広告運用工数を1/3にし成果を伸ばした「説明がつくか」という問い
チームは忙しく動いている。施策も回している。でも成果が伸びない。そういった状況は、多くの現場で起きうることだと思います。
ある支援先でもまさにそういう状態でした。工数は増え続けているのに成果は横ばい。状況を整理していく中で見えてきたのは、チームがかけていた工数の大半が成果に結びついていない可能性でした。
事業成長の観点から、業務の選択と集中をどのようなプロセスで進めたのかを共有します。
工数をかけている場所と、成果が生まれる場所がずれていた
ある支援先に入ったときのことです。チームは真剣に広告運用を続けていましたが、成果が伸び悩んでいたため、ターゲットの切り口を変え、新しいセグメントを試すことを繰り返していました。
管理画面を開くと、キャンペーンや広告セットが何百にも及んでいる状態です。富裕層集客を目的とした広告でしたが、富裕層が多そうな興味関心などのターゲティングを次々と試しては、飽和するとまた別の切り口へ。成果を改善しようとするたびに、管理するものが増えていきます。
一つひとつの広告を丁寧に見ていくと、ターゲットを変えているのにバナーは同じ、誘導先のページも同じでした。届けている内容自体は、何一つ変わっていなかったのです。しかも、狙っている層の人数は限られていて、切り口を変えても届いている相手はほぼ同じ可能性がありました。やり方を変えているように見えて、実際には同じ相手に同じものを見せ続けていた。
それでも切り口を変えるたびに数字が一時持ち直すことがあり、チームは「このやり方で合っている」と判断していたのだと思います。ただ、「なぜ持ち直したのか」を振り返る余裕や時間がなく、定型業務を繰り返しているような状況でした。
そこで、思い切って成果に影響していると言い切れない業務をやめたことで成果は保ったまま、運用工数は1/3に。空いたリソースを手を付けられていなかった重点領域に集中できたことで横ばいだった成果が伸びていく結果になりました。
「成果を生んでいる」のか「数字が動いているだけ」なのか
「成果が出ている」ように見える状態で、施策をやめるかどうかを判断するのは簡単ではありません。一時でも数字が持ち直す瞬間があれば、止める強い理由が見つからないからです。ただ、ここで区別しておきたいのは、「成果が出ている」ことと「成果を生み出せている」ことは違うということです。前者は偶然を含みますが、後者には再現できる根拠がある。
この区別をつけるために使ったのが、「なぜこのやり方で成果が出ているのか、説明がつくか」という問いでした。説明がつくなら再現の根拠がある。つかないなら、たまたま条件が変わったから数字が反応しただけかもしれない。説明がつかない施策は、いったん「止める」判断と整理ができます。もちろん、媒体の学習機能を理解してターゲットを変えることで再学習を意図的に走らせ、もう一度リーチしやすくすることも手段としては有効な場合があります。
この支援のケースでは、一気にすべてを変えるのではなく、チームには今のやり方を続けてもらいながら、並行で別のアプローチを試し始めました。ターゲットの切り口を細かく分けるのをやめて、CVRの差が出ることが想定できる区分での最小限の分割にし、広告の仕組みが本来持っている学習機能に任せるやり方です。
並行で試したアプローチはすぐに機能し、結果が数値に現れました。従来実施していたターゲットの切り口を探す作業と、ターゲットごとに成果を蓄積していたレポート作業をなくす判断ができたことで、工数は1/3に。本来集中すべきことに時間を使えるようになったことで、成果を伸ばす状況を整備することができました。
状況や道具が変わっても、同じ問いを続ける理由
この現場で起きた変化は、工数減による効率化だけではありませんでした。
ターゲットの切り口を探していた時間が、広告の表現を磨く時間に。マネージャーは他の業務に手が回るようになり、メンバーはクリエイティブのことを考えられるようになりました。チームがやりたくても手が付けられなかった仕事に、集中できる状態になっていきました。
やったことは特別なことではなく「この施策は成果を生んでいると言えるか」と問いかけて、言えないものをやめた。それだけのことです。シンプルな問いで、すぐに実行することもできますが、この現場に限らず、成果につながらないものに時間や工数をかけてしまう状況は、構造的に起こりやすいと感じています。それは、「これは成果を生んでいると説明がつくか」を問える知識や経験がある程度なければ、だんだんと施策を実行すること自体が目的にすり替わってしまう事が多いからです。
かつて自動入札が浸透したとき、自分自身で直接経験することが減ってしまい、成果の変動要因を説明できない人が増えたと言われたことがありました。さらに今はAIに「広告の改善案を出して」と打てば、すぐに提案が返ってくる時代です。道具はどんどん進化していきますが、その内容を判断する知識・経験がなければ、間違えた方向性であってもそのまま突き進んでしまうリスクを抱えているということもできます。
広告運用は手段であって目的ではないので、自動入札にしてもAI活用にしても、「どう活用することが成果を生むのか」を理解できていることが重要だと考えています。マーケターとして、成果をどう生み出すか。道具や状況が変わっても、問いは変わらないのだと思います。
工数が膨らんでいるものの、成果が頭打ちという状況に直面したときには、これは成果を生んでいると説明がつくかどうかを問い直すようにしています。そして問い直すことで、現場も成果も動き始めると感じています。
著者情報
KENGO MATSUO
Marketing Strategist / Consultant
業界歴17年以上。デジタルマーケティング戦略設計・運用型広告(月額広告費10万円から数億円まで)を中心に支援。新規事業のテストマーケや計画設計も含め、様々なフェーズの支援を経験。
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