「それで、事業全体にはどう繋がるの?」から考える広告運用のベクトル合わせ

広告運用が「できる」ようになってきた。数値の見方も分かる。改善の手も打てる。スキルは確実に身についてきた実感がある。でも、クライアントや上司に報告すると、こう言われる。

「それで、事業全体にはどう繋がるの?」

頑張っているのに、評価されない。何が足りないのか正直よく分からない。これは現場でよく聞く悩みです。

実は、私自身も広告運用を始めたばかりのころ、同じ壁にぶつかりました。細かい数値の改善をクライアントに報告していた時、それが部分的な改善に留まっていることを指摘されたことがあったのです。

どんなに遅くまで管理画面と向き合っていても、どんなに細かい数値改善を積み重ねても、その方向が事業目標とズレていたら、成果には繋がりません。

なぜこのズレが起きるのか。そして、どうすれば事業成長につなげられるのか。これまでの支援や実体験を通して感じてきたことを整理してお伝えします。

なぜ「枝葉」に留まってしまうのか

時間軸、媒体別、カテゴリー別、キーワード単位、クリエイティブ単位…。広告の管理画面の1つ1つの数値を見て、どうチューニングすると改善するかを考え、実行していく。

すると、改善が数値に現れます。CPAが下がる、CVRが上がる。目に見える成果ですが、さらに細かい数値改善に、良い意味でのめり込んでしまうことがあります。

目標としていた数値を達成できた。その成功体験があるからこそ、同じ方法で部分的な改善を深堀してしまう。

一方で、経営層や事業責任者が見ているのは、売上や利益、通期の計画です。

広告運用者が主に見ている指標(CPA、CVR)と、経営層が見ている指標(売上、利益、通期計画)の違いを意識していないと、部分最適から抜け出せなくなってしまいます。つまり、視点のレイヤーが「枝葉」に留まり、「森」が見えなくなってしまい、「で、事業全体としてはどうなの?」という問いが返ってくることになります。

例えば、月額数千万円規模の大きな案件で、デバイスや媒体ごとに担当が分かれていたとします。自分はその中の一部のカテゴリーのGoogle広告担当です。

担当範囲のCPAを改善し、目標を達成した。成功です。でも、視野がそこに狭くなってしまうと、「自分の担当範囲をさらにどう改善するか」という点だけに注力してしまいます。

結局それが良くなったとして、事業会社やインハウスの経営層の視点からすれば、「じゃあ事業全体がどのぐらい良くなったの?」という話です。年間の通期計画に対してどのくらいヒットしているのか、という部分が気になるわけです。

目標の目線を合わせないと、改善しても全体に対するインパクトが分からない。経営層やクライアントは「やるかやらないか」「リソースを割くか割かないか」の判断ができないのです。

ベクトルを合わせるための4つのステップと3つの方法

枝葉だけでなく森も見る。全体最適の視点で、事業全体も見る。言い換えれば、頑張る方向(ベクトル)を、事業目標に合わせるということです。

では、具体的にどうすればいいのか。

ベクトルを合わせるために重要なことの一つは、商材理解です。管理画面のコンバージョン数やCPAだけで判断するのではなく、商材の構造や目標をトップダウンで考え直すことが必要になります。

特別な知識が必要なわけではありません。事業の構造を理解しようとする姿勢があれば、始められます。

4つのステップで目線を合わせる

商材理解を深めるには、段階的に視点を広げていくことが有効です。

  • 第1段階:目の前の数値(CVR、CPA)
  • 第2段階:事業全体の数値(売上額、受注数)
  • 第3段階:利益構造(LTV、リピート率、利益率)
  • 第4段階:ユーザーインサイト(なぜそのセグメントが良いのか)

多くの人は第1段階から始まります。このステップを登っていくことで、視点のレイヤーが「枝葉」から「森」へと広がっていきます。具体的に、ある総合通販の支援プロジェクトでの例を紹介します。

第1段階:目の前の数値改善

最初は、担当カテゴリーのCPAやCVRの改善に注力していました。これは広告運用者として当然のミッションです。キーワードごとの入札調整、クリエイティブのA/Bテスト、品質スコアの改善など、管理画面の数値を見ながら改善を繰り返しました。

第2段階:売上額を見る

次に、視点を少し上げて事業全体を見ると、売上額が高い「家具」カテゴリーが好調であることがわかりました。

家具は単価が高く、よく売れていたので、広告予算を増やして強化。CPAが多少高くても、1件あたりの売上額が大きいので、ROASは良好です。この段階では、「売上額の最大化」を目指していました。

第3段階:LTV、利益構造を見る

さらなる売上額の最大化のために、CRM分析を行いLTVやリピート率を見ていくと、意外な事実が判明しました。家具は単価が高く一見売上額の最大化には寄与しますが、リピート率は低かったのです。一度買ったら、次に買うまでに時間がかかります。

一方、単価の低い「アパレル」の方が、リピート率が高く、年間の利益額で見ると収益性が高かったのです。ここで、目標が「売上額の最大化」から「利益の最大化」へと変わりました。家具からアパレルへシフトしていく判断をしたのです。

第4段階:ユーザーインサイトを理解する

さらに深掘りすると、アパレルの中でも「大きいサイズ」のカテゴリーが特にLTVが高いことが分かりました。

データだけでなくユーザーインサイトも見ていくと、当時、大きいサイズの商品は実店舗にあまり置いていない、実店舗で買うのが恥ずかしいというモチベーションがあることがわかりました。通販で大きいサイズを買う人が、非常にロイヤルカスタマーだったのです。

このインサイトを理解し、次の施策を打ちました。大きいサイズ特集のようなコンテンツを用意し、関連キーワードを増やして広告投資を強化。結果、利益の最大化と、競合と比べて新しいマーケットの開拓ができました。

段階的に深掘りすることで、「広告の最適化」を超えて「事業を伸ばす」ことに繋がったのです。

目線を合わせるための具体的な方法

こうした4つのステップで目線を合わせるために、具体的に3つの方法を実施しています。

方法1:IR資料を見る

管理画面の数値から離れて、事業全体を理解するために有効なのが、IR資料を見ることです。上場企業の場合、IR資料には年間の事業計画、各事業の構成比、課題、今後の大方針が、クォーター単位で開示されています。

例えば、「EC事業が売上の60%を占めていて、今期は前年比20%成長を目指している。そのために新規顧客獲得に投資を強化する」といった情報が分かります。

これを理解すると、自分が担当している広告施策が、年間の通期計画に対してどのくらいのインパクトを持つのか、どの方向に力を入れるべきなのかが見えてきます。目の前のCPA改善が、事業全体の中でどういう位置づけなのかを把握できるのです。

非上場の場合は、同業の競合企業で上場している会社や、業界のトッププレイヤーのIR資料を見るのもおすすめです。業界全体の動きや構造を理解する助けになります。

方法2:KPIツリーを理解する

目の前のミッションだけでなく、その先にある事業全体のKPIツリーを理解することが重要です。例えばB2Bのリード獲得で、ウェビナーを実施するとします。「Meta広告で予算いくら、CPAいくらで毎月20人の申し込みを獲得する」というミッションがあったとします。

最初はその目標達成に向かいます。でも、ここで立ち止まって考えてみる必要があります。その商材がSaaSモデルなのか、コンサルビジネスなのかによって、受注までのプロセスや、一軒あたりの単価、利益構造は異なります。

「20件のウェビナー申し込みを獲得する」その先にある、単価や利益構造、通期の目標計画を理解していかないと次には進めません。

年間の利益目標から月にブレイクダウンして、オウンドメディアで何件、ペイドで何件。ペイドの中でもMeta広告で何件受注が必要か。受注からの商談率が何%だから商談数が何件、リードの有効率が何%だからリード獲得数が何件。

このKPIツリーをどこまで理解しているかが重要です。なぜなら、申し込みが目標を超えて取れても、それが最終的な受注に繋がっていなければ、事業にとっては意味がないからです。KPIツリー全体を理解していれば、「なぜ受注に繋がらないのか?」と紐解くことができ、次の打ち手が見えてきます。

方法3:ヒアリングと資料確認

単価、利益構造などはクライアントや責任者に聞かないと分からないので、ヒアリングや資料確認が必要です。

ただし、ここには注意点があります。いきなり「教えてください」と言っても、信頼を得ていなければ情報を得られないことのほうが多いのです。特に代理店とクライアントの関係だと、社外秘の情報もあるので、全体の目標を開示してくれないケースもあります。

まずは目の前のミッションをきちんと達成し、信頼を獲得することが大事です。足元の成果をきちんと出すこと。その上で、全体を事業目標と連動させるために一緒に向き合ってほしいという思いを伝えていくこと。この両輪が大切だと考えています。

最後に

「できる」から「成果を出せる」への壁。その壁を越えるために必要なのは、スキルを向上させることと並行して、視点の違いを認識し、頑張る方向を事業目標に合わせることだと感じています。

つまり、商材理解を深め、視点を「枝葉」から「森」へ広げる。それが、広告運用を管理画面だけの話にとどめず、事業成長につなげる道筋の一つだと考えています。

著者情報

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SHINYA KIKUCHI

菊池 真也

Marketing Strategist / Consultant

業界歴16年以上。運用型広告のコンサルティング、インハウス化支援、代理店の組織構築などを行う。 成果を最大化するためのチームビルディングが得意。

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