迷走していたサイトメッセージが一瞬で決まった視点切り替え
あるBtoB企業で、Webサイトのリニューアルの支援を進めていたとき、メッセージを決めるフェーズで想定より時間がかかったことがあった。
クライアント企業の担当者は、満足度調査、競合調査など、丁寧に準備を進めていた。伝えたいことが次々に増えていき、なかなか決めきれない。「この調査結果も伝えたい」「この実績も大事」「この技術力も知ってもらいたい」。丁寧に準備すればするほど、選択肢が増えて、どこを軸に絞り込めばいいか分からなくなっていった。
「メッセージが決めきれなくて」とクライアントから相談を受けた先輩が、どんな問いを立ててメッセージを考えているか確認したところ、ある共通点に気づいた。問いの主語が、全部「自分たち」になっていたのだ。「自分たちの強みは何か」「自分たちの価値は何か」「自分たちはどう見られたいか」。
決めきれなかった原因は、「自分たち」のことばかり見ているところにあった。
「自分たち」だけを見ていると、伝えたいことが増えていく
先輩は、この「自分たちのことばかり見ている」状態を、「ひとりごと」という言葉で例えて教えてくれた。誰にでも起こりうることで、特に、サービスに思い入れがあったり、お客様のために一生懸命考えたりするほど、そうなりやすい。
その担当者も、まさにそういう人だった。お客様のために特に一生懸命働く人で、多くのお客様の声を直接聞いてサービスを改善し、現場に寄り添って成果を出してきた。困っている人の役に立ちたい。だからこそもっと多くのお客様にこのサービスを知ってもらいたいという思いが強かった。
メッセージを決めるために、満足度調査を実施し、顧客の声を集め、自社の強みを洗い出し、競合も研究した。それらを見返していくと、伝えたいことがたくさん見えてくる。この調査結果も伝えたい、この実績も知ってもらいたい、この技術力も、この受賞歴も、このチームの姿勢も、すべてお客様にとって安心材料になるはずだ。積み上げてきたものを一つひとつ思い出すたびに、伝えたい情報が増えていった。
でも、全部入れるとメッセージがぼやけてしまう。削ろうとしても、どこを軸に絞り込めばいいか分からない。丁寧に準備すればするほど、選択肢が増えて迷ってしまう。結果として、メッセージの作成に想定より時間がかかっていた。
なぜ、顧客理解をしていても「ひとりごと」になってしまうのか
ここで、ひとつ疑問が浮かぶ。この担当者は、顧客理解が大事だと知っていたし、満足度調査もしていた。それなのに、なぜ「ひとりごと」になってしまうのか。先輩は、誰でも陥りやすい2つの理由があると教えてくれた。
1つ目は、データを「自分たち」を知るためだけに使っていたこと。
満足度調査のデータを見るとき、この担当者は「自分たちのどの強みが評価されているか」を考えていた。競合調査をするときも、「自分たちのどの差別化ポイントを伝えるべきか」を考えていた。
データから自分たちの強みを知ること自体は、もちろん大切だ。でも、メッセージを作るときは、もう一つの視点が必要になる。
「お客様は何を求めているのか」「どんな課題を解決したいのか」。
同じデータでも、問いの主語が「自分たち」だけになっていると、相手のニーズを基準にするのではなく、自分たちの持っている強みを基準に選んでしまう。そうすると、相手に届くメッセージになりにくい。
2つ目は、自分のことは誰でも客観視しにくいこと。
先輩は、あるプロのデザイン会社の例を挙げた。その会社は、クライアントのために優れたWebサイトを作ってきた実績がある。でも、自社サイトをリニューアルするときは、外部の制作会社に依頼した。
プロなのに、なぜ外部に頼むのか。先輩によれば、「自分たちでやっていると、自分たちがどう見えているかが分かりにくくなる」からだ。プロであっても、自分のことになると客観的に見ることが難しくなる。近すぎて、ピントが合わなくなってしまう。だから、外部の視点が必要になる。
これは、スキルや知識があるかどうかではなく、誰にでも起こりうることだ。お客様のことを一生懸命考えているつもりでも、気づかないうちにメッセージが「ひとりごと」になってしまう。
では、どうすれば「ひとりごと」を避けられるのか。先輩は、「伝える」と「伝わる」の違いを意識することが大切だと話してくれた。
「伝える」と「伝わる」の違い
「伝える」は、自分が言いたいことを言うこと。「伝わる」は、相手にとって価値があり、心に届くこと。自分が「伝えたい」と思う情報と、相手が「知りたい」「必要としている」情報は、必ずしも一致しないことがある。
一生懸命考えているときほど、つい全部書きたくなってしまう。でも、全部書いたからといって、すべてが伝わるわけではない。
たとえば、Webサイトに「丁寧で迅速な対応」と書いてあっても、実際に問い合わせた時の対応が雑で遅ければ、伝わらない。どれだけテキストで「伝えよう」としても、実態が伴っていなければ、相手には届かない。
逆に、「丁寧です」と書いていなくても、本当に丁寧な対応をしていれば、自然と伝わる。迅速なレスポンス、細やかな配慮、誠実な姿勢。そういったものは、すべてをテキストにして宣言しなくても、相手に届く。
相手を知ると、判断基準ができる
実態を磨いていくことは、もちろん大切だ。でも、もう一つ、伝わるメッセージを作るために必要なことがある。それは、相手を知り、相手の目線で考えることだ。
先輩は、プレゼントを選ぶときのことを例に挙げて説明してくれた。
誰かにプレゼントを渡すとき、相手のことを知っているかどうかで、メッセージが変わってくる。
自分視点:
「これ、すごく良いと思って選んだから、使ってみて」
相手視点:
「一人暮らしで忙しそうだから、手軽に使えるものを選んでみたよ」
前者は自分が「良いと思った」という話だが、後者は相手の状況を理解した上での言葉になっている。どこに住んでいるか、どんな生活をしているか、何を大事にしているか。相手のことを知っていれば、「これは喜んでもらえそう」「これは負担になりそう」が自然と分かるから、何を選んで、どう伝えるかを判断できるようになる。
ビジネスのメッセージも同じだ。相手の目線で見ると、「これは必要」「これは優先度が低い」が見えてくる。判断基準ができるから、決められるようになる。
冒頭のWebサイトリニューアルも、相手の目線に立つことで解決した。すでにあるデータを「自分たちのどの強みが評価されているか?」ではなく、「ターゲットは何を求めているのか?」という違う問いで見直してみた。
そうすると、相手が何を求めているかが見えてきて、最適なメッセージが自然と浮かんできた。データを一から集め直す必要はなく、問いを変えるだけで判断基準ができ、メッセージが決まった。
「ひとりごと」に気づくためのセルフチェック
この話を聞いてから、メッセージを考えるとき「ひとりごとになっていないか」を意識するようになった。自分では気づきにくいからこそ、立ち止まってチェックする。
先輩から教わった視点を参考に、自分なりのチェックポイントをまとめてみた。
1. 問いの主語を確認する
メッセージを考えるとき、メモや資料を見返してみる。そこに書いてある問いが、「自分たちの強みは?」「自分たちの価値は?」だけになっていないか。もしそうなら、横に「相手は何を求めているか?」「相手の悩みは何か?」という問いも並べて書いてみる。両方の問いを見比べると、視点のバランスが見える。
2. 相手の立場で読み直してみる
書いたメッセージを、ターゲットになりきって読み直してみる。その人の1日、抱えている悩み、置かれている状況を具体的に想像してから読むと、「この情報は、その人にとって必要か」「これを読んで、何か行動したくなるか」が見えてくる。
3. 第三者に読んでもらう
自分だけで考えていると、客観的に見られなくなる。同僚や友人に読んでもらって、「これを読んで、何が伝わった?」と聞いてみる。自分が伝えたかったことと、相手が受け取ったことのズレに気づくことができる。外部の視点があると、「ひとりごと」になっていることに気づきやすい。
誰でも「ひとりごと」になることはある。むしろ、真面目に取り組んでいるほど、自然と自分視点になってしまう。でも、問いの主語を変えるだけで、見え方が変わって判断基準ができる。次にメッセージを考えるときは、まず「相手は何を求めているか?」から始めてみたい。
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