リーマンショックで「仕事がない」不安が教えてくれた、市場価値を高める方法

人材系の営業として働いていた新卒2年目、私は一つの決断を迫られていた。クライアントや新規営業先の採用計画が軒並み絞られていくなかで、若手の私にとって成長できる環境が失われつつあったのだ。このままでは自分のスキルアップに時間がかかりすぎる。そんな危機感から、マーケティングスキルを身につけたいという思いで広告業界への転職を決めた。

しかし、転職したタイミングは最悪だった。リーマンショックが直撃し、様々な企業が広告費を削減する流れが加速していたのだ。人材営業時代に採用絞り込みの波を経験していた私には、この状況の深刻さが痛いほど分かった。転職そのものに後悔はなかったが、「本当にこのタイミングで大丈夫だろうか」という不安が頭をよぎったのを今でも覚えている。

「仕事がない」現実と市場価値への危機感

転職先の会社は研修制度がしっかりしており、入社後は座学での研修が授業のように組まれていた。しかし、それ以外の時間は何もさせてもらえない状況が続いた。理由は単純で、業務をできるスキルがないから仕事がないのだ。

座学研修を受けながら痛感したのは、「教えてもらったことはできる」だけでは差別化できないということだった。重要なのは、「何を自分で得ようとするのか」「どう整理して経験として活かすのか」という能動的な視点を持てるかどうか。この違いが、その後の成長を大きく左右すると実感していた。

景気悪化で広告費が削られたり停止になったりするなか、未経験の私に仕事を任せてもらえる機会が少なくなるのではないかという不安は現実味を帯びていた。同僚たちは営業会社出身ではなかったためか、それほど不安がる様子はなかった。しかし、営業経験のある私には、この状況がどれだけ深刻かが分かってしまった。

新卒時代に聞いた一つの言葉が、私の支えになっていた。

「安定とは会社が大きいからではない。会社がつぶれても当日に就職先が決まるほどの市場価値があることだ」

この考え方があったからこそ、転職への後悔よりも、早く自分の市場価値を高めなければという焦りの方が強かった。

そして実際にクライアントとコミュニケーションを取る場面では、また違った困難が待っていた。経験年次は短いのに偉そうに聞こえてはいけない。でも、ジュニアクラスだから信頼できないと思われてもいけない。この絶妙なバランスを取ることの難しさは、営業経験があっても簡単ではなかった。

市場価値を見据えた戦略的アプローチ

「何か仕事はないですか」

私は当時のマネージャーにこの質問を投げかけ続けた。そしてついに、新規提案のコンペの手伝いをさせてもらえることになった。

結果、同僚が年間1、2件のところ、私は3ヶ月で10件以上のコンペを経験した。この積極性の背景には、営業経験を活かした学習アプローチがあった。「営業提案でどんなことを話すのか」という観点で整理すれば、知識を最速で習得できると考えたのだ。

しかし、これは単にバックグラウンドを活かした学習アプローチの一つに過ぎない。本質的に重要だったのは、「市場でどういう人材が価値を持つのか」を自分なりに考え、そこに向けた成長ルートを自分で設計することだった。

私が目指したのは「ただの運用に詳しい人」ではなく、「マーケティングを話せて運用にも詳しい人」になることだった。このポジションには確実にニーズがあると想定し、そこに向けて戦略的に行動した。

結果として、この積極的な取り組みは予想以上の成果をもたらした。会社のノウハウを効率的に把握できただけでなく、社内のキーマンとなる人たちに認知してもらい、相談しやすい環境を構築することができた。

テクニック論としての細かい運用やオペレーションではなく、全体のストーリーとして戦略を描くところから話すことを重視した結果、その後のコンペでPMを任せていただく機会が格段に多くなり、社内でのポジショニングも確立できた。

「市場価値を自分で考える」思考習慣の結果

振り返ってみると、あの時の不安や困難があったからこそ、「市場価値の高い人材像を自分で考える」という思考習慣が身についたのだと思う。

現在、1〜5年目の広告運用者を見ていて思うのは、テクニカルスキルの習得だけでは差別化が難しいということだ。重要なのは、「教えてもらったことはできる」で終わるのではなく、「何を自分で得ようとするのか」「どう整理して経験として活かすのか」という能動的な姿勢を持つことだ。答えは外部にはない。自分で市場を見極め、自分なりの成長戦略を描くことにある。

今では、当初目指していた「マーケティングを話せて運用にも詳しい人」というポジションが実現できている。運用型広告の相談はもちろん、SEOや他のデジタルマーケティング戦略、さらには「何をやったらいいか固まっていないけど相談したい」といったふわっとした相談まで幅広くもらえるようになった。これが市場価値として認められている証拠だと思う。

営業経験がない人でも、クライアントの立場に立って考える習慣や、全体の戦略から逆算して施策を組み立てる思考は身につけることができる。大切なのは、与えられた情報や機会を受動的に受け取るのではなく、それをどう自分なりに消化し、次に活かすかを常に考えることだ。

あの時の「転職への不安」は、結果的に私を成長させる原動力になった。市場価値の高い人材像を自分で描き、そこに向けた独自の成長ルートを見つける。それこそが、真の意味での「市場価値」を高める道なのだと思う。

著者情報

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KENGO MATSUO

松尾 謙吾

Marketing Strategist / Consultant

業界歴17年以上。デジタルマーケティング戦略設計・運用型広告(月額広告費10万円から数億円まで)を中心に支援。新規事業のテストマーケや計画設計も含め、様々なフェーズの支援を経験。

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