独立当初の立場が弱いときに実践した、論じるより証拠をつくる戦い方
こんにちは。THE MOLTSのコミュニケーションプランナーの寺倉です。
これは独立したての私が、業界最大手のクライアントと、大手2社のパートナーが名を連ねたあるオウンドメディアのプロジェクトに、第三番目のパートナーとして参画したときの話です。
そのオウンドメディアは、1年運用して月10万UUしかない状態であり、当初の計画から大きくずれクライアントは焦っていました。そして、私のミッションはグロースさせることでした。
私は、すぐにグロースしない理由と、このまま運用してもグロースはないということがわかったんです。でも、立場が弱い新参者が急に既存の戦略を否定するわけにはいかない……。
そんなときに実践したのが 「論じるより証拠をつくる」という戦い方でした。結果、2年で400万UUまで成長させることができました。
今回は、立場が弱いときに私が実践した「証拠ファースト」の戦い方について、実体験をお話しします。
立場が弱いときに「論じる」ことのリスク
よくあるかと思いますが、大手企業のオウンドメディアに潜む「映えは良いけどデリバリー戦略が甘くてグロースしない」問題。私が参画したプロジェクトはまさにこの典型例でした。結構な予算をかけて1年運営していたにも関わらず、月10万UUという結果……。
パッと見て「あ、これは映えは良いけど、デリバリーの戦略が描かれていないパターンだ」とすぐにわかりましたし、データを見て確証も得ました。
でも、ここで問題なのが私の立場です。
ポッと出てきた独立したての人間が、急にプロジェクトに入って立て直そうとすると、これまで大手のパートナーがやってきたことを一部否定することになるわけですよね。
私は「論じる」ことでプロジェクトを壊しかねないと判断しました。立場が弱いときに正論を振りかざすのは、プロジェクトチーム全体にとって、とてもリスクが高いと思ったんです。
「世の中の事例」では誰も動かないという現実
自身の立場が強ければ、世の中に落ちている事例やデータを根拠にした論を展開していたと思います。
「これまでの経験上……」「他社の成功事例では……」「一般的なデータによると……」
でも、正直これって、みんなスッと入ってこないんですよね。とくに立場が弱い人の言葉は、「それはほかの会社の話でしょ?」「うちには当てはまらないんじゃない?」と思われがちです。
だから私は、その企業、そのプロジェクトで証拠をつくってしまう方向に舵を切りました。これが結果的に正解だったと思っています。
1ヶ月目で行った、小さな「証拠づくり」
最小限のリソースで挑戦した理由
立場が弱いときの私にとって大切だったのは、「最小でいいから皆が動かざるを得なくなる証拠をつくる」という考え方でした。
私がやったのは、運用上も数字にもインパクトが弱かった部分を頭を下げてストップしてもらい、その分の予算を少しばかりもらって、グロースの曲線を描けるような仕掛けを作ることでした。
具体的には、デリバリーの戦略をちょっと操作して、そこに刺激となるコンテンツをいくつか用意したんです。
完璧である必要はありませんでした。まずは小さくても確実な成果を出して、それを梃子にして大きく動かすという考えでした。この「小さく始める」という考え方は、立場が弱いときにはとくに重要だと感じています。
「誰も反論できない証拠」をつくれた
結果は明確でした。翌月、10%のUU増を実現したんです。10万UUの10%なので、1万UU?そんなの小さくない?と思われるかもしれませんが、デリバリー戦略上なかなか動かなかった1万UUが上がったため、小さくも価値があるものでした。
これが、誰も反論できない証拠になりました。
「あ、この人の言うことは正しいんだ」「この方向性で間違いないんだ」
データは嘘をつかないですからね。みんなその方向を向かざるを得なくなりました。
そうなると、徐々に目線がとるべきデリバリー戦略に向く。第三者のパートナーだった私の発言権が、急激に高まっていきました。これは本当に手応えを感じた瞬間でした。
10万UUから400万UUへ、大きな成長につながった理由
翌月の10%増は、単発の成果ではなく、正しく行動し続ければ毎月10〜20%増を繰り返すであろうものでした。
なぜなら、本質的な改善だったから。映えの良さだけでなく、しっかりとしたデリバリー戦略に基づいた施策だったからです。
私は先ほど述べた証拠を武器にして、徐々に運用体制をシフトし、初期から入っているパートナーの行動を徐々に変えてもらい続けました。
最終的に、そのプロジェクトは、
- 1年目:10万UU → 100万UU(10倍)
- 2年目:100万UU → 400万UU(4倍)
という成長を実現しました。
この経験で確信したのは、「何を言うか」よりも「誰が言うか」、それよりも「うまくいった証拠」の方が強いということです。
権威や肩書きに頼るより、実際に揺るがないデータを見せる方がよっぽど説得力がある。
とくにマーケティングって、成果でしか語れないじゃないですか。だから本来、そこに向けてやるべきことをやらないといけない。
でも、それができないときがある。組織の力学だったり、既存の関係性だったり……。
そういうときに私が実践しているのが「最小でいいから証拠をつくる」という考えでした。
さまざまな場面で使える「論より証拠」の考え
立場が弱いときだけでなく、論より証拠の考えはさまざまな場面で有効です。
たとえば、大手企業の全社変革プロジェクトなんて、ハレーションが起きまくります。でも、証拠を先につくって、その証拠が自分たちにとって有利になることがわかれば、一気に興味を持ってもらえて広がることを何度も経験しています。
みんな成果を追いかけるのに既存のやり方を信じてて、新しいやり方を試す余力がなければ基本やらないですよね。でも証拠が出れば、「あ、これは自分たちにとってプラスだ」って風向きが変わるんです。
担当者がそっぽを向いても、責任者レイヤーは証拠を見る
ほかにも、AチームとBチームで別れて同一プロダクトを別々の施策で成果を追いかけていたケースがありました。私はAチームに入ってコミュニケーションをシフトし、成果のベースを底上げしたんです。
このとき、Bチームはうまく行っておらず、とはいえこれまでのコミュニケーションを維持することにこだわって、成果が上がらない状況が続いていました。
しかし、担当者レイヤーでなく事業責任者レイヤーに報告がいくと、指示が飛んでBチームはアドバイスを受けざるを得ない状況になったんです。
業績を追いかける人は、課題に対して解決できる証拠があれば、その道を選ぶのは至極真っ当なことだと思います。
さいごに
論じるより証拠をつくる。
これは私がマーケティングの現場で何度も実践してきた考えです。もちろん、論理的な説明や理論的な裏付けも大切です。でも、それだけでは人は動かない。とくに立場が弱いときは、なおさらです。
だからこそ私は「最小でいいから証拠をつくる」という発想を大切にしています。
小さな成功でも、それは誰も否定できない事実になります。そして、その事実が次の大きな成功への道筋を作ってくれる。
ただ、これは私の経験に基づく考え方であって、万能な解決策ではないと思っています。10人いたらやり方は100通りあると思っているからです。
私の経験が、同じような状況に置かれている方の参考になれば幸いです。
著者情報
TAISHI TERAKURA
Marketing Planner
業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。
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