SEOのV字回復に、提案以外で必要だったこと
ある大規模サイトのSEO改善プロジェクトに、コンサルタントとして参画した時のことです。
参画時点で、施策の分析や提案はすでに一通り揃っていました。ただ、その多くが実装されていない状態でした。実装されているものも、意図した通りにはなっていないものがある。エンジニアとのコミュニケーションで齟齬が生まれ、仕様と違う形でリリースされていたり、途中でエラーが起きて止まっていたり。半年ほど、ほぼ塩漬けとも言える状態が続いていました。
どんなに精度の高い提案があっても、それが実行されなければ成果にはつながりません。SEOに限った話ではないと思いますが、このプロジェクトでは、「正しい提案」があることと「成果が出る」ことは別の話なのだと、改めて感じました。
振り返ってみると、このプロジェクトで成果につながったのは、提案の質を上げることだけではありませんでした。提案が実行される状態——つまり、提案の「外側」も整えていくことだったように思います。ここで言う「外側」とは、チームの動かし方、信頼関係の構築、組織への入り込み方——施策そのものではない、実行環境の整備のことです。その過程で経験したことを、この記事で共有します。
足りなかったのは、施策ではなかった
状況をキャッチアップしていく中で見えてきたのは、SEO施策そのものの問題ではありませんでした。
この企業はブランド力が強く、施策を打たなくても自然にトラフィックが伸びていた時代が長く続いていました。SEOに組織としてリソースを割くという発想が生まれにくかったのは、むしろ自然なことだったと思います。
ただ、市場環境が変わり、オーガニックの流入はピーク時の80%程度にまで落ち込んでいました。それでも原因がどこにあるのか掴めない。「商品の仕入れを増やせば解決するのでは」という声が強く、SEOチームの社内的な発言力も弱い状況でした。
振り返ると、足りなかったのは施策よりも、それを実行に移す推進力だったように思います。この状況が、プロジェクトの進め方を決める出発点になりました。
仕組みを作ると、チームの動き方が変わっていった
このプロジェクトで最初に取り組んだのは、現場のSEOチームとの関係構築でした。
数字のモニタリングが月次の結果ベースになっていて、プロセス指標を週次で追いかける仕組みがまだない。一緒に仕事を進めていく中で分かったのは、チームのメンバーはモチベーションがないわけではなく、テクニカルSEOや大規模サイト運用の具体的な進め方のイメージがまだ掴めていなかった、ということでした。
そこで、KGI・KPIを細かく分解して可視化するシートを作り、各メンバーに毎週レポーティングしてもらう仕組みを整えました。最初は自分が手を動かしてアウトプットを見せながら、「こういう視点で一緒に回していきましょう」と、並走する形で進めていきました。
すると、少しずつ変化が生まれました。このプロジェクトで実感したのは、やり方が見えてくると、チームは自然と動き出すということでした。前職でのマネジメント経験でも感じていたことですが、今回改めて強く実感しています。仕組みでチームを支えるという考え方が、このプロジェクトの土台になっていきました。
小さなボールを拾い続けた先にあったもの
外部の人間が組織の中に入り込むというのは、簡単なことではなく、時間と実務が必要です。
このプロジェクトでは、事業責任者の方と前職で一緒に働いていたご縁があり、立ち上がり自体はスムーズでした。ただ、全社的に見れば「事業責任者が外から知り合いを連れてきた」という見え方は当然あったと思います。中に入り込むスタンスに対して、戸惑いを感じた方もいたはずです。
だからこそ意識したのは、とにかく小さなボールを拾い続けることでした。
SEOチームのSlackチャンネルに入り、「何でも自分に質問を集約してください」と伝えました。マーケチームのマネージャーの方からは、「かえって混乱するのではないか」と心配されました。もっともな懸念だったと思います。「すべて自分が対応します」とお伝えし、実際に一つひとつ丁寧に対応し続けることで、少しずつご理解いただけるようになりました。
とても細かい相談、たとえば「このページの流入が先週から落ちている」というようなものにも、一つひとつ丁寧に返信しました。開発チームとの進捗定例を毎週行い、すべてのチケットに目を通し、ボールが止まっていればメンションして連絡し、進む状態にしました。海外のエンジニアの方々にも、施策の背景やSEOの基礎知識をレクチャーしながら、意図通りの実装になるよう丁寧にコミュニケーションを重ねました。
誰かに見られているかどうかは分かりません。ただ、一つひとつのやり取りを丁寧に続けていくことが、少しずつ信頼関係につながっていったように感じています。
全社向けのSEO勉強会を実施した時も、この下地があったからこそスムーズに進められ、結果として70名以上の方に参加いただきました。他部署の方々に「こういう動きをしているから、成果を伸ばすために協力してほしい」と伝えた際にも、すでに日々のやり取りを通じて関係性ができていることを感じられました。
もちろん、1回の勉強会で何かがガラッと変わるわけではありません。ただ、こうした取り組みを積み重ねることで、施策を進めやすい環境が少しずつ整っていったのだと思います。
半年間、数字が動かない。その時期をどう乗り越えたか
このプロジェクトで最も苦しかったのは、成果がほとんど見えない最初の半年間です。
テクニカルSEOの施策を一つずつリリースし続けていましたが、トラフィックやコンバージョン、売上といった分かりやすい数字はほぼ動きませんでした。大規模サイトのテクニカルSEOには、急に数字を動かせるような魔法はありません。分かっていてやっていることですが、「いつまで続くのか」というフラストレーションは自分にもありましたし、現場のメンバーにとってはなおさらだったと思います。
そこで徹底したのが、最終ゴールである売上ではなく、行動目標にフォーカスすることでした。
プロセス指標を分解し、一番手前の行動指標として「決めたスケジュール通りに施策をリリースし切る」ことをチーム共通の目標に据えました。期日までにやり切ることを緩めなかった結果、最終的には130を超える施策をリリースしていました。自分にできたのは、決めたことをやり切る環境を整え続けることでした。
もう一つ意識していたのは、小さな成功体験を共有し続けることです。最終的な数字に表れなくても、中間指標やプロセス指標として改善しているものがあれば、それを拾って共有する。メンバーが出してくれた分析レポートに毎週目を通してコメントを返す。良い視点があれば、率直に伝える。
モチベーションは仕組みと小さな手応えの積み重ねで支えていけるのではないか。このプロジェクトを通じて、そう感じるようになりました。
気づけば、SEOの枠を超えていた
成果に向き合い続けた結果、自然と影響範囲が広がっていきました。
半年が経ち、中間指標に改善の兆しが見え始めた頃、次の壁が見えてきました。テクニカルSEOだけでは「マイナスをゼロにする」ことしかできない。もっとサービス全体として、SEOを伸ばすための取り組みが必要になる。
すると自然と、SEOチームの枠を超えていくことになりました。商品の仕入れチームに「SEO観点でこういうラインナップがあると強い」と提案したり、全社に向けてSEOの重要性を発信したり。仕入れチームとは、追っている目標が同じだったこともあり、対立するものではなく一緒に成果を伸ばしていく関係として、スムーズに協力いただけました。
最初から「組織全体を巻き込もう」と計画していたわけではなく、目の前の成果に向き合い、必要なことを一つずつやっていった結果、自然とそうなっていたというのが実感です。
組織再編やリソース配分といった大きな意思決定は、事業責任者の方にトップダウンで動いてもらいました。前職で一緒に働いていたご縁があり、最初から目線合わせができていたことは、正直なところラッキーだった部分だと思います。「SEOが今は全社の最優先事項だ」という発信を上から出してもらうことで、開発リソースの確保や部署間の協力がスムーズに進みました。
自分ひとりでは動かせない部分は、上の方に動いてもらう。現場は自分が入り込んで推進する。この両輪が噛み合った結果、振り返ってみると、ピーク時の80%程度まで落ち込んでいたオーガニック流入は、ピーク時の水準まで回復していました。いわば、V字回復に近い形です。
このプロジェクトで私がやっていたことの多くは、SEOの施策そのものではありませんでした。仕組みを整え、関係性を築き、チームが動ける状態を作ること。提案の「外側」にあたる部分が、結果的に成果への道筋になっていたように思います。
もし今、「施策は出しているのに成果が出ない」と感じているなら、一度、提案の質ではなく、提案の外側——実行される環境が整っているかに目を向けてみてもいいかもしれません。
著者情報
AKIRA KISHI
Marketing Director / Consultant
業界歴8年以上。オウンドメディア、コンテンツマーケティングを担当。SEOを軸としたメディア・サービスのグロース支援、インハウス運用支援を行う。
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