なぜあの人は、提案からの受注率が80%を超えるのか

弊社(デジタルマーケティング支援会社)には、企業規模や予算、プロジェクト内容に関係なく「提案からの受注率が80%以上」とやたら負け知らずのメンバーがいます。これは全社平均40〜50%を大きく上回る数字です。

なぜこんなにも受注率が高いのか。その謎を解明すべく、当人であるコンサルタントに「ふだんどのように商談へ臨んでいるのか」を聞いてみました。

……先にお伝えしておきますと、“営業のテクニック” としてではなく、“商談への向き合い方” の一例としてお読みいただければ幸いです。

そもそも、受注しようと思っていない。

Q. 一般的な営業担当との違いはどこにあると思いますか?

A. そもそも「受注しよう」と思ってない。

クライアントの事業成長に対して価値あるものだけ提案する、ないと思ったら提案しない。自社が最善の選択肢ではない場合は、パートナー会社をガンガン紹介するし、初回ヒアリング時にそもそも違うと感じたら「やめたほうがいい」と率直に言う。この姿勢をブラさないことをなによりも大切にしている。

これがブレてしまうと、受注したとてプロジェクトに本気で向き合えないし、パフォーマンスも出ない。1案件でも2案件でも妥協してしまうと、それらが積み重なっていずれはスタンスが崩れてしまうのがこわい。だからある意味 、自分を守るためにも徹底している。

「クライアントに成果を提供する」というスタンスさえ理解してもらえれば、たとえ受注につながらなくとも、“どんな場面だったら私が役に立てるのか” が伝わる。こうなれば、なにか困ったことがあったときに声がかかり、次なる案件につながることが多い。

たとえば、(特定されないように少し内容を編集してお伝えするが)ある大手企業から「リブランディングのためにコーポレートサイトをリニューアルしたい」と相談を受けた。

いざRFPをみてヒアリングしてみると、リブランディングの目的がバラけていたり、企業戦略に紐づいていなかったり、関係部署の連携がしっかり取れていなかったり。「サイトをリニューアルすれば、自然と目的は達成される」と考えられていた節があった。

そこで私は、「まずは情報を再整理。全体を巻き込みながら、リニューアル後の戦略や体制まで描いたうえで、2ヶ月かけてRFPを一緒に作る」ことを提案した。リブランディングやサイトリニューアルはあくまで成果を獲得する、意図した結果を生み出すための手段であり、公開してようやくスタートラインに立てるものだからだ。

残念ながらさまざまな理由があり失注となったが、このやり取りを通じて「視点がクリアになった」とおおいに感謝されたり、「THE MOLTSさんに発注する理由とタイミングが明確に理解できた」と言ってもらえたりしている。

このように、失注したとしても、お断りすることになっても、将来的に新たな機会創出につながれば、それは負けではない。受注したら勝ち、失注したら負けでなく、私はずっと、「負けない営業」をやっている感覚でいる。

なにも最初から受注率が高かったわけでなく、この日々の積み重ねで今に至る。

紹介料を受け取らず、最適なパートナーをどんどん紹介する。

Q. 商談からの受注率が80%を超えるための秘訣を教えてください。

A. 受注率が高いのは結果論でしかないが、前述のスタンスをとっているがゆえにそもそも「ヒアリングはするが提案しない率」が高い。相談いただいた案件のうち、30〜40%は提案していない。別の手段・パートナーのほうがいい、そもそもやめたほうがいいと思うことは、しっかりと伝えるようにしている。

たとえ年間相当額のコンサルティング案件であったとしても、誰もが知っている超大手企業からの相談だったとしても、そもそも意味がない、自分たちが最適でないと感じたら提案をしない。

「クライアントを選んでいる」のではなく、プロとして、違う道が最適だとしたらそちらへ誘導している。

だから、ただ「お引き受けできません」「提案しません」で終わることはない。なぜやらないほうがいいのか、なぜ自分よりもこちらのパートナーが最適なのか、必ず伝えるようにしている。

ちなみに最近は、あまりにたくさん案件を紹介しているせいか、パートナー会社から「ぜひ紹介料を払わせてください」と言われる機会が増えた。ただ、絶対に受け取らない。

紹介料目的ではなく、あくまでクライアントの成果創出のためにバトンを渡しているので、「お金はいらないのでパフォーマンスが出たらみんなで飲みにいきましょう」「その紹介料はクライアントへの価値提供に、見積もり以外であててください」といつも伝えていて。

目先のお金よりも、みんながWin-Winになるようにしたほうが気持ちいいし、次につながる確率が上がると信じている。

「提案書」ではなく「プロジェクト設計書」を一緒に作る。

Q. いざ初回ヒアリングをする際、どんなことを心がけていますか?

A. もっとも重要なのは、「ミッション(その期間で何を成し遂げるのか)」の設定。ミッションが定まらなければ、具体的になにをするのかが決まらず、プロジェクトが始まらない

ミッションの設定は、基本的にクライアントの「やりたいこと」をあまり聞かないことがポイント。クライアントのやりたいことを起点に考えていくと、手段が目的化してしまう可能性が高まる。まずはミッションを定めることから、これを徹底する。

ヒアリングでは、相談をいただいた背景、たとえば「課題はなにか」「なぜその課題にぶつかっているのか」「どのような文脈でその課題が生まれたのか」「なぜそれをやろうと思ったのか」などを根掘り葉掘り聞く。そこから「自分がその会社の責任者だったらどうするか?」という視点にたち、所感をぶつけながらミッションを固めていく。

ミッションが定まれば、「(クライアントが)やりたいこと」が「(ミッションに沿って)やるべきこと」に変わる。このwantをmustに変えることが重要。当初クライアントがやろうとしていたこととは、異なるアプローチを提案することが多々ある。

ちなみに、ある時から「提案書」はあえて「プロジェクト設計書」と呼ぶようにしている。

ミッションを達成するためには、クライアントが上、パートナーが下の関係性でなく、ミッション達成に向けた協働体系が作れるか、クライアントとチームになれるかがポイントだと思っている。

だからこそ「この内容をこの金額でどうでしょうか(提案)」ではなく、「ミッション達成のために、このプロジェクトを一緒にやりませんか?(お誘い)」というコミュニケーションに、受注前から切り替えたほうがいいのでは? と思い立った。こちらに切り替えてからより良くなったと感じているので、このスタイルを続けている。

また、プロジェクトはクライアントとともに作り上げるものだからこそ、プロジェクト設計書はあえて7割程度の完成度で一度ぶつける。方向性が合えば再度打ち合わせをし、フィードバックをもらったり詳細を詰めたりする。そのうえで、100%の完成度のプロジェクト設計書を提案書の代わりに提出し、それで発注してもらうかどうかを決めていただく。

こうした、発注いただく前段階からの「これならミッションに向かってお互いに動けるね」と認識を高めていくプロセスに価値があると思っている。

クライアントの事業成長に向き合えば、新規営業コストは下がる。

……いかがでしたでしょうか。

ちょっと独特すぎて、すぐに取り入れて活かすのはなかなか難しそうだな……と思っています(苦笑)。

「クライアントの事業成長に対して価値あるものだけ売る、ないものは売らない」というスタンスは、一見すると「新規営業コストが高い」ように感じます。しかし彼曰く「日々の積み重ねが確度の高い引き合いを増やしたり、プロジェクトの長期化を生み出すわけで、中長期的に見れば新規営業コストは極端に下がる」とのこと。

また、「新人だとなかなか実践できないのではないか?」と重ねて聞いてみると、「当たり前だが、率が低ければ数をやればいい。また、数がないと嘆くのはおかしい。なぜなら我々の会社はデジタルマーケティングの会社であり、その数を提供するのが仕事の一つでもあるのだから」という回答をもらいました。

当記事で紹介したスタイルは、どの会社においても最適であるとは決して思いませんが、一つのあり方として参考になれば幸いです。

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