数字の解釈をゆがませた「お問い合わせ数最大化」という願望
インハウスマーケを担当している私は、毎週月曜日に、先週一週間のサイトやお問い合わせに関する数値をまとめてミーティングで報告している。
この日もいつも通り、GA4やサーチコンソールで定点観測している数値をチェックし、スプレッドシートにまとめていた。
すると、お問い合わせフォームのCVRの数値を見た瞬間、手が止まった。先週と比べて、数値が上昇していたのだ。過去のデータを遡ってみても、なかなか見ないほどに高い。
なぜか急に緊張してきて、ドキドキしながら数値の内訳を確認していくと、5回以上サイトに訪問している人が、それ以外の人に比べて21倍もCVRが高いことが分かった。母数はまだ十分とは言えないものの、4回以下の訪問者と比較したときの差は明らかだった。
21倍という数値に、クラッと来た。そして、私は安易に、データをある結論に結び付けてしまった。「サイトへの訪問回数が増えれば、お問い合わせにつながる」と。
「お問い合わせ数を最大化したい」という願望の罠
私のミッションは、お問い合わせ数の最大化だ。何かしらマーケティング支援の必要が生じたときに、THE MOLTSを想起し、問い合わせをしてもらえる状況を作る。そのために、記事を公開したり、Xで発信して認知やコミュニケーションを生み出そうと試みている。
ただ現実はそう簡単にはいかず、お問い合わせ数は横ばいの状況が続いていた。そんな中で見つけた、サイトに5回以上訪問している人のCVRが高いというデータは、やっと正解にたどり着いたかのような、高ぶる気持ちを持ってきた。
5回以上訪問している人の多くは、SEO記事からの流入だった。ならば、XなどのSNSからも流入を増やせれば、訪問回数が増えて、お問い合わせも増えるはず。
お問い合わせ数を少しでも増やす。その一点に燃えていた私は、月曜日の定例ミーティングで内心自信をもってこう提案した。
「5回以上サイトを訪問している人のCVRが4回以下の人と比べて21倍高いので、Xのポストにサイトで公開している記事のURLを貼ってサイトへの流入を強化したいと考えています」
その発言を受けて、先輩が言ったのは、たった一言。
「それは、因果が逆だよ」
一瞬、胸が詰まったような感覚になった。
抜け落ちていた「ファンだから訪問している」という視点
先輩は続けて教えてくれた。
「接触頻度は大事だけど、それは『相手の頭の中にポジションを作る』ブランディングの話。X投稿を認知拡大やコミュニケーション設計の手段として考えるなら、どれだけ広がって、自分たちを理解してもらえるか。そこが最終ゴールじゃないかな」
別の先輩も補足してくれた。
「おそらく、『5回以上訪問する→お問い合わせする』という流れで考えていたよね。でも実際は『ファンになる→5回以上訪問する→お問い合わせする』という流れの方が自然じゃないかな。
少なくとも、強制的に5回以上リンクを踏ませたからといって、ファンになるとは限らない。『どういう人なら5回も訪問してくれるのか』を考える方が、要因に近づけると思う」
先輩の話を聴きながら、因果の向きを逆に読んでいたことに思い至った。
私が考えていた因果:訪問回数を増やす → ファンになる → 問い合わせが増える
実際の因果(の可能性):ファンになる → 訪問回数が増える → 問い合わせにつながる
結果として、5回以上訪問してくれた人からのお問い合わせ率が高いのであって、5回訪問したから問い合わせするわけではない。
自分に都合のいいように、数字を解釈してしまっていたことに気づいた。
数字が意味する「本質」を見失っていた
正直、提案しようと考えた時点で、薄々違和感はあった。
「Xから流入した人も、同じように5回以上訪問すれば問い合わせにつながる」と仮定していいのか。その問いが一瞬頭をよぎったのだ。
ただ、その時の私は、「行動が感情を作る」という考え方に引っ張られていた。
「楽しいから笑うのではない、笑うから楽しいのだ」。それと同じように、サイトを訪問してもらうことで信頼が生まれるかもしれない。行動が先で、信頼はあとからついてくるかも、と考えてしまったのだ。
振り返ると、「お問い合わせを増やしたい」という願望が、都合のいい解釈を後押ししていたのだと思う。
本来大事だったのは、回数そのものではなく、ブランドの意味を作ること。価値を提供できる良い記事やXの投稿を通じて、結果として訪問したくなる状況を作ることだった。
私がやるべきだったのは、「訪問回数を増やす施策」ではなく、「ファンになってもらうための設計」だった。
この反省から、無理やりサイトを訪問させようとしない。Xの投稿文や記事そのものが、読んでくれた人にとって価値を提供できるものであるか。その一点により一層集中しようと思った。
データを都合よく解釈しないための心構え
この経験以来、私はデータを見るときに、必ず自分に問いかけるようになった。「私はこの数字を”そう解釈したい方向”に利用していないか?」そして、以下の3つを習慣にしている。
① 因果関係が逆になっていないかを疑う
「AだからB」と思った時、本当は「BだからA」ではないか。必ず一度立ち止まって考える。
② 仮説をAIと壁打ちして「言えないこと」を確認する
「この数字から言えること」だけでなく、「この数字から言えないこと」をAIに問いかける。意外と冷静になれるし、思い込みを減らせる。
③ 定例会議で仮説を説明し、フィードバックをもらう
一人で結論を出さず、必ず誰かに話す。その場で指摘をもらえるだけで、分析の精度は大きく上がる。
データは嘘をつかない。でも、データの解釈は簡単に歪む。だからこそ、失敗を恐れずに、これからも毎週の分析精度を上げて、マーケ施策の改善サイクルを回していきたいと思っている。
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