機械学習が当たり前になった世の中で、広告運用者が活躍する道を考える
Google広告の管理画面を開くたびに、私は複雑な気持ちになる。「自動入札の導入をお勧めします」というメッセージが、ほぼすべてのキャンペーンに表示されるようになったからだ。
確かに自動入札は便利だ。AIが膨大なデータを分析して最適な入札額を算出してくれる。しかし、その便利さの裏側で、何か大切なものが失われつつあるのではないか。そんな違和感を抱えながら広告運用を続けている。
異常な高CPCに直面した日
私がその違和感を最初に覚えたのは、目標CPA10,000円で自動入札を設定しているアカウントでのことだった。管理画面を確認すると、1クリックあたり8,000円という異常に高いCPCで入札が行われている。
理論的に考えれば、CPCが8,000円ならCVRが80%必要になる計算だ。しかし、実際にはそんな高いCVRは期待できない。それでもAIは「過去のデータからCVする見込みが高いユーザー」と判断して強気に入札をかける。実際にクリックさせてLPに人を連れてきて、CVしなくても、別のキーワードで低CPAのCVを獲得して全体のバランスを取るという戦略らしい。
この変化は、私が手動入札で1グループ、1キーワードレベルまで細分化して運用していた時代とは全く異なるロジックだった。手動入札時代の私は、各キーワードの特性を理解し、慎重に入札額を調整していた。CPCが8,000円で入札するなど、考えられない選択だった。
特に顕著だったのが「指名検索」での変化だ。自社サービスを知っているユーザーが、わざわざ指名で検索してくれる瞬間にリスティング広告を表示する指名検索は、本来なら低いCPCで運用できるはずだった。しかし、自動入札に切り替えた瞬間からCPCが異様に高くなるケースを何度も目にした。
検証で見えた現実
この違和感を払拭するため、私はGoogle広告のABテスト機能を使って検証することにした。自動入札と手動入札を50:50で配信量を分けて比較してみたのだ。
手動入札では現実的なラインを人間側で定め、日々インプレッションシェアや最上部・上部インプレッションシェアを注視しながら入札調整を行った。結果は予想通り、ほぼすべての検証で自動入札はCPCがあまりにも高すぎるという結果になった。
確かに自動入札の方がインプレッションシェアやCVRは高くなる傾向があった。しかし、同時並行の手動入札と比較して、そこまでCPCをつり上げてまで取りに行くものでもないというのが正直な感想だった。節約した分のお金でもっと多くの広告表示機会を得て、CV数を伸ばせたのではないか。そんな疑念が残った。
自動化の先に見えた構造的な問題
この体験を通じて、私はある仮説を持つようになった。すべての広告主が同時に「目標CPA」を入力して自動化運用を行った場合、全員の希望が通るわけがないのではないか。機械がユーザー価値と過去CVデータから「入札相当額」を算出し、競り合う構造では、オークション構造が変わらない限り勝者と敗者が必ず出る。
結局のところ、自動入札は「誰がより高く払える構造にあるか(≒LTVが高いか)」で勝負がついてしまうのではないか。高LTV・高マージンの企業(金融、不動産、SaaSなど)は勝てるが、低単価商材・LTVが低い商材はオークションから脱落していく。媒体側の掲載広告主が「広告効率主義に耐えられるプレイヤーだけ」に偏ることで、オークションの価格競争が鈍化し、媒体の売上も停滞する可能性がある。
つまり、機械学習が進みすぎると市場が最適化されすぎて、かえって効果が頭打ちになってしまう。最初は自動化による効率化で成果が上がるが、全員が同じ戦略を取ることで、その効果が徐々に薄れていく。全員が自動化した先には、「目標CPAではなく“媒体に好かれる構造”」が重要になる。CVの獲得はもはや「広告運用」だけでなく「事業設計(LTV・粗利構造)」勝負に変わってしまった。
広告運用者が活躍できる領域
この変化の中で、広告運用者が活躍できる領域は何だろうか。私は二つの方向性があると考えている。
一つは、事業設計まで踏み込んでアドバイス・構築できることだ。LTV構築や粗利構造の改善は、単なる広告運用の範疇を超えている。クライアントの事業全体を見据えて、どのような商品設計や価格設定、顧客サポート体制が必要かを提案できる運用者の価値は、今後ますます高まっていくだろう。
もう一つは、人の心を動かすクリエイティブを作れることだ。自動入札はあくまで広告配信の最適化であり、配信された広告クリエイティブを見て心が動くか否かがCVに関係してくる。特にLP(ランディングページ)は、ユーザーの感情に直接訴えかける重要な要素だ。機械学習がどれだけ進歩しても、人の心を動かすクリエイティブは人にしか作れない部分がある。
自動化が進むことで、広告運用者の役割は「細かい運用調整」から「戦略的な事業設計」と「感情に訴えかけるクリエイティブ制作」の両輪にシフトしていく。この変化を恐れるのではなく、私たち広告運用者にしかできない価値を磨いていくことが、これからの時代に求められる姿勢だと私は思っている。
著者情報
SHOTA TAKAHASHI
Marketing Director / Consultant
業界歴9年以上。リスティング広告を中心とする運用型広告の代行、インハウス化支援を担当。また企業の広告担当としての既存代理店との折衝にも従事。
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