生成AIで生産性が10倍になったのに、成果が変わらない理由

私は生成AIにどっぷりとハマった。未熟ながらも、プロンプトチェーンやAIエージェントを使い、自身の属人的な業務や定型業務を自動化したり、ちょっとしたツールを開発したりと、とにかくAIを使い倒している。

この知見を社内に落とし込み、近くのメンバーもAIを使えるように思考を伝播させていった。どんどん周りがAIを使えるようになっていき、きっと劇的な生産性向上が実現できるはずだと確信していた。しかし現実は、期待とは大きく異なるものだった。

個人やチームの能力が飛躍的に向上したにも関わらず、全体の成果はほとんど変わらない。この矛盾に直面した時、私はある重要な事実に気づくことになる。

個人の能力向上がチーム成果に繋がらない構造的な問題

社内プロジェクトでAI活用を進める中で、なかなかうまくハマらない現状に目を向けて、あることに気づいた。メンバーがどれだけF1マシンになったとしても、公道を走っていたらスピードが出ないのだ。

わかりやすく例を挙げると、あるメンバーが月10本の記事を作成していたとする。それがAIを活用することで、クオリティを向上させた上で100本作れるようになった。こう考えると生産性は10倍だ。しかし、レビューできるのは相変わらず10本だったとしたら?結果として公開される記事は10本のままで、成果に何も直結していない。

あくまで一例だが、こういったことがあらゆる場所で発生していた。

AIを用いて、人が自動車からF1マシンになったとしよう。しかし、皆が300キロで走れるようになっても、赤信号があれば止まらざるを得ない。私はこれを「公道の制約」と捉えるようになった。

ミーティングに決裁者がいないため確認作業が必要になり、その分プロジェクトのスピードが遅れる。人数が多すぎて認識合わせに膨大な時間がかかり、認識の齟齬を埋めるためだけに時間が消費される。目標設定が10本のままであれば、100本作ることはしない。

AIはあくまでツールなので、レビューは当然必要だ。しかし私が痛感したのは、F1マシンになったのであれば、プロジェクト自体をサーキット化しなければ、本来のスピードは出ず、遠くまで行けず、その余白で新しい挑戦をすることもできないということだった。

信号があれば止まり、速度制限があればそれに従わざるを得ず、指定されたゴールが近ければ速く走る意味がない。

各々がどれだけ高性能になっても、プロジェクトやチーム全体の仕組みが変わらなければ、結局は従来の制約に縛られてしまう。これが、AI活用がチームの生産性向上に直結しない根本的な理由だった。

プロジェクト全体の生産性を向上させる3つのステップ

この問題に気づいた後、私は「プロジェクトのサーキット化」に取り組んだ。具体的には3つのアプローチを実践した。

1. ミッションの一新

本来半年かかることを2ヶ月で行うには、という設定から考え直した。どの向きに走ればいいかを明確にしなければ、F1マシンの性能も活かせない。従来の延長線上で考えるのではなく、AI活用を前提とした挑戦的な目標設定が必要だった。

2. 役割の明確な分離

組織をレビュワーとレビュイーに明確に分けた。レビューに集中する人と、レビューされるものを作る人を分離することで、スピードが劇的に加速した。従来のように全員が全工程に関わるのではなく、役割を特化させることで効率が大幅に向上した。

3. チーム規模の最適化

プロジェクト人数を減らすか、プロジェクトに関わる人で集まる時間を大幅に増やした。つまり、認識の齟齬ができる限り最初から出ない状態を作った。人数が多いほど調整コストは指数関数的に増大するため、この対策は特に重要だった。

結果は驚くべきものだった。AIをしっかりと使えるメンバーで揃えたプロジェクトでは、こんなにもスピーディーに施策や開発が進むのかという状態になった。もちろんリスクもある。レビューが雑になったり、AIリテラシーの差が新たな認識の齟齬を生んだりすることもあった。

しかし、AIを活用してプロジェクトを進めるということは、全員が一気にレベルアップした状態を想定しながら進めなければならない。例えば、東大生が10人一気にプロジェクトに参加したらどうするべきかを考えれば分かりやすい。ミッションと組織の一新なしに、スピードが出ないのは明白だった。問題は一つひとつ潰していけばいい。

各人の成長に合わせて、プロジェクトの仕組みも変え

この経験を通して、私の「AIとプロジェクト生産性」に対する考え方は根本的に変わった。AI活用の成功は、各人のスキル向上だけでは達成できない。プロジェクト全体の仕組みを、AI活用を前提とした形に再設計する必要がある

その上で、あくまで現在ではあるが、新しいプロジェクトに取り組む際は、必ず3つのステップを実践している。

1. F1マシンになれる土壌の整備

最低限、全員がF1マシンになれる状態までベースを作ることを先決とする。実際になっていなくても構わないが、なれる土壌を整備する。ここのリテラシー格差が、後の大きなボトルネックになるからだ。

2. ミッションとプランニングの見直し

これがなければ、どこまでいくのか、どこを目指していけばいいのかが分からない。AI活用を前提とした挑戦的な目標設定が、プロジェクト全体のパフォーマンスを決定する。あと、楽しくてぬまる。

3. 最小人数での進行体制

最小人数でプロジェクトを進行できるようにする。これがなければプロジェクト自体は何も変わらない。人数を絞るか、密なコミュニケーション体制を構築するかのどちらかは必須だ。

振り返ってみると、最初にAI活用をプロジェクトに展開しようとした時の自分に対して、一つだけアドバイスしたいことがある。

F1マシンを公道で走らせるな。サーキットを作れ。

個人の能力向上だけに注目するのではなく、その能力を最大限に活かせる環境を同時に構築することがキーになる。

著者情報

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TAISHI TERAKURA

寺倉 大史

Marketing Planner

業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。

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