相談する前に「まずAIで形にする」ことが、私たちの組織を変えた話
「今度のプロジェクトについて相談があるんですが……」
部下がそう切り出してきた。30分話を聞いても、結局何が問題で、何を求めているのかがよくわからない。お互いモヤモヤしたまま、「じゃあ、また今度」で終わってしまう。
私たちの組織でも、そんな日々が続いていた。
でも今は違う。「考えているのなら、まず形にしてみよう」というシンプルな実験を通じて、コミュニケーションの質が劇的に変わった。これは正解でも答えでもない。ただ、私たちが見つけた一つの可能性の話だ。
生成AIが教えてくれた「バージョン0」の価値
きっかけは意外なところにあった。
社内でのAI活用を強化しようと考えていたとき、ふと自分自身を振り返ってみた。「そういえば、AIを使い始めて私の仕事はどう変わったんだっけ?」
答えはシンプルだった。スピードが桁違いになった。
企画書の草案、プレゼン資料のたたき台、プロトタイプの作成。以前なら数時間かかっていた作業が、数分で形になる。もちろん、AIが作ったものは完璧じゃない。でも、そこに気づきがあった。
完璧を目指す前に、まず形にすることの価値。
そんなとき、ある考えが頭をよぎった。
「待てよ。このAIの『初手のスピード』を、組織のコミュニケーションに応用してみたらどうだろう?」
なぜコミュニケーションに実験を持ち込んだのか
私には一つの仮説があった。個人の成長と組織の成長を同時に実現できるのではないか。
これまでの相談の流れはこうだった。
- 「こういうことを考えていますが、どうでしょう?」(ヒアリング)
- 「なるほど、では〜してみたら?」(助言)
- 「わかりました、やってみます」(実行)
このフローだと初回はヒアリングで終わってしまう。実際の議論や改善は次回以降。時間がもったいないし、何より熱が冷めてしまう。
そこで試してみたのが、こんなアプローチだ。
「相談があるときは、まず何か形にしてみない?」
つまり、初回でヒアリングではなく、初回でフィードバックができる。これだけで、物事が進むスピードは2倍になるのではないか。
最も印象的だったのは、最初は戸惑っていたメンバーが、改めて説明した翌日にはもうアウトプットを作ってきたこと。この変化には正直、驚いた。
「できる人」に見つけた共通点
AI活用やアウトプットコミュニケーションにすぐ適応できる人を観察していると、ある共通点が見えてきた。
それは、AIに 「何をやらせればいいか」がわかっている人だ。
例えば、
- うまくいかない例:「プロジェクト設計書つくって」
- うまくいく例:「このプロジェクトの背景は〜で、目的は〜、制約条件は〜。この条件で、〇〇のようなフォーマットの設計書を作成してください」
つまり、業務設計そのものができているのだ。
そして、このスキルの差は「アイデアや引き出しの差」なのかもしれない。適応が早かったメンバーを見ていると、AI活用の可能性を探ること自体を楽しんでいる。
週報自動化という小さな実験
では、どうすれば全員が参加できるか?試行錯誤の末、「実際にやって見せる」ことから始めてみた。
まず選んだのは、週報の自動化。全員が共通して持っている「ちょっと面倒な業務」だったからだ。
やり方はシンプルだ。
- 毎日5分で簡単な日報を記録
- 金曜日にAIチャットと数回やり取りするだけで週報が完成
- 思い出す作業もなく、日々記録するので意味のある内容を残せる
結果として、かける時間は減ったのに、中身のボリュームは増えた。
この小さな成功体験をきっかけに、「他の業務でも試してみよう」という空気が生まれてきた。
コミュニケーションの変化
この実験を通じて、最も大きく変わったのはコミュニケーションの質だった。
以前の会話だと「クライアントからこういう相談を受けて、こういう背景で、で、こういうことがあって……」と、限られた時間で、聞いている私も説明している本人も、「つまり何が言いたいのか?」がよくわからない。
それが今では、何かしらのアウトプット(資料でもメモでも)があるので、全体像が見えやすい。本人も相談したい箇所をピンポイントで伝えられるようになり、建設的な議論ができるようになった。
さらに印象的だったのは、Webサイトの改修提案の変化だ。
以前は口頭での説明のみだったが、 今は簡単なモックを作って説明するようになった。
完璧じゃなくていい。でも「こんな感じ」が見えると、議論が活性化し、次のアクションが決まりやすくなった。
定量面での変化も出てきた。AI活用以前の約1.5倍の生産性になっている。
ただし、この変化は単なる効率化だけじゃない。チーム全体で新しいアイデアが生まれやすくなったことが、何より嬉しい発見だった。
組織に根付かせるために実践している3つの取り組み
アウトプットコミュニケーションを組織全体に浸透させるために、私が継続的に行っている取り組みがある。
1. リーダーが率先して実践し続ける
「生成AIを活用せよ!」と口で言うだけでは誰も動かない。だからこそ、私自身が率先して使い倒し、その成果を「アウトプット」で見せ続けている。
言葉ではなく、結果で語ることが何より重要だからだ。特に、失敗例も含めて透明性を保つことで、「完璧でなくてもいい」という安心感を与えることも大切にしている。
2. 全員共通の業務から段階的に導入する
週報や会議資料など、全員が関わる業務から始めることで、効果を実感してもらいやすくしている。
「特別なスキルが必要」ではなく、「誰でもできる」という安心感を作ることが浸透の鍵である。成功体験を積み重ねることで、より高度な活用へとステップアップしてもらう。
3. 環境整備と継続的なフォローアップ
弊社では、AIツールの導入を会社負担で行い、使える環境を整えている。さらに、定期的なフィードバック会を設けて「どうだった?」とヒアリングし、つまずいているポイントがあれば個別にサポートしている。
重要なのは、一度導入して終わりではなく、継続的に改善を重ねること。メンバーからの「こんな使い方もできそう」という提案を積極的に取り入れ、組織全体の知見として蓄積している。
想像を超える可能性
私たちは決まった業務を持たず、「美味い酒を、飲む。」という理念のもと、価値ある属人性を大事にしている。
やっている業務がバラバラだからこそ、生まれるものも想像がつかない。
「まず形にしてみる」という試みは、単なる効率化ツールの導入ではない。組織の文化に、小さな変化を起こす実験だ。
生成AIが可能にした「初手のスピード」を活かすことで、メンバー一人ひとりの成長と、組織全体の発展を同時に実現できるかもしれない。
完全に定着したわけではない。でも、確実に変化は起きている。メンバーの目の輝きが違う。議論の質が違う。そして何より、仕事が楽しくなった。
この実験を通じて生まれる「想像を超える可能性」に、私自身が一番ワクワクしている。
これが唯一の答えではない。でも、私たちが見つけた一つの発見として、誰かの参考になれば嬉しい。
著者情報
KOTARO TAJIMA
Media Planner / Consultant
業界歴8年以上。BtoBマーケティング、オウンドメディア、コンテンツマーケティングを担当。コンサルタント・PMとして戦略設計、インハウス化・グロース支援を行う。
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