オウンドメディアの目的・目標を定めても、手段が目的化してしまう理由

今から約10年前の創業時、あるオウンドメディアのコンサルティングに入った時のこと。クライアントから「1年運用しているが、全く求めている数値が上がらない」という相談を受けた。話を聞くと、目的も目標もしっかりと設定されており、毎週データの振り返りも行っている。

一見すると、理想的な運用体制が整っているように見えた。

しかし、詳しく状況を聞いていくうちに、私は一つの重要な問題に気づいた。それは「手段が目的化してしまう構造」が組織に組み込まれてしまっていることだった。この体験を通じて、私は目的や目標を追いかけられるプランニングの重要性を学んだ。

なぜ行動計画が目的や目標を見失わせるのか

そのオウンドメディアは立ち上がって1年が過ぎていたが、すでに次の1年間の詳細な計画が立てられていた。あくまで例だが、毎月10本の記事制作、カテゴリー別の本数配分(このカテゴリーは2本、あのカテゴリーは5本)、毎月の企画会議で2本分の特別企画を決める、といった具合だった。

一見すると計画的で素晴らしい運用に見える。しかし、この状態では目標に対して柔軟にアプローチすることができなくなっていた。データを振り返っても、それを改善に活かす余白が全くなかったのだ。

具体的には、全く反応がない施策でも計画通りに繰り返さざるを得ない状況になっていた。逆に、予想以上に伸びている施策があっても、そちらにリソースを振り向けることができない。パートナー企業との年間契約も結ばれており、上長への報告や評価制度もその計画に基づいて組まれてしまっていた。

私はこの時、「目的や目標、または数値計画よりも、行動計画が優先されてしまう構造」の恐ろしさを実感した。目的や目標があっても、それに向かうための柔軟性が奪われてしまえば、結果的に手段を実行することが目的になってしまう

この現象には仕方がない側面もある。オウンドメディアの立ち上げ期は数値ファーストでなく、「まず行動しなければ何も始まらない」という要素が強い。また、組織運営上、年次で計画を立てなければ予算確保や進行管理ができないという現実的な制約がある企業も多い。

余白を作ることから始める

この構造的な問題に対して、私が提案したのは「余白作り」だった。数字に向き合うためには、「月10本」といった固定的な縛りが逆に邪魔をしてしまう側面がある。だからこそ、余白を作ることから始める必要があった。

まず運用体制、リソース、予算の把握からスタート。その上で、一つひとつ変えられること、変えられないこと、なくせること、無くせないことなどを整理。結果として、運用における定数と変数を分けて、変数 = 柔軟に対応できる余白として定義した。

重要なのは、立ち上げ時に詳細な行動計画を立ててしまうと、それに従って動く必要がある人の数が増えてしまうことだ。関わる人が増えれば増えるほど、計画変更のハードルは高くなる。だからこそ、余白をきちんと整理する、定義するという設計が必要になる。

結果として、行動をデータで振り返り、見えてきた事象から改善ができる体制が整うことができた。そのオウンドメディアは2年で数百万UUへグロースし、当初の目的、目標を拡張させていく土台として機能した。

柔軟に動ける組織土壌の重要性

この経験を通じて、私は現在新しいプロジェクトに関わる際、現場メンバーの行動の柔軟性を重要視するようになった。原理原則から学び、どのような状況になっても動ける状態を作っておかなければ戦えない。その土壌をどう作るかがキーになる。

目標やデータに真摯に向き合うためには、「AさんはA、BさんはB」といったタスクベースの固定的な振り分けを変える側面がある必要がある。とにかく柔軟に動ける余白を作りながら前進することが重要だ。

改めて、私なりの結論として、手段の目的化が起こる理由は大きく二つある。

一つは、そもそも明確な目的や目標がないケース。もう一つは、今回論じてきた構造上の問題だ。後者の方が実は厄介で、目的や目標があるからこそ、それを達成するための手段が固定化され、結果的に手段を実行することが目的になってしまう。

組織運営上の制約や現実的な要請を完全に無視することはできない。しかし、その中でも意識的に余白を作り、柔軟性を確保する工夫はできる。手段の目的化を防ぐためには、計画段階から「変更可能性」を組み込んでおくことが何より重要だと、私は考えている。

著者情報

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TAISHI TERAKURA

寺倉 大史

Marketing Planner

業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。

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