「ターゲットの解像度が低い」ときは、相手を親友だと思って考えてみる
「ターゲット理解がまだまだ浅い」。
企画を出すたび、上司からの指摘は同じだった。
「年齢層は30~40代、職種はマーケター、興味があるのは広告運用領域、悩みは……」といった具合に、それなりに考えているつもりだった。でも、どうやら私の「ターゲット理解」はまだまだ浅いらしい。
何が足りないのか。どうすれば「深い理解」ができるのか。そんなモヤモヤを抱えていた私に、ある日上司が面白い例え話をしてくれた。
プレゼント選びが教えてくれた「解像度」の違い
「ちょっと想像してみて。一番仲の良い友達への誕生日プレゼント、何あげる?」
上司は突然そう聞いてきた。
私は親友のことを思い浮かべながら答えた。
「彼女はCA(客室乗務員)をしているので、フライト用のスキンケアセットとかですかね。あとは、立ち仕事で脚が疲れやすいと言っていたので、フットマッサージャーとかも候補ですね」
「なるほど。じゃあ、別部署のAさんだったら?」
Aさんとは挨拶程度の関係で、釣りが趣味だということしか知らない。
「うーん、釣具とか……?」
上司はいう。
「釣具って言っても幅広いよね。竿?リール?ルアー?しかも、もう持ってるかもしれないし。さっきの答えと比べてみて。親友には具体的だったのに、Aさんには『釣具』っていう大きなカテゴリしか出てこなかった」
ハッとした。
確かにその通りだった。親友については、仕事の特徴も、最近の悩みも、今欲しがっているものまで具体的に浮かんでくる。でもAさんについては「釣り好き=釣具」という単純な発想しかできない。
「さっきの企画も同じ。ターゲットの属性や悩みを設定しても、その解像度が低くて大枠しか掴めていない。その人が具体的に何に困ってて、どんな解決策を求めてるのかまで見えてない」
上司の言葉で、私はターゲットを理解したつもりになっていたことに気づいた。本当に理解していたら、あまり悩まずとも相手が何を求めているのか答えが見えるはずだ。
なぜ親友のことは詳しく知っているのか
プレゼント選びの例で、なぜこれほどまでに理解度が違うのかを考えてみた。答えは簡単だった。圧倒的にコミュニケーション量が違うからだ。
親友については、普段どんな仕事をしていて、何に困っていて、どんなことで喜ぶのかを知っている。それは、単に付き合いが長いからというわけではない。日常的に話しているし、雑談の中で「こんなスキンケア商品が気になっている」とか「フライトで疲れがとれない」といった情報を自然にキャッチしている。
一方、Aさんについては、コミュニケーション自体がほとんどない。「釣りが趣味」という表面的な情報だけで、どんな釣りが好きなのか、今どんなことに困っているのかまでは知らない。
つまり、私に足りなかったのはターゲットとのコミュニケーションだった。
企画を考える時、いつもリサーチした情報から組み立てた表面的な「ターゲット像」をもとに考えていた。でも、実際に身近にいるターゲットに近い人たちにヒアリングすることもできるし、AIを使って仮で作ったターゲット像と対話しながら解像度を上げることもできる。
コミュニケーションをとる術はいくらでもあるのに、一方通行のコミュニケーションになっていたのだ。
「親友レベル」を目指してみる
この話を聞いてから、企画を考える時の意識が変わった。
「このターゲットについて、私は親友レベルで理解できているだろうか?」
そう自分に問いかけるようになった。親友に贈り物を選ぶ時と同じレベルまで、具体的に想像できるかどうか。
まだ完璧にできているわけではないけれど、以前のように「なんとなく」でターゲットを設定することはなくなった。そして、その観点でターゲットを考えていると、上司がいつも言う「自然とどんな企画が喜ばれるのかが見えてくる」ところに辿り着けるのだろう。
同じように企画で悩んでいる人がいたら、一度試してみてほしい。身近な人への贈り物を選ぶ感覚で、ターゲットと向き合ってみる。その時に必要なのは、特別な分析スキルではない。相手のことを知りたいと思う気持ちと、実際にコミュニケーション方法を考えることだと思う。
ターゲット理解って、案外シンプルなことなのかもしれない。
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