ニーズの「隙間」を見つけて、最大の危機をチャンスに変えた話
こんなことを考えたことはないだろうか。
「順調に成長していた事業が、突然の外部環境変化で壊滅的な打撃を受けたとき、どう立て直すか?」
私が経験したのは、まさにその状況だった。2020年4月、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令されたその日、運営していたメディアのトラフィックがほぼゼロになったのだ。
この記事では、最大の危機を最大のチャンスに変えた戦略転換の体験談を通じて、外部環境の変化に適応する際のヒントをお話ししたい。
月間500万ユーザーがゼロに
2020年4月の時点で、私たちのメディアは月間500万ユーザーを獲得していた。旅行やグルメをテーマにしたメディアで、3年間かけて着実に成長してきた。
しかし、緊急事態宣言が発令されたその翌日、状況は一変した。
トラフィックがほぼゼロになったのだ。
当然、サービスをクローズするかどうかという議論も上がった。しばらく運用を止めて、別の事業にリソースを振ったほうがいいのではないか、と。
正直なところ、私も「本当に立て直せるのかな?」という不安でいっぱいだった。
でも、このタイミングでキーワード戦略を大きく変えたのが、結果的にターニングポイントになった。
需要の変化を見つける
危機的状況の中で、私たちは一つの重要な判断をした。
「これまでのやり方に固執するのではなく、今の世の中でどんなニーズがあるのかを徹底的に調べよう」
今までのグルメや旅行の需要が全くなくなった一方で、新しい需要が急速に伸びていることに気づいたのだ。
グルメ分野
- テイクアウトやデリバリーの需要が急増
- でも、それに対応したコンテンツが少なかった
- お店の情報がバラバラで、ユーザーが困っていた
お出かけ分野
- 3密を避けられるキャンプや自然体験への関心
- 生活圏内での小さな楽しみを求める声
新たな需要が伸びているのに、それに応えるコンテンツが足りていない。これは大きなチャンスだと思った。
「近場お出かけ」というコンセプトの誕生
ユーザーニーズの変化を分析していく中で、一つの仮説が浮かんだ。
「これまでは遠くに計画を立てて出かけていた人々が、生活圏内で楽しみを見つけようとしているのではないか」
例えば、
- テイクアウトで新しいお店を発見する
- 最寄り駅のチェーン店をじっくり楽しむ
- コンビニで話題のスイーツを買って家で味わう
これらをまとめて、私たちは「近場お出かけ」というコンセプトを作った。
このコンセプトが生まれたことで、チーム内に共通言語ができた。「これは近場お出かけに合っているか?」という判断基準が明確になり、コンテンツ制作の方向性がブレなくなった。
戦略転換の具体的な取り組み
「近場お出かけ」のコンセプトに基づいて、私たちは以下のようなコンテンツを作成した。
グルメ分野
- テイクアウト・デリバリー情報の詳細まとめ
- 全国チェーン店のメニュー情報
- お取り寄せグルメの紹介
お出かけ分野
- 自然体験やアウトドア情報
- ワーケーション向けホテル情報
- 生活圏内で楽しめるスポット
これらのコンテンツは、検索需要が高いのに十分な情報がない「隙間」を狙ったものだった。
実際に取り組んでみると、予想以上に反響があった。特にテイクアウト情報は、お店のウェブサイトやSNSでしか発信されていない情報が多く、ユーザーにとって本当に価値のあるコンテンツになったのだ。
この戦略転換の結果、約1年後には月間1500万ユーザーまで成長することができた。コロナ前の3倍の規模だ。
この時期の取り組みで学んだのは、「ユーザーが本当に困っていることは何か?」を常に問い続けることの重要性だった。表面的なトレンドを追うのではなく、その背景にあるユーザーの本当のニーズを理解することが、価値あるコンテンツ作成の鍵だと実感した。
危機から学んだ3つの教訓
この経験を通じて学んだことは、現在の仕事でも常に意識している重要な原則となった。
1. 変化に適応し続ける力
「いつか元に戻るから待とう」ではなく、「今の状況に合わせて変わろう」という姿勢が生存の鍵だった。
現在も、新しい手法や技術が出てきたとき、「前はこのやり方でうまくいったから」と拒絶するのではなく、「今はどうなんだろう?」という視点で向き合うようにしている。過去の成功体験に固執しすぎず、積極的に新しいことを試していくことが重要だ。
2. 手段より成果を重視する
戦略や戦術は手段であって、目的は成果を出すこと。この考え方は、どんな困難な状況でも道を切り開く原動力になる。
「この方法でやることに決めたから」ではなく、「この成果を出すために、今最適な方法は何か?」を常に問い続ける。プライドより実際の成果を重視する姿勢が、結果的に大きな成果につながった。
3. チーム共通言語の力
「近場お出かけ」のコンセプトがうまく機能したように、チーム全員が同じ方向を向けるような、シンプルで分かりやすい言葉を見つけることの威力を実感している。
新しいプロジェクトを始める際は、必ず「このプロジェクトを一言で表すと?」を問いかけるようにしている。みんなが同じ答えを言えるようになったとき、そのプロジェクトは成功に向かって動き出す。
変化を恐れず、適応していく
危機的な状況に直面したとき、私たちには大きく分けて2つの選択肢がある。
- 元に戻ることを期待して耐え続ける
- 変化に適応して新しい道を見つける
私たちは後者を選び、結果的に危機を成長のチャンスに変えることができた。
もちろん、すべてがうまくいったわけではない。試行錯誤の連続だったし、不安な時期も長く続いた。でも、変化を恐れずに一歩踏み出したことで、新しい可能性を発見できたのだと思う。
外部環境の変化は、誰にとっても避けられないものだ。でも、その変化をどう捉え、どう行動するかは、私たち自身が決められる。
もし今、困難な状況に直面している方がいたら、一度立ち止まって「今の状況で、新しく生まれているニーズはないだろうか?」と考えてみてほしい。
きっと、思いもよらないチャンスが見つかるかもしれない。
著者情報
AKIRA KISHI
Marketing Director / Consultant
業界歴8年以上。オウンドメディア、コンテンツマーケティングを担当。SEOを軸としたメディア・サービスのグロース支援、インハウス運用支援を行う。
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