素人から成果を生み出す編集部に変えた7つのルール
自社運用、50以上の外部支援などを通じて、さまざまなタイプのオウンドメディアのグロースから、時には売却、買収した規模の拡大などを経験してきました。
その中で、立ち上げフェーズからプロフェッショナルな編集者、ライターが最初から参画するケースは実はそれほど多くありません。どちらかといえば、素人から始めるケースが大半です。昨今は市場が発展しましたが、10年前などはオウンドメディア経験者などほぼおらず、大半がはじめての方が多かったかと思います。
しかしながら、その中でも結果・成果は求められます。メディア運用経験もない、編集経験もライティング経験もない。そんな彼らを、これまでの経験を踏まえて、自ら考え、判断し、成果を生み出し続ける編集部へと変革させてきた私なりの考え方を今回お伝えします。
多くの企業が陥る「オウンドメディア運用の罠」
「テキストを書いてコンテンツを作るだけなら、誰でもできる。だから、サクッとオウンドメディアを始めよう。」
そのような考え方でオウンドメディアはスタートすることがまだまだ多い印象があります。ただ、その通りであり、誰もがメディアになれる、コンテンツも作れる時代です。
しかしながら、メディアやコンテンツを保有すること自体にあまり意味はなく、コンテンツを通じて行われるコミュニケーションに価値があり、オーケストラのようにそれらをどう融合させるかでメディアとしての真価が問われます。
そのため、軽くみてしまうと、多くのオウンドメディアが失敗へと導かれてしまいます。確かに、技術的なハードルは低いかもしれません。しかし、継続的に価値あるコンテンツを生み出し、ビジネス成果につなげることは、想像以上に困難です。
その中で担当者に対して、ゴールだけ設定して「とりあえず頑張ろう」という曖昧な指示だけで放置してしまう。これでは成果が出るはずがありません。
なぜルールが必要なのか
これは趣味ではなくビジネスです。多くの場合、パフォーマンスが求められます。経営層の強いコミットメントがある、価値を理解している、点でなく線でみている、組織的な価値に重きを置くなどの企業を除けば、成果が出なければ容赦なく予算は削減され、プロジェクトは終了します。そして、終了することが大半です。
「続けることが大切」という言葉があり、確かに継続することで価値を生み出すこともあります。しかし、道筋が間違っていればゴールには辿り着けません。限られた猶予期間の中で、正しい方向に進みながら目に見える成果を出さなければならない。これが現実です。
だからこそ、素人であっても確実に成果へと導く明確な指針が不可欠でした。試行錯誤している時間はありません。最速で成長し、最短で成果を生み出す。そのための道筋を示すのが、これからご紹介する7つのルールです。
7つのルール
1. 絶対NG内容を全員に刻み込む
メディア運営において最も重要なのは、情報発信者としての責任です。これは、プロであろうと素人であろうと変わりません。
誤った情報を発信すれば、それを信じた読者が不利益を被る可能性があります。投資に関する誤情報であれば経済的損失を、健康に関する誤情報であれば身体的な害を与えかねません。さらに、一度でも誤情報を発信してしまえば、企業ブランドは深刻なダメージを受け、回復には膨大な時間とコストがかかります。
だからこそ、成果を追求する前にまず徹底すべきは「誤った情報を絶対に出さない」という原則です。これは妥協の余地がない、絶対的なルールです。
具体的には、以下の点を全メンバーに徹底させます。
- 事実確認を怠らない(情報源の信頼性を必ず検証する)
- 推測と事実を明確に区別する
- 専門的な内容については必ず専門家の監修を受ける
- 引用元を明確にし、著作権を遵守する
どんなにコンテンツのクオリティが低くても、どんなに成果が出なくても、嘘や誤情報だけは許されません。「成果が全て」という考えは危険です。まずは情報発信者としての最低限の責任を果たす。この基本原則を全メンバーの意識に深く刻み込むことが、信頼されるメディアづくりの第一歩となります。
2. 3ヶ月間は数値データを見させない
「数値は魔物である」
Google Analytics、Search Console、ヒートマップツール……現代のマーケティングには様々な分析ツールが存在します。これらは確かに有用ですが、経験の浅いメンバーにとっては「呪い」にもなり得ます。
なぜか?数値を見れば見るほど、追いかけたくなる。昨日より今日のPVが下がっていれば不安になり、少し上がれば有頂天になる。そして「もっとPVを上げるには」「直帰率を下げるには」と、本質とは離れた表面的な数字の改善に躍起になってしまうのです。
しかし、立ち上げ初期の素人が数値データを見て考えたところで、クリティカルなアイデアが生まれることはありません。むしろ、間違った解釈により、本来進むべき道から逸れてしまうリスクの方が大きいのです。
初期段階で本当に重要なのは、以下の3つです。
1. 基礎の習得
- とにかく書くことに慣れる
- 情報収集と整理の方法
- 読者視点での価値判断
2. 習慣の確立
- 定期的な執筆リズム
- チーム内での情報共有
- PDCAサイクルの実践
3. 戦略への理解
- なぜこのテーマを扱うのか
- 誰に向けて書いているのか
- どんな価値を提供するのか
プロフェッショナルが設計した戦略と戦術があります。まずはそれを信じて、愚直に実行する。最初の3ヶ月間は、余計な数字に惑わされることなく、決められた方針に集中する。この期間に基礎力をしっかりと身につけることが、その後の飛躍的な成長の土台となります。
3. やるべきことを一つに絞る
「あれもこれも」という欲張りな戦略は、素人にとって致命的です。
多くの企業が陥る失敗パターンがあります。「うちのオウンドメディアは、製品情報も、業界ニュースも、お役立ち情報も、採用情報も……全部やろう!」という欲張りな計画を立ててしまうのです。
しかし、現実を直視してください。競合他社には、各カテゴリーに専門の編集者がいます。業界ニュースだけを10年追いかけているベテラン記者がいます。製品レビューのプロフェッショナルがいます。そんな彼らと、全方位で戦って勝てるでしょうか?
答えは明白です。勝てません。
だからこそ、割り切りが必要です。戦略・戦術に沿った一つのことに、すべてのリソースを集中投下する。
例えば「ターゲットにおけるこのポジションを自社でとりにいく」と決めて、「中小企業の経理担当者向けの節税ノウハウ」だけに絞る。「子育て中のワーキングマザー向けの時短レシピ」だけを追求する。
この集中戦略には、以下のメリットがあります。
- 専門性の早期確立:狭い領域なら、短期間でも専門知識を蓄積できる
- 読者の明確化:ターゲットが絞られることで、刺さるコンテンツが作りやすい
- 成果の可視化:限定領域なら、順位変動や流入数の変化が明確に見える
- チームの一体感:全員が同じ目標に向かうことで、組織力が高まる
「でも、一つに絞ったら、リーチできる人が少なくなるのでは?」という不安もあるでしょう。しかし、中途半端に広げて誰にも刺さらないコンテンツを量産するより、特定の人に深く刺さるコンテンツを作る方が、結果的に大きな成果につながります。
4. 競合の1カテゴリーを奪うことから始める
リソース配分の観点から、勝てる戦い方を選ぶ。これがビジネスの鉄則です。
具体例で説明しましょう。大手ポータルサイトが10のカテゴリー(ニュース、エンタメ、スポーツ、ビジネス、テクノロジー、ライフスタイル、グルメ、旅行、健康、マネー)を、それぞれ1人1カテゴリー、合計10人で運用しているとします。
一方、あなたのチームは2人。この状況で10カテゴリー全てに挑戦すれば、1カテゴリーあたり0.2人のリソースしか割けません。相手は1カテゴリーに1人。勝負になりません。
しかし、発想を変えてみてください。その2人全員で「健康」カテゴリーだけに集中したらどうでしょう?相手の2倍のリソースを投入できます。さらに「健康」の中でも「40代男性の生活習慣病予防」に特化すれば、その領域では圧倒的な情報量と専門性で勝負できます。
最も重要なのは、まず成果を出すこと。人、編集部、オウンドメディアの成長には、栄養が必要です。その栄養が成果であり、最短でそこを目掛けて突っ走ることで最短距離を走ることができます。
これらはすべて、「1カテゴリー集中戦略」の成果です。全体で負けても、一点で勝つ。その一点突破が、やがて全体の勝利につながっていくのです。
5. 丁寧なフィードバックをしない
これは誤解を招きやすいルールですが、極めて重要な考え方です。
もちろん、引用ルールや著作権、事実確認など、最低限のクオリティ担保のためのフィードバックは必要です。これらは「絶対NG内容」に関わる部分であり、妥協はできません。「もっと面白く」「もっと読みやすく」「もっと深く」、どうすればできるのかなどを助言することはあれど、ベースだけ整ったらあとは公開後確認にし、事後アドバイスへ切り替えます。
なぜ丁寧なフィードバックが逆効果になることがあるのか?以下の理由が挙げられます。
1. 時間の浪費
- 1記事に30分のフィードバック × 10記事 = 5時間
- 修正に1時間 × 10記事 = 10時間
- 合計15時間あれば、新たに2記事は書ける
2. モチベーションの低下
- 毎回細かく指摘されると、書くことが怖くなる
- 「どうせダメ出しされる」という諦めが生まれる
- 自信を失い、積極性が失われる
3. 依存体質の形成
- 答えをもらうことに慣れてしまう
- 自分で考える力が育たない
- 指示待ち人間になってしまう
4. スピード感の喪失
- 公開までの時間が長くなる
- PDCAサイクルが遅くなる
- 市場の反応を見る機会が減る
素人の書いた記事が、最初から完璧であるはずがありません。それは当然です。しかし、「間違っていない」「ユーザーに価値がある」という最低ラインをクリアしていれば、まずは世に出す。そして実際の読者の反応を見て、改善していく。
このアプローチには大きなメリットがあります。自分の書いた記事が実際に公開され、読者からの反応を目にすることで、「何が良くて、何が悪かったのか」を肌で感じることができます。この実体験こそが、最高の学習機会となるのです。
「でも、質の低い記事を公開したら、ブランドイメージが……」という懸念もあるでしょう。しかし、素人からスタートするオウンドメディアに、ブランドイメージもクソもありません。しっかりと作るなら、プロフェッショナルを交えるのが大多数。
そのため、完璧を求めて何も公開しないより、まずは70点の記事でも継続的に公開し続ける方が、長期的には大きな成果につながります。
6. 競合サイトの動向を追わない
「彼を知り己を知れば百戦殆からず」
孫子の有名な言葉ですが、素人には当てはまりません。
競合分析は確かに重要です。しかし、それはプロフェッショナルの仕事です。素人が競合サイトを見ても、表面的な模倣に終わってしまいます。
競合を追わないのには、いくつかの理由があります。
1. 思考の硬直
- 「競合がこうしているから」という思考停止に陥る
- 独自性が失われ、二番煎じのコンテンツになる
- 発想が養われない
2. リソースの分散
- 競合分析に時間を取られる
- 本来のコンテンツ制作がおろそかになる
- 「調査」という名の現実逃避になりがち
3. 自信の喪失
- 大手メディアの圧倒的なコンテンツ量に圧倒される
- 「どうせ勝てない」という諦めが生まれる
- チャレンジ精神が失われる
4. 方向性のブレ
- 競合の新しい取り組みに都度反応してしまう
- 戦略の一貫性が失われる
- 読者から見て「このメディアは何がしたいの?」となる
では、何を見るべきか?答えは明確です。ターゲットだけを見る。
ターゲットが何に困っているか、何を知りたがっているか、どんな情報があれば喜ぶか。これだけを考え続ける。競合が提供していない価値は何か?ではなく、ターゲットが本当に求めている価値は何か?を追求する。
この姿勢を貫くことで、結果的に独自性の高い、ターゲットに愛されるメディアが生まれます。競合を意識した瞬間、あなたのメディアは「その他大勢」の一つになってしまうのです。
7. 4ヶ月目以降は、小さな数値の変化に一喜一憂する
ここまで「数値を見るな」「競合を見るな」と言ってきました。しかし、4ヶ月目からは180度方針を変えます。
なぜ4ヶ月目から数値を見るのかというと、3ヶ月間の基礎訓練期間を経て、メンバーには以下の変化が生まれているからです。
- 基本的な執筆スキルが身についている
- 戦略の意図を理解している
- ある程度の記事数が蓄積されている
- チームとしての一体感が生まれている
この段階になれば、数値は「魔物」から「味方」に変わります。そして、ここからが本当の勝負です。
そして、オウンドメディアの成長は、線形ではありません。長い停滞期の後、突然爆発的な成長が訪れる。これが典型的なパターンです。
私が関わった実例でも、このようなパターンがいくつもありました。
- 事例1:リード数2000件で頭打ち → 支援4ヶ月目に倍増の4000件へ急上昇
- 事例2:1年で単月100万PV目標の商業メディア → 10ヶ月で300万PV
- 事例3:1年目社内売上貢献300万円 → 3年で年間十億円
問題は、このブレイクスルーがいつ来るか予測できないことです。明日かもしれないし、1年後かもしれない。だからこそ、それまでの期間をいかに乗り切るかが重要になります。
小さな変化を祝う文化の重要性
4ヶ月目以降は、あえて小さな数値の変化に一喜一憂します。
- 「昨日より滞在時間が10秒伸びた!」→ チーム全員で喜ぶ
- 「この記事、初めてSNSでシェアされた!」→ スクショを共有して盛り上がる
- 「知らない人がXで言及してくれてる!」→ 即座に全員に共有
- 「先月より直帰率が1%改善!」→ ちょっとしたお祝いをする
- 「このキーワードで10位以内に入った!」→ 次は5位を目指そうと意気込む
一見すると些細なことばかりです。しかし、これらの小さな成功体験の積み重ねが、チームの士気を維持し、長い道のりを走り続ける原動力となります。
この一喜一憂が必要なのには、以下の理由があります。
1. モチベーションの維持
- 成果が見えない期間が長すぎると、心が折れる
- 小さな前進でも、前進は前進
- 「やればできる」という実感が次への活力になる
2. 学習機会の創出
- なぜこの記事は読まれたのか?を考える機会
- 成功パターンを見つけ出すヒントになる
- 失敗からも学ぶ姿勢が生まれる
3. チームビルディング
- 共に喜び、共に悔しがる経験がチームを強くする
- 「みんなで作っている」という一体感が生まれる
- 孤独な作業から、チームプレーへと変化する
4. 継続への意欲
- 「成果がすべてを癒す」は真実
- 小さくても成果が見えれば、続ける理由になる
- 経営層への報告材料にもなる
ただし、注意点があります。一喜一憂はするが、方針はブラさない。数値の変化に反応はするが、戦略は変えない。これが重要です。
最後に
これらの7つのルールは、一見すると矛盾しているように見えるかもしれません。「数値を見るな」と言ったり「数値で一喜一憂しろ」と言ったり。「フィードバックするな」と言いながら「最低限の品質は守れ」と言う。
しかし、これらは全て、素人集団を最速で成果を生み出す編集部にするための考えです。
7つのルールの本質
- 守りを固める:誤情報を出さないという絶対防衛ライン
- 集中する:リソースと思考を一点に集める
- スピードを上げる:考えすぎず、まず動く
- 自走させる:自分で考え、成長する組織文化を作る
- モチベーションを保つ:長期戦を戦い抜く精神力を維持する
これらのルールは、すべての組織に当てはまるわけではありません。潤沢な予算があり、プロフェッショナルを雇える企業には不要かもしれません。しかし、限られたリソースで戦わざるを得ない多くの企業にとって、これらは実証済みの方法論です。
オウンドメディアの成功に、魔法はありません。あるのは、正しい方向性と、それを信じて進み続ける勇気だけです。
素人でも、適切なルールがあれば成果は出てきました。ただし、それには覚悟が必要です。すぐに結果を求めず、しかし確実に前進し続ける。まずは、シンプルに、集中して、行動する。そして小さな成功を積み重ねながら、大きな成果へつながっていくことを信じてまずは突っ走ることをおすすめします。
著者情報

TAISHI TERAKURA
Marketing Planner
業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。
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