「問い合わせは増えた。でも売れない」——その事実が組織を動かした話

「問い合わせを増やせば売上は伸びる」。その前提のもとで施策を次々に打っているのに、受注が動かない。そんな状況の企業支援に入ったことがあります。

施策を増やしているものの成果につながらない。そのとき何を確かめ、どう動いたのか。案件をそのままお伝えすることはできませんし、あくまで私の経験ではありますが、大切にしてきたファクトで動かし成果につなげるアプローチについて共有します。

「なぜうまくいかないのか」答えが整理されていなかった

相談を受けた当初、私は各施策の状況を一つずつ見せてもらいました。SEOの順位推移、広告の費用対効果、SNSの反応。どの施策もそれぞれ動いてはいる。ただ、見ていくうちに気になったのは施策の中身ではなく、それ以前の話でした。なぜ成果に結びつかないのか、その全体像が誰にも見えていない。そう感じました。

「なんでうまくいっていないか、説明できますか」と聞いてみると、答えは「できない」と返ってきました。なぜ成果が出ないのか、その問い自体が整理されていなかったのです。

CRMは導入されていましたが、データはほとんど更新されていない状態でした。売上の管理も大まかな数字にとどまり、問い合わせから受注までの流れが正確に見えていない。広告費は毎月かけている。でも、それが受注にどうつながっているのか、追える仕組みになっていなかったのです。

もちろん、これ自体も成果が出にくい要因になっていました。ただ、なぜそんな状態が続いていたのか。さらに掘り下げていくと、見えてきたのは組織の意思決定のあり方でした。方針はすべてトップが決める。かつてそれでうまくいっていた経験があるからこそ、これまでと同じアプローチが続いていたのだと思います。

現場の担当者たちも、課題がどこにあるか感覚的には掴んでいたように見えました。ただ、かつての成功体験があるトップには伝えにくい。しかもそれを裏付ける数字がない。支援に入っていた外部の会社も、依頼された施策を実行するにとどまり、そこから先には踏み込めていないようでした。

原因を問い直す材料も、それを議論に持ち込む機会も、なかなか生まれにくい状況。それが、施策を増やしても成果につながらなかった背景だったように思います。

意思決定を動かしたのは、意見ではなく事実だった

組織の状態が見えてくると、「この問題を直接伝えて、変えてもらえばいい」と考えたくなります。ただ、私自身の過去の経験では、いきなり本質的な課題を指摘しても、話が前に進まないことがありました。

正直なところ、「今回は踏み込みすぎたな」と感じたこともあります。信頼関係が十分でない段階で核心を突くと、相手にとっては「外部の人間に指摘された」という受け止め方になりかねない。どれだけ的を射ていても、それが意見である限り、意思決定は動かなかった——そう痛感した場面がありました。

私の中には、サービスの見せ方やターゲティングを見直さない限り、集客だけでは受注にはつながらないのではないか、という思いもありました。ただ、それを意見として伝えても議論にはなりません。

だから私は、まず方針どおりに集客を全力で強化し、その結果を数字で追いかけていくことにしました。

結果として、「問い合わせは増えたのに売れない」という事実が、議論を変えました。「根本から見直さないといけないのではないか」。そんな問いが、初めて社内に生まれたのです。

支援の中で何度も経験してきたことですが、意見だけの指摘では、「いや、自分はそうは思わない」と返されてしまうと議論が止まる場合が多くあります。でも定量の事実があると、そこから議論が動き出すことがある。この企業では、事実をきっかけにサービスの打ち出し方やターゲティングの見直しが動き始めました。

まず目の前の方針をやり切って、その結果を事実として共有する。遠回りに見えても、この案件では、それが次の議論の起点になったように思います。

降りてきたKPIの「そもそも」を疑う

事実で議論が動き始めると、次に生まれた問いがありました。「そもそも、このKPIは正しいのか」という問いです。受けていた依頼は「問い合わせを200件に増やしたい」というものでしたが、受注目標は25件でした。「なんで200なんですか?」と聞くと、明確な根拠がありませんでした。

そこで、歩留まりを全部洗い出してみました。問い合わせからアポイント、商談、受注、売上まで、各ステップの数字を並べていく。すると、200件という数字の前提が崩れ始めました。アポイント率をわずかに改善するだけで、必要な問い合わせ件数は大きく変わる。客単価を見直せば、そもそも件数を積み上げなくても売上目標には届く。200件という数字は、唯一の答えではなかったのです。

逆算してみたことで、会話の質が変わりました。「どうやって200件に届けるか」ではなく、「どの経路なら最も確度高く25件の受注に届くか」。同じ目標に向かっているのに、議論の方向が大きく変わりました。

振り返ると、言われた数字をそのまま追いかけるのではなく、一度立ち止まって逆算したことが、この案件では大きかったように思います。

「売上につながるのか」を問い続ける

施策だけではなく、組織の意思決定や体制そのものに向き合うと、「コンバージョンを100件取りました」のように分かりやすい数字では成果を語りにくくなります。事例として表に出しにくいケースも増える。正直なところ、この問いに踏み込むほど、支援者としての見せ方は難しくなると感じています。

それでも私がこの問いにこだわるのは、施策だけ変えても同じ壁にぶつかる場面を何度も見てきたからです。

だからこそ、「それは本当に売上につながるのか」。クライアントに対しても、自分自身に対しても、常にそう問い返すようにしています。

もし今、施策を増やしても売上が動かないと感じているなら、まず「なぜ成果が出ないのか」を確かめるところから始めてみてください。遠回りに見えるかもしれませんが、そこを確かめることが、次の一手を本当に機能させる起点になると思っています。

著者情報

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SAORI NAGATA

永田 さおり

Strategy & Project Manager

業界歴10年以上。オウンド・コンテンツマーケティングを中心に100社以上を支援。現在はデジタルマーケティングの立ち上げから実行、組織開発・コミュニケーション設計までの総合支援を行う。

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