なぜ1/100通だけが心を動かしたのか?表に出たくない私が登壇を決めた理由
私は基本的に表に立ちたくないタイプだ。登壇やイベントのお誘い、SNSを頑張ろうという話も、仲間内で誘われる以外はほとんど参加してこなかった。
そんな私が、会社のお問い合わせフォームに突然届いた登壇依頼メールに心を思いっきり動かされて、人生で初めてまったく知らない人からのお誘いで表に出ることを決意した経験がある。
この一通のメールから学んだ「相手を動かすコミュニケーション」の本質について、少し書いてみたい。きっと普段の営業活動やクライアントとのコミュニケーションでも活かせる内容だと思う。
99通がコピペの中で光った、たった1通の違い
その登壇オファーのメールは、私や弊社のことを、0から10まで調べ尽くした上で書かれていた。
コピーした部分ゼロじゃない?というくらい、なぜ登壇して欲しいのか、なぜオファーをしたのか、どういうことを知りたいのかが、とても丁寧に長文で書かれていたのだ。
正直、とてもびっくりした。この一通のメールにかけられた時間や思いが痛いほど伝わって、もうこれは登壇しないとダメだろと思わされた。
私はマーケターなので、心を動かされるということを素直に大事にしているが、知らない人からのメールでここまで心動かされたのは初めてだった。
普段からそういうお誘いや営業が多く来ているであろうことへの配慮もあった。私が普段どのような発信をしているのかを事細かに調べていて、だからこそ、私が話したいことをピンポイントで刺しにきたようなメールだったのだ。
「これは言いたくないんだよな……」という感じではない。私が話したかったことを出してきたのだ。
私はとてもくだらないXを投稿しているのだが、その内容からこれまでの弊社の歴史、文脈や私の考えも踏まえられていた。
多分これ、普通に1時間調べたとかだと無理で、常日頃見てくれていたか、または、丸一日かけて調べたか、そういうレベルだった。
ちゃんと見てくれた上で一通を送ってくれていることが、素直に嬉しかった。なぜなら、今までは100通あったら、99通はコピペか浅いカスタマイズのどちらかだったから。
「作る」のでなく「生まれる」コミュニケーションを体感した
私はよく、相手を動かすコミュニケーションは、作るのでなく生まれるものだと言っている。
とことん相手を知れば、これしかないっていう言葉が出てくる。そこまできちんと相手を知ることが重要だ。
そのメールは、まさにそれを実践していた。
もしこういう行為をされることが当たり前の環境下だったら、「またこれか」になったと思う。でも、そうじゃない。誰もやっていないことを、ナチュラルにやっていた。
そりゃ嬉しいよねと思う。でも大半の人は時間がかかるからやらない。
そんななかでやられると、これはほかとは違う……となってしまう。みんなと違うくらい、本気で何かに向き合う、その人を深く掘ることに向き合うのは、武器だなと。
深く見てくれているというのは、心を動かす一つの要素になるんだという学びをもらった。今後の仕事に活かせるだけではなく、私のなかの価値観が一つ広がった体験だった。
前日のXまでチェックして準備する徹底ぶり
登壇までの流れも丁寧で、当日も丁寧だった。そして、後日お礼を兼ねた飲み会を開催してくれたのだが、そこでのことも印象的だった。
そのとき、私は肩こりがひどく、Xで「肩首が見事に完璧に死んだ」みたいなしょうもない投稿をしていた。
すると、私にお礼の品として肩首に効くグッズを用意してくれてたのだ。
そんなくだらないXの投稿を見てお礼の品を渡すってすごいな……と。しかも前日とかに投稿した話なのに。
また、その会には弊社の後輩メンバー2名も参加したのだが、その二人についても名前から調べていろんな情報を仕入れ、その人が欲しいであろうお礼の品を用意してくれてた。私も知らない後輩たちのビジネス、プライベートの情報を把握していて、二人とも感激していた。
「マーケティングがわからない」と言った人の正体
その会で、その人から「私マーケティングがわからないのでぜひいろいろと教えて欲しい」と言われた。
いや、あなたがやってることがマーケティングですよ……と思った。
この方は、相手を深く知る→相手が本当に欲しいものを提供する→心を動かすというコミュニケーションのコアな部分を、もう完璧に実践していたのだ。
私たちが普段クライアントに対して「ターゲットの解像度を上げましょう」「ペルソナを深く設定しましょう」と言っているその実践版を、リアルタイムで目の当たりにした。
この体験を通して、私はその人が困ったことがあったらなんでも助けようとか、その人のために動こうとか、そういう気持ちになっている。
登壇依頼メールをもらって、ウェビナーで登壇して、初めてお会いしてそこまで気持ちを動かされるなんて経験がなかったが、もう学びしかなかった。
ターゲットをとにかく知ること、解像度を上げること、そうすると、相手を動かすコミュニケーションが生まれる。
私は口酸っぱく何度も言ってきたことなのだが、ここまで激しく、瞬時に動かされたことがなかったのだ。
最後に
この体験を通じて、改めて感じたのは「時間をかけてでも相手を深く知ることの価値」だ。
時間はかかる。でも、だからこそ価値があるのだ。
みんな「そりゃ嬉しいよね」とは思うけれど、「時間がかかるからやらない」のが普通じゃないだろうか。
でも、その「普通はやらないこと」をナチュラルにやると、もう圧倒的に違って見える。
「みんなと違うくらい本気で何かに向き合う」ことは、確実に武器になると実感した。
私たちもクライアントに対して、ターゲットの解像度を上げることの重要性をお伝えしているが、この体験を通じて、それがどれだけ人の心を動かす力があるのかを身をもって知ることができた。
相手を動かすコミュニケーションは、確実に「作る」ものではなく「生まれる」ものなんだと、改めて確信した出来事だった。
著者情報
TAISHI TERAKURA
Marketing Planner
業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。
記事をシェア