SNSで(ほぼ)発信してこなかったデジマ支援会社が、SNSを活用してみた結果
私たちはここ最近、自社の取り組みとして「SNSの活用(Facebook・X)」にチャレンジしています。
2023年9月からトライアルを始めて、2024年2月頃から本格展開。その結果、知人経由のお問い合わせは月43件という過去最高記録に達しました。これは運用開始時と比べると約2.4倍の数字です。
| 2024年4月 | vs 前年 (2023年4月) |
vs プロジェクト開始月 (2023年9月) |
|
|---|---|---|---|
| 合計お問い合わせ数 | 75 | 34(220%) | 39(192%) |
| 知人経由 | 43 | 12(358%) | 18(239%) |
| コーポレートサイト経由 >THE MOLTSを知っていた人 |
11 | 5(220%) | 8(138%) |
| コーポレートサイト >THE MOLTSを知らなかった人 |
12 | 16(75%) | 13(92%) |
現在もなお、以前と比べて引き続きベースアップし続けられている状況です。
また、いまのところ「お問い合わせ数が増えた分受注率が大きく下がった」なんてことも起きておらず。お問合せ数の上昇は様々な要因があるかと思いますが、指名検索数が顕著に伸びていたり、投稿してすぐ相談が生まれるなども生じていたり。SNSでトライ&エラーを繰り返した結果、施策が後押ししている印象です。
当記事ではそんな弊社のトライ&エラーの一部始終を、失敗談含めお話しします。
「SNS発信はみんな苦手」な会社が実験を開始した背景
現在THE MOLTSにはグループメンバー含め、支援に関わるメンバーが約20名、開発やバックオフィスも合わせると約30名在籍していますが、もともと個人のSNSアカウントでしっかり発信しているのはたった1名(データアナリストの西のみ)でした。
私も含め、SNSを見てはいるものの「あまり目立ちたくないから発信には抵抗がある」「投稿のネタがあまり思い浮かばない」といったテンションのメンバーがほとんど。そのためSNS上での情報発信はあまり積極的におこなってきませんでした。
また、ありがたいことに年間一定数のお問い合わせをいただいていたので、SNSを活用する必要性をあまり感じていなかったのも正直なところです。
ですが、「THE MOLTSをもっと広げていくには?」と考えたとき、ふと「コミュニケーション手段として実験的にSNSを活用してみよう」と思い立ちました。
いままで自社のマーケティング活動は基本的に兼務で回しており、そこまでコストをかけずにやってきましたが、このタイミングで外部パートナー(副業メンバー1名)の協力のもと、いざSNS運用にチャレンジすることを決めました。
SNS活用における2つの主要な設計
運用開始時からいまもずっと大切にしている方針が2つあります。
1つめは、「自分たちのことを知らない人」ではなく「身の回りの人」から仕事の相談をもらうために情報発信すること。これはSNSに限らず、THE MOLTSのマーケティング活動全体で大切にしていることです。
というのも、私たちは「あらゆる領域のプロフェッショナルが協働することによって成果を追求する集団」であり、プロジェクトマネジメントをはじめ、デジタル集客、サイトグロース、データマネジメントなど、手段を絞ることなくクライアントを支援しています。領域が分散しているため、一つひとつのお問合せ獲得に対応しようとすると、リソースやコストが膨大にかかります。
だからこそ弊社のマーケティング活動は、「身の回りの人たち → メンバー個々人へ指名で仕事の相談が入りやすい状況」を作ることを重視しています。今回、数あるSNSのなかでもFacebookを主戦場の一つに定めたのは、すでに個々人がビジネス上のつながりがあったからです。
2つめは、あえて数値目標を掲げないこと。フォロワー数やコンテンツごとのインプレッション数など指標計測はしていますが、目標値は定めていません。
数字は魔物なので、フォロワー数やインプレッション数を追いかけ始めると「数字が伸びやすいコンテンツ」にどうしても寄ってしまいます。しかしあくまで重要なのは、身の回りの人たちの脳内にTHE MOLTSの存在を焼き付けることです。自分たちらしいコンテンツを発信し続けていれば、いずれ結果はついてくる。そう信じて展開することにしました。
フェーズ1. 「いいコンテンツ」の認識あわせ
こうした思いをもって運用をスタートしたので、
- 成果を出した実際のエピソードにもとづいているか
- 自分たちだからこそ発信できる内容になっているか
- 自分たちのスタンスが盛り込まれているかどうか
- 特定の領域(コンテンツSEOや運用型広告など)にテーマが偏っていないか
といった観点で、コンテンツのクオリティ管理は厳しくおこなってきました。
「より多くの人にコンテンツを届けるためにどういう “切り口” にするのか」は編集者やライターの腕の見せどころですし、新たな表現にもどんどんチャレンジすればいいと思っています。一方で、上記のようなコアとなる部分は、ブレてはいけません。THE MOLTSとしての一貫性が失われてしまうと、クライアントにもメンバーにも「ブレている」という印象を与えてしまい、ディスブランディングにつながってしまいます。
とはいえ、「THE MOLTSならではの価値観」を私自身ですらすべて言語化できていたわけではないので、認識合わせにはかなり時間がかかりました。パートナーに作ってもらっては私がフィードバックして……の繰り返し。このときの苦労話は、以下の記事でも赤裸々に綴られています。
ごめんよ…。
この「認識合わせ」フェーズは他の施策においても過去何度か乗り越えてきましたが、たとえ社内のメンバーに任せたとしても、とにかく時間がかかります。こればっかりは、粘り強く取り組むしかないのかな、と思います。
フェーズ2. 反省の多い「擬人化」チャレンジ
クオリティにこだわりすぎるがゆえに、「投稿頻度がなかなか上がらない」という事態にも直面しました。投稿数が少ないこと自体は問題ではないのですが、「反応が見えにくい」のは課題でした。
この解決策としてチャレンジしたのが、Xアカウントの「擬人化」です。
それまでは、企業ロゴをアイコンとした、いわゆる「会社公式アカウント」でした。公式アカウントから発信するコンテンツだからこそ、私も安易にOKが出せなかった。しかし擬人化して、そのキャラクターが「先輩社員から学んだことを発信している」体にすれば、投稿のハードルが下がるのではないか? それに、アカウントに「人感」があったほうが周囲からも親しみやすいのではないか? そんな仮説があり、擬人化にチャレンジしました。
実際に運用を担ってくれているパートナーが女性だったこともあり、キャラクター設定を「若手女性マーケター」にしたのですが、これが思いがけずネガティブなご意見を多数いただく結果になりました。自分たちの発信がジェンダー文脈で世間からどう捉えられるのか配慮が足りていなかったと、強く反省しています。(より詳細な経緯は以下の記事にまとめています。)
このとき、マーケティング業界の先輩とも言える方々から「BtoBマーケティング施策としてXアカウントの擬人化するのはいかがなものか」と真っ向否定するような意見も複数頂戴しました。当時とても複雑な感情になりましたが、擬人化することの目的や背景を見ずの発言であると感じたため、気にしないことにしました。これについてはまたどこかで機会があれば発信したいと思っていますが、非常によくない文脈だなと感じています。
とはいえ現場はネガティブな状態だったので、SNSに関わるメンバーの状態も含め、認識合わせに時間をかけ、準備期間を経て、Xを再始動しました。
いま振り返ってみれば、このときやめなくてよかった、と心から思います。
フェーズ3-1. クリエイターが踊れる制作プロセスへ
1〜2ヶ月程度の準備期間の間にコンテンツ制作プロセスを大幅にチューニングし、2024年2月頃、改めてSNSでの情報発信を再開しました。
フェーズ1を経たことで関係者間の認識もおおよそ合っていたので、この頃から「僕たちが取材で話したことを、好きに書いていいよ」と、ある程度パートナーに任せる方針に変えました。
いざ実際に運用してみて、「この制作スタイルのほうがいいコンテンツが生まれやすいな」と改めて感じています。特に以下の記事は、より多くの方に読んでいただけました。
私は前職時代、クリエイターをマネジメントする立場として「いかにクリエイターたちに伸び伸びとコンテンツを作ってもらうか」を意識してきました。しかし直近は、自社の情報発信を監修する立場だったからこそ、どこかこの視点が欠けてしまっていたと反省しています。
いつも協力してくれているパートナーが「このコンテンツは私が編集協力しました!」と堂々と発信している様子を見て、「クリエイター自身が自信を持って世に出せることって、いいクリエイティブを生み出すための必須条件だな」と改めて気付かされました。
フェーズ3-2. 「SNSシェアチーム」を社内にて結成
また、再始動後は社内体制も大きく変えました。
「SNSでの情報発信に協力してもらえませんか?」と社内に投げかけ、手を挙げてくれた10数名で「SNSシェアチーム」を結成。新しいコンテンツを公開したときは各々のSNSアカウント(Facebook・X)でシェアしてもらうこと、くわえて参加メンバーがきちんとシェアしているかどうか管理者がチェックすることをルールにしました。
▼SNSシェアの詳細な流れ
1.新しくコンテンツを公開したら、Slackチャンネルにてアナウンス
2.シェアの方法はリポストでも、引用リポストでも可。投稿を控えたい場合はスキップもあり
3.各メンバーはSlackのスタンプ機能で実施報告
4.対応できていないメンバーには管理者からリマインド
きちんとコンテンツがシェアされるようになったことで、明確に企業、個人のアカウントのインプレッションが伸び、各メンバーの知人に対してリーチできるようになりました。また、知人から「このコンテンツいいね!」というコミュニケーションを起点に、「そういえば、ちょっとまだ要件が漠然としているけど直近こんな課題があって……」と相談のきっかけが生まれていると感じます。
それに多くのメンバーがただのシェアではなく、“コメント付き” でシェアしてくれていることから、「みんなSNS投稿がイヤなわけではなく、投稿のきっかけが欲しかったんだな」とも気付かされました。
BtoBマーケティングにおけるSNSの有用性
さまざまな変数があるため一概には言えませんが、冒頭で紹介したとおり、SNSの効果は「知人経由のお問い合わせ数」「THE MOLTSを認知してからのコーポレートサイトからのお問合せ数」に現れたのかな、と思っています。
もし仮に、フォロワー数やインプレッション数の目標数値を定めて運用していたとしたら、きっとここまで成果は出なかった。「自分たちらしいコンテンツを発信していく」を徹底できたからこそ相手の脳内でポジションが取れて、相談をもらえるようになったのだと思います。
いい、実験でした。
ただし、自社で成果が出たからといって、クライアントへ手放しに「SNSに取り組みましょう」とはオススメするつもりはありません。私たちの場合、そもそも実験的にスタートし、成果を追わないと決めていたからこそコンテンツ作成に時間をかけられたし、もともとSNS上でビジネスのつながりを一定数保有していたからこそ上記のような戦い方ができました。これらの前提条件は、当然会社によって大きく異なるはずです。
「BtoB支援会社においてSNSは有用か」と聞かれれば、その会社次第、やり方次第としか言えません。SNSは手段であり、あくまで大切なのは市場とどうコミュニケーションをとっていくかだと思います。
さいごに
これからも引き続き、新たな実験に取り組んでいきたいと考えています。
現在は、THE MOLTSの価値観をブラさないまま情報発信の頻度を高めるためにはどんなやり方が有効なのか、試行錯誤している最中です。全然できていないことも多いのですが、少しずつ、前に。
そのプロセスのなかで、また失敗することもあるかと思います。ですがどうか引き続き、弊社のXやFacebookにおける情報発信を見守っていただければ幸いです。
THE MOLTS X
著者情報
TAISHI TERAKURA
Marketing Planner
業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。
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