仮説をもとにヒアリングをすると、新しいターゲットが見えてくる
こんにちは、THE MOLTSのストラテジー&プロジェクトマネジャーの永田です。
最近、クライアントやメンバーから「ターゲット設計の精度と深度がすごい」と褒めていただくことが増えました。正直、嬉しい反面、「最初からできていたわけではない」というのが本音です。
今回は、これまでの経験のなかで見えてきた「成果につながるターゲット設計」のポイントについて、お話しします。
「なんとなくのターゲット」では勝てない現実
BtoB企業の支援をする際によく耳にするのが、「うちのターゲットは年商100億円のエンタープライズで、人事部長クラスです」といった設定です。
ある人材会社を支援していた際も、まさにこの状況でした。ターゲットは「年商100億円以上の企業の人事部長」。一見、明確に見えます。
営業チームにヒアリングすると、「採用コスト削減の話をすると、非常に反応が良い」という声が上がっていました。つまり、年商100億円規模の人事部長の主要関心事は「採用コストの削減」であると認識していたのです。
論理的には筋が通っています。マーケティングでも「採用コスト削減を実現します」というメッセージを前面に押し出せば、ターゲットに響くはずです。
でも、「本当にそれだけなのかな?もっと複雑なんじゃないか?」と、どこか違和感がありました。
同じ「年商100億円の人事部長」でも、置かれている状況や抱えている課題は全然違うし、何より採用に対する認識レベルも違うはず。営業の経験則だけでマーケティング戦略を決めてしまっていいのだろうか?
そう思い、ターゲットの解像度をより上げていくことになりました。
仮説を立ててから調査する重要性
まずは、しっかりと調査をすることにしました。
ユーザー調査は目的が曖昧になりがちです。「とりあえず話を聞いてみる」というアプローチでは、質問が散漫になり、結果として必要な情報を得ることが難しくなります。
なので私の場合、必ず目的を設定します。事前に仮説を立て、それを解き明かす質問を投げかけて、仮説が合っているかどうかを確かめるんです。
この人材会社のケースでは、「採用コスト削減が一番のトリガーになる」という仮説を立てました。営業が現場で実感していることだし、確度は高そうに思えましたが、本当にそうなのかをきちんと検証したかったんです。
そこで、実際のターゲット層である人事責任者に対し、知人やクライアント経由で紹介してもらい、インタビューを実施しました。同時に競合調査も並行して行い、同じような人材会社がどんなメッセージングをしているかも調べました。
インタビューで見えてきた意外な事実
調査の結果、たしかに採用コスト削減を気にしてる顕在層はいました。ところが、実はもう一つ別の層がいることが判明したんです。
とくに印象的だったのが、ある人事責任者の言葉でした。
「採用コストって当たり前にかかるものだと思っていたから、高いも安いもなく、水道料金や電気代のように固定費としての認識が強い。当たり前だと思っていたから、そのコストが安くなるというそもそもの発想がなかった」と。
つまり、顕在層は「採用コストが高く、削減したい」とすでに課題認識している人事責任者である一方、もう一つの層は「採用には一定のコストが必要」として受け入れている人事責任者だったのです。
これは大きな発見でした。
2つの層が見えたとき、戦略が変わった
この発見をもとに、ターゲットを整理し直しました。
顕在層(市場の1〜2割)
- 採用コストの高さを課題として認識し、能動的に人材会社を比較検討している
- 従来の営業アプローチでリーチできていた層
潜在層(市場の8〜9割)
- 採用コスト削減のニーズには気づいていないが、可能性を提示されると関心を示す層
- 採用コスト抑制の意向はあるが、大幅削減が可能という認識がなかった層
問い合わせ獲得が直近のミッションだったのですが、これまでアプローチできていたのは市場の1〜2割だけ。もし8〜9割の層にもアプローチできれば、獲得数は大幅に伸びるはずです。
さらに興味深いことに、この2つの層は入り口こそ違うものの、一度「採用コストって削減できるんだ」と気づいてもらえれば、その後は同じ検討プロセスを辿ることがわかりました。
つまり、入り口のアプローチを工夫するだけで、既存の営業フローを活用できるということです。
タッチポイント戦略の明確化
2つのターゲット層が明確になって、カスタマージャーニーも整理できると、それぞれに対してどんなタッチポイントを用意すべきかがくっきり見えてきました。
顕在層(1〜2割)に対しては、彼らが能動的に情報を探しているので、リスティング広告が有効です。「採用コスト削減」「人材紹介 費用」といった具体的なキーワードで検索してくる層だからです。
一方で、顕在層(8〜9割)の方は、まだ問題を認識していないため、こちらから気づかせるようなタッチポイントが必要になります。Meta広告のようなプッシュ型のアプローチで、「あ、そういえばうちの採用、もっと効率化できるかも」って気づかせる必要があります。
当然、それぞれのクリエイティブやメッセージも変わってきますし、LPの設計も変える必要があります。でも、ここまで明確になれば、デジタル施策の設計は一気に進みます。
競合調査とユーザー調査のセット技
今回の事例からもわかるように、ターゲット設計で「精度と深度」を実現するために、私が必ずやっているのが競合調査とユーザー調査の組み合わせです。
競合調査では、同じような企業規模をターゲットにしている人材会社が、実際にどんなメッセージングをしているかを徹底的に調べます。どんな訴求ポイントで差別化を図っているか、どんなコンテンツを作っているか。
ユーザー調査では、知人やクライアント経由で実際の人事責任者を探して、生の声を聞きにいきます。BtoBだと、なかなかターゲットユーザーに直接話を聞く機会は限られるのですが、ここは手を抜けないポイントです。
この2つを組み合わせることで、「競合のメッセージング」と「実際の顧客の認識」のギャップが明確になります。このギャップこそが、差別化の機会になるのです。
また、インタビューの際は、「採用コストで困っていませんか?」みたいなストレートな質問よりも、日々の採用業務の流れを聞くようにしています。
相手も人間なので、直接的に聞かれると身構えてしまいます。でも、普段の採用の話をしているうちに、「あ、そういえば今期の採用予算、結構オーバーしちゃって……」って自然に出てくる。その方が、本音が聞けるんですよね。
なので、自然にその人の課題や情報収集の仕方が見えてくるような質問設計を心がけています。
さいごに
結局、ターゲット設計は施策設計そのものだと考えています。
「年商◯◯億の人事部長」で終わらせるのではなく、その人物がどのような認識レベルにあり、どこから情報を取得し、どのようなタッチポイントでアプローチすべきかまで明確にして初めて、成果につながるマーケティングが実現できます。
今回の人材会社の事例でも、「採用コスト削減」というメッセージは間違いではありませんでした。でも、それが響く層と響かない層があって、響かない層にはまず「採用コストってこんなに削減できるんです」という気づきから提供する必要があったんです。
この違いを理解できるかどうかで、アプローチできる市場規模が1〜2割から全体に拡大します。これこそが、精緻なターゲット設計の価値だと考えています。
著者情報
SAORI NAGATA
Strategy & Project Manager
業界歴10年以上。オウンド・コンテンツマーケティングを中心に100社以上を支援。現在はデジタルマーケティングの立ち上げから実行、組織開発・コミュニケーション設計までの総合支援を行う。
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