AIにゲームアプリの課金を辞めるコピーを作ってもらった話

昨年、人生で初めてスマホゲームというものに手を出した。よく広告で見かけるゲームを「そういえばやったことないな」という軽い気持ちで始めたのが運の尽き。気づいたら毎月5万円も課金している自分がいた。

別に熱狂的にハマっているわけではない。ただ、これまで課金した分が無駄になる気がして、なんとなく続けてしまう。いいアイテムが出ると、ついつい買ってしまう。目的もなく、なんとなく前に進んでいるだけ。時間も無駄、お金も無駄。本当に何をしているんだろうと思いながらも、やめられずにいた。

そんな時期に、私はAIを使って「人を動かすコミュニケーション」が作れるのかという実験をしていた。2025年5月頃のことだ。ふと思った。自分が課金をやめられるコピーを、AIに作らせてみたらどうなるだろう。

一般論では心は動かない

早速Claude(AI)に相談してみた。「ゲームアプリに課金しているのですが、辞めたいです。辞めさせるコピーを5つ作ってください」と、至ってシンプルな依頼だった。

すると、以下の5つのコピーが返ってきた。

1.「その1万円、未来の自分へのご褒美にしませんか?」
今月の課金額を貯金に回せば、半年後には欲しかったものが買えるかもしれません。

2.「ゲームの中の装備より、リアルな体験を装備しよう」
課金で得られる一時的な満足感より、実際の旅行や趣味で得られる思い出の方が、人生を豊かにしてくれます。

3.「課金ボタンを押す前に、10秒待ってみて」
その10秒で「本当に必要?」と自問自答。多くの場合、答えは「NO」のはずです。

4.「あなたの時間とお金は、もっと価値のあることに使える」
スキルアップ、健康、大切な人との時間。課金の代わりに投資できることはたくさんあります。

5.「ゲームは無料でも十分楽しい。課金は企業の戦略です」
課金しなくても楽しめるように設計されているゲームがほとんど。お金を使わずに楽しむ方が、本当の勝者かもしれません。

読んでみて、正直「うーん」と思った。どれも一般的で、よくある自己啓発的なアドバイスという感じ。確かに正論だし、理屈では分かる。でも、これでは私は動かないなと。まだ核心に迫っていない。

問題は、AIに推論させる幅が広すぎることだった。私の具体的な状況や心理状態を伝えずに、一般的な「課金をやめたい人」として扱われてしまったのだ。

個人情報を加えた瞬間、刺さるコピーに変化

そこで、事前情報として私の状態を詳しく伝えることにした。以下が実際に送った文章だ。

「ゲームアプリの課金を辞めたいんだけど、なんか今辞めたらこれまで支払ってた金額がすごく無駄になる気がしてしまう。すごいハマってるわけじゃないんだけど、ついつい良いアイテムがあったら買っちゃう。目的もなく、なんとなく前に進もうとしていて、時間も無駄。毎月5万円くらい支払ってて、本当に何してんだろうか……って思っちゃう。そんな私に、会心の一撃となる、ゲームアプリをやめちゃうコピーを5つ作ってください。」

するとAIは「なるほど、サンクコストの罠にハマっている状況ですね」と的確に分析し、以下のコピーを作成してくれた。

1.「今まで使った金額は、もう戻ってこない。でも、これから使う予定の金額は、まだ守れる。」
過去の100万円を気にして、さらに100万円を失うのは、ただの思考の罠です。

2.「毎月5万円×12ヶ月=年間60万円。それで海外旅行に3回行けます。思い出と経験、どちらが人生に残りますか?」
ゲームのデータは消えても、体験は一生あなたのものです。

3.「『なんとなく』で月5万円。それ、誰かの月収です。」
目的もなく使うお金が、どれだけ貴重なものか。その5万円で、本当にやりたいことができるはずです。

4.「ゲームをアンインストールした瞬間、あなたは自由になる。」
課金の呪縛から解放されて、時間もお金も自分のものに。今すぐ、長押しして削除ボタンを。

5.「10年後、『あのゲームに使った300万円』と『あの時やめて良かった』、どちらを言いたい?」
今やめれば、後者になれます。続ければ、確実に前者です。選ぶのは、今のあなた。

これは全然違った。最初のコピーと比べて、完全に私の心理状態にピンポイントで刺さってくる。特に「今まで使った金額は、もう戻ってこない」という部分は、まさにサンクコストの罠を直球で突いてきた。

正直、アンインストールしようかと迷うレベルまで効いた。でも、まだもうちょっと行けるなと思った。

ストーリーを加えて、ついに決定打

さらに精度を上げるために、追加のプロセスを挟むことにした。コピーにショートなストーリー文章をつけてもらい、少しだけ情報を追加した。

「コピーにショートなストーリー文章をつけてください。ちなみに、私は経営者で、一日30分ほどゲームに時間を費やします。離婚していますが、小2の子供がいます。」

すると、以下のような文章が返ってきた。


夜10時。子供を寝かしつけた後の、いつもの30分。

経営者として日々決断を下すあなたが、なぜかこの時間だけは思考停止してスマホを開く。「今日も疲れたし、少しくらい……」そう言い訳しながら、課金ボタンを押す指が止まらない。

先月、養育費の話し合いで元妻に言われた言葉が頭をよぎる。「その無駄遣い、子供のために使えたんじゃない?」

1.「今まで使った金額は、もう戻ってこない。でも、これから使う予定の金額は、まだ守れる。」
ビジネスでは損切りの大切さを誰よりも知っているはずなのに。過去の100万円に囚われて、さらに100万円を失うなんて、経営者として正しいのか。

2.「毎月5万円×12ヶ月=年間60万円。それで海外旅行に3回行けます。思い出と経験、どちらが人生に残りますか?」
小2の子供が最近言った。「パパ、今度いつ会えるの?どこか連れて行ってくれる?」ディズニーランド、USJ、沖縄……60万円あれば、どれだけの笑顔を作れるだろう。

3.「『なんとなく』で月5万円。それ、誰かの月収です。」
部下の新入社員の手取りが18万円。彼らが必死に働いて得る給料の3分の1を、あなたは「なんとなく」で消している。経営者として、恥ずかしくないか?

4.「ゲームをアンインストールした瞬間、あなたは自由になる。」
毎晩の30分。月にすれば15時間。その時間で新規事業の企画書が何本書けるだろう。子供とビデオ通話で何回話せるだろう。

5.「10年後、『あのゲームに使った300万円』と『あの時やめて良かった』、どちらを言いたい?」
子供が高校生になる頃、大学の学費の話になったとき。「お金がない」なんて言えるか?それとも「お前の将来のために、しっかり準備してきた」と胸を張れるか?

今夜が分岐点だ。 経営者なら、正しい決断ができるはずだ。


私はその瞬間、アプリをアンインストールした。

元妻の言葉、部下の給料との比較、子供の将来の学費。それはリアルではないものの、私にとって痛いところを的確に突いてきた。特に「経営者として、恥ずかしくないか?」という問いかけは、その通りですねと爆笑した。

それから3ヶ月ほど経つが、一度もログインしていない。たまにやりたいなと思う瞬間もあるが、また同じ罠にハマると思ってやめている。

AIの推論幅をコントロールすることで得られた気づき

この体験を通じて、私は重要なことを学んだ。AIのアウトプットの質を上げるには、4つの要素が重要だということだ。

1つ目は、どのような情報を先に持たせるか。最初は「課金をやめたい」という一般的な情報しか与えなかったが、「サンクコストの罠にハマっている」「毎月5万円」「目的がない」といった具体的な状況を伝えることで、AIの理解度が格段に上がった。

2つ目は、考える幅を制限すること。「課金をやめるコピー」だけでは範囲が広すぎた。「サンクコストの罠にハマっている私」という条件を加えることで、AIが推論する方向性を絞り込めた。

3つ目は、1回の対話でなく、複数のプロセスを経ること。最初のコピー作成、個人情報の追加、ストーリーの付加と、段階的にアプローチを変えることで、最終的に「会心の一撃」となるコンテンツが生まれた。

4つ目は、求めているクオリティ、今回でいうと、私が課金を辞めるというゴールに到達するまでレビューや試行錯誤を繰り返すということ。そのプロセスを経て、コミュニケーションの質は変わる。

つまり、AIが推論する幅をどうコントロールするかで、アウトプットをより良いものにできるということだった。

これらの発見は、その後の私のAI活用に大きな影響を与えた。あらゆる属人的な業務をAIで置き換えたり、新しいサービスを開発したりする際に、この「推論幅のコントロールとレビューの徹底」という考え方を応用している。

正直にいうと、私の知人たちのプロのクリエイターが作るような洗練されたクリエイティブには勝てない、これは断言できる。しかし、少なくとも「人を動かすコミュニケーション」は、小さな点でしかすぎないが、AIで作れる事実を私の中で作った。

重要なのは、AIに何を考えさせ、何を考えさせないかを明確にすること。そして、一度で完璧を求めるのではなく、段階的にアプローチを深めていくこと。

改めて、AIは面白いと感じた印象的な体験だった。

著者情報

著者の写真

TAISHI TERAKURA

寺倉 大史

Marketing Planner

業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。

ご相談・お問い合わせ

デジタルマーケティングに関するご相談はこちらから

会社案内ダウンロード

THE MOLTSの会社案内ダウンロードをご希望の方はこちらから

採用情報

私たちと一緒に働くプロフェッショナルを募集しています

お問い合わせ・ご相談 会社案内ダウンロード