも、不愉快にさせてしまった方々に対しても、そして、これから新しいチャレンジをしようと試みている同業の方々にとってもよくないなと思いました。
もちろん、おかしな点があればいつでもご指摘ください。ただ私たちは今の考えをもって実験を続けていきたいと考えています。
性別にこだわる理由はない
若い女性を起用することで、不愉快な気持ちにさせてしまった方々がいたという事実に対して、謝罪以外の言葉はありません。
本件における事実は以下のとおりです。
- 若い女性を起用することでX上の数値を高めようと思っていない
- くわえて、その施策で業績が高まるとも思っていない
- 純粋に良いアウトプットが中長期的にわたって出せるようになることを望んでいた
- 女性をアサインした理由は運用者が女性だったためであり、こだわっていない
しかし、結果として不愉快にさせてしまった方々がいたので、女性の起用はやめることにしました。
ただ、繰り返しになってしまいますが、もともとAIやキャラクターでの運用よりも、より人感を出すために「実在する人物」にこだわりたかった背景があります。
いろいろと思案し、多くの方とブレストさせてもらった結果、私がまったくの未経験からIT・Web業界に飛び込んだ当時の写真を使うことが最良では?と考えました。
当時の私は、元職人だったということもありIT・Webの知見はほぼゼロでした。Googleアナリティクスも、メディアも、ましてやマーケティングなんてまったくわからなかったですし、その私が学びながらアウトプットするというのは、過去たしかに実在した人物であるからこそ、運用者にとっても、内容を確認する立場である現在の私にとっても、非常にイメージがしやすい人物像です。今回の意図にもハマります。
決してふざけているわけでなく、目的や意図に沿う最良な答えだと思っています。なので、THE MOLTSの公式アカウントは、当時の私の設定で、学んだものをアウトプットするような運用をおこないたいと思います。
今アカウントを閉じたり、元に戻すという選択は素直に良くないと思った
今回の件で、とても感情が揺れました。本当に、不愉快にさせてしまった方々に、モデルの方に、近しい関係者の方に、現在私たちを信頼してくださっているクライアントに、そして、メンバーに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
まだ運用を始めたばかりでしたし、Xがなくても多くのご相談をいただいていた背景があったため、正直やめたほうがいいのでは、元に戻すほうがいいのでは、と思っていました。
ただ、それはあらゆることから逃げることだと思いました。純粋に楽をしたいだけだと思いました。
もしここで、辞めたり、戻したりすると、私や運用者は多分これから同じような体験をした方やメンバーに対して、「なにか言われたら取り下げたり戻したりして謝ろう」としか言えなくなってしまう。または、そういう捉え方をしてしまう。
ただ、本心として、「おこなおうとしていたことに不純がなく、純粋な目的だったのであれば、挑戦するべきでは」と言えた方がみんなに対して良いかと思いました。
そのため、なにがよくて、なにが悪かったのかを改めて整理した上で、THE MOLTSとしてどうあるべきかを決めた次第です。
これら3つが、冒頭に説明した以下の意思決定になった理由です。
- 擬人化はそのままに、運用準備が整い次第再開する
- 擬人化のキャラを、未経験からIT/Web業界に飛び込んだ10年前の私寺倉にする
最後に
まずは、モデルになってくれた方に対して、深くお詫び申し上げます。
ならびに、不愉快な気持ちにさせてしまった方々、またご心配とご迷惑をおかけした方々、本当に申し訳ございませんでした。
ポジティブな意見もネガティブな意見も、私が見える範囲はすべて拝見しました。
ご意見いただけたこと、考えをぶつけてくださったこと、本当にありがとうございます。
多くの人にご迷惑をかけたことを反省しながら、さまざまな視点を持つべきだな、まだまだ学ぶことがたくさんあるな、と心から感じています。
改めて言わせてください。申し訳ございませんでした。
準備が出来次第、X公式アカウントは再出発させていただきます。今回多くの方にご迷惑をおかけしましたが、その方々にも応援してもらえるように、擬人化したXの運用を頑張っていきたいと思っておりますので、もしよければ、お時間ある時にぜひのぞいてみてください。
ただ、最初にお伝えしていた通り、あくまで今回の取り組みは実験です。3ヶ月後、6ヶ月後には公式アカウントに戻していることもあるかと思います。その点は、お許しください。
ここまで長文を読んでいただきまして、誠にありがとうございました。
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