先輩のコミュニケーション力は「責任感」から生まれていた
コミュニケーション力がずば抜けていると感じる先輩がいる。
何を聞いても、すぐにぴったりの例え話が返ってくる。抽象的なことを聞けば、具体例でかみ砕いてくれる。質問したこと以上の答えを整理して返してくれたり、こちらが言ったことを拾って、さらに深く展開してくれたりする。
クライアントから問い合わせが来たときも、書かれている内容だけで判断をしない。「デザインを良くしたい」と書いてあれば、なぜそうしたいのか、その先に何を解決したいのかを考え、きちんとヒアリングする。そして依頼された内容をそのまま提案するのではなく、本当に解決すべき課題を見極めて伝える。こうした姿勢の結果だろう、提案の受注率は9割を超えている。
私から見ると、まるでコミュニケーション王だ。
先輩がなぜそんなにコミュニケーション力が高いのか、どうやって磨いてきたのかを聞いてみた。
コミュニケーションスキルは「責任感という姿勢」の副産物だった
「意識して磨いているわけではないんですよ。物事を責任を持って進めようと思ったら、どうしても『伝えないといけない側面』が出るじゃないですか。結局は『伝わるまで伝えようとする』という、責任感の強さのような気がしますね」
相手の心を掴む方法、分かりやすく伝えるコツ。そういったテクニックが返ってくると思っていたら、先輩の答えはスキルではなく、責任感という姿勢だった。
この姿勢を感じる具体的な行動が、3つあった。
その1:相手が本当に理解しているかを確かめる
物事を前に進めようとするとき、相手が理解できているかどうかが何より気になると先輩は話してくれた。相手が「わかりました」と言ったとき、本当に理解しているか、納得しているか、疑問を感じていないか。もし理解していなければ、仕事は前に進まない。だから、相手の反応を徹底的に観察している。
先輩がまだ現場でコンテンツを作っていた頃、記事を書いたら必ず誰かに読んでもらい、その人の後ろに立って読んでいる様子を観察していたと聞いた。どこで笑うか、どこで手が止まるか、どこを読み返すか。相手が「面白いですね」と言葉で言ってくれても、実際の反応の方が正直だからだ。
だから今も、電話やオンラインミーティングで顔が見えない状況はやりづらいと感じるのだそうだ。表情、間、声のトーンといった、相手の理解度を測る情報が減るからだ。先輩を見ていると、相手のあらゆる反応から理解度を読み取り、伝わっていないと感じたら、その場で伝え方を変える。相手が理解できるまで、自然と調整を続けている。
その2:言葉にされていない本音を探る
クライアントからの問い合わせも、書いてあることをそのまま受け取らない。「サイトの情報量を増やしたい」と依頼が来たら、それが本当に相手が解決したいことなのかを考える。
「情報量を増やす」は手段であって、目的ではない。本当に解決したい課題は、その奥にある。もしかしたら「信頼感を高めたい」かもしれないし、「競合に負けたくない」かもしれない。表面的な要望だけを見て提案すると、的外れになってしまう。
だから、違和感を見逃さない。「なぜだろう?」と一瞬引っかかりを感じたら、その小さな違和感を大切にする。違和感は、表面と本質のズレを教えてくれるサインだ。そして違和感に気づくために、先輩は自分の感情をよく観察していると話してくれた。「なぜ今、自分はこれが気になるのか」「なぜこの言葉に引っかかりを感じるのか」。自分の感情の動きを言語化する習慣が、違和感への気づきを鋭くしている。
その3:相手に伝わる言葉を選ぶ
たとえば、クライアントに戦略を説明するとき。先輩は「ターゲットセグメンテーション」とは言わず、「誰に届けたいか」と言い換える。相手が理解できる言葉を、相手に合わせて選んでいる。
物事を前に進めるには相手に伝わることが必要だからこそ、相手が分かる言葉を選ぶ。このためクライアントとチームでは自然と使う言葉が変わる。伝えることが目的ではなく、伝わることが目的だからだ。
目の前の仕事に責任を持って前に進める
先輩のコミュニケーション力の根源にあったのは、物事を前に進める責任感だった。その責任感が、相手に伝える、相手を理解する、相手に合わせて言葉を選ぶという行動を生む。この3つの行動が繰り返されることで、「コミュニケーション力」や「言語化力」が磨かれていく。意識的に磨くのではなく、「相手に届くまで責任を持つ」という姿勢の中で自然と生まれるものだった。
スキルは結果であって、出発点ではなかったと気づいた。
これまで私は、話し方の本を読んだり、プレゼンのコツを学んだり、テクニックを追いかけてきた。でも本当に大切なのは、目の前の仕事に責任を持つことだ。相手に届くまで伝え続けられているか。相手の立場に立ったコミュニケーションを実践できているか。日々の姿勢を問い直していきたい。
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