ひらめきに頼らない。知恵を掛け合わせる広告アイデアの発想法

成熟した市場で広告運用をしていると、「もう新しいアイデアがない」という壁にぶつかることがあります。

顕在層の獲得競争は激しく、どの会社も似たようなアプローチで取り合いをしている。予算を増やしてもCPA(顧客獲得単価)は高止まり。かといって、画期的なアイデアが突然降ってくるわけでもない。

私はTHE MOLTSで広告運用の支援をしていますが、特別なひらめきがあるタイプではなく、そういう壁にぶつかってきた一人です。

ただ、日常の中で面白いと思ったサービスや事例をとにかく「ポケット」に入れ続ける習慣があります。そしてそれをユーザーの視点で眺め直し、根源的欲求で検証して、広告で小さくテストする。このサイクルの中で、成熟市場でも新しい打ち手を見つけてきました。

この記事では、私が実践しているアイデア発想のプロセスを紹介します。決して特別な方法論ではありませんが、再現性のあるアプローチだと考えています。

世の中の知恵をポケットに入れ続ける

私は日常的に、いろいろなサービスやビジネスモデルを観察しています。

「なぜこのサービスは伸びているんだろう」
「なぜこの会社は成功しているんだろう」

そういうことを、仕事以外の時間にも考えることが少なくありません。

今すぐ自分の担当案件に使えるかはわかりません。それでも、面白いと思ったものはとにかくポケットに入れておきます。世の中にはすでに優秀なビジネスアイデアがたくさんあり、知っているか知らないか、出会えているかどうかの差だと思っています。必ずしも優れたビジネスアイデアを自分で”発明”するのではなく、“発見”するという考えです。

たとえば、あるフリマサービスの成長戦略を知った時のことです。そのサービスは、売り手を直接集めるのではなく、まず買い手を大量に集めることに注力していました。

買い物の体験をした人が「自分のいらないものにもこんな値段がつくのか」と気づき、自然に売り手側へ回っていく。この「入口を逆にする」という構造が、後に別の案件で活きました。

顕在層の奪い合いが激しい業界で、今すぐサービスを必要としている人ではなく、まだ情報収集の段階にいる潜在層にアプローチするヒントになったのです。

フリマサービスとその案件では、業界も規模も文脈もまったく違います。それでも「入口を逆にする」という構造は同じでした。

ポケットの中のアイディアを使う時に意識しているのは、「自分の一人よがりではないか」を確認することです。

面白いと思ったアイデアでも、実際に別の文脈で成功している事例があるかどうかを調べる。他の業界やサービスで似た構造がすでに成立しているなら、自分の単なる思いつきではなく、再現性のある発想だと判断できます。そして、自分の仮説を潰そうとしても潰れない状態まで検証してから動くようにしています。

こうした知恵の蓄積は、狙ってやっているわけではありません。ただ面白いと思ったものを拾い続けているだけです。

ただ、ポケットの中身が増えるほど、クライアントの課題に向き合った時に「あ、あれが使えるかもしれない」と結びつく瞬間が増えていきます。

ユーザーに「憑依」するために生の声を集める

ポケットにアイデアの「点」があっても、何と掛け合わせるべきかは自分では決められません。それを教えてくれるのは、ユーザーの生の声です。

私がまずやるのは、ユーザーの声となる一次情報を徹底的に集めることです。

  • 問い合わせフォームの自由記述
  • 営業担当が聞いた対面での声
  • CV後のアンケート
  • CVしなかった人の理由

全部、生データのままもらいに行きます。

クライアントの「こういう人に使ってほしい」「こんな思いで作ったサービスです」という話は、一旦横に置かせていただいています。それはサービス提供側の願望であって、ユーザーの実態とは限りません。実態として誰がどう反応しているのか。そちらの方がずっと大事です。

特に価値があるのは、「CVしなかった(選ばなかった)人」の声です。転職する人に「なぜ辞めたのか」を聞くのと同じ発想だと思っています。会社に残っている人に「好きなところは?」と聞いても、盲目的になりやすい。「全部好きです」と返ってきてしまう。でも、辞めた人は客観的に見えている。「ここが嫌だった」とはっきり言ってくれるから、改善すべきポイントが明確になります。

サービスでも同じで、検討したけれど選ばなかった人の声の方が、次に何をすべきかのヒントになることが多いのです。

「ここが引っかかった」
「このタイミングじゃなかった」
「もう少しこうだったら検討した」
──こうした声を集めることで、どういう切り口なら響くのかが見えてきます。

声を集めたら、まず俯瞰して分類します。

「こういう動機で問い合わせてくる人がいる」
「この悩みを抱えている層がある」

データ全体を見渡して軸を整理していく作業では、特定の誰かに感情移入しません。いきなり「この人がターゲットだ」と決めてしまうと、自分の好みやバイアスが混ざって判断をミスリードしてしまうからです。

軸の整理ができて、「こういう層は確かにいるな」「ここには再現性がありそうだ」と思えるものが見えてきたら、そこで初めてどっぷりとその人の視点に入り込みます。その人になりきって、日常でどんなことを考えていて、何に反応するのかを感じ取る。

ユーザーの視点で自分のポケットの中を眺め直してみると、「このアイデアは響きそうだ」「ここにビビッとくるものがある」というものが浮かび上がってきます。

根源的欲求を「チェック表」として使う

面白いアイデアが浮かんだ時、すぐに「これはいける」と思いたくなります。でも、それが自分の好みやバイアスなのか、本当にユーザーに刺さるのかは別の問題です。

ここで使っているのが、根源的欲求です。

根源的欲求とは、人間に生物学的にプログラムされている基本的な欲求のことです。『現代広告の心理技術101』(ドルー・エリック・ホイットマン著)では、以下の8つが挙げられています。

  1. 生き残り、人生を楽しみ、長生きしたい
  2. 食べ物、飲み物を味わいたい
  3. 恐怖、痛み、危険を免れたい
  4. 性的に交わりたい
  5. 快適に暮らしたい
  6. 他人に勝り、世の中に後れを取りたくない
  7. 愛する人を気遣い、守りたい
  8. 社会的に認められたい

「情報が欲しい」「便利であってほしい」といった表層的なニーズよりもずっと深いところにある動機。ここに触れているかどうかが、アイデアが人を動かせるかの分かれ目になると考えています。

ただし、最初から根源的欲求を狙ってアイデアを考えるわけではありません。

まずは面白いと思ったものを自由に広げます。ポケットの中から使えそうなものを出してみる。発想の段階では、個人の直感や「面白そう」という感覚をそのまま活かします。

その後で、この8つの根源的欲求と照らし合わせる。そのアイデアがどれだけ根源的な動機に触れているかを確認します。チェックがたくさんつくアイデアは、当たる確率が高い。個人の好き嫌いではなく、客観的に判断できる基準になります。

たとえば、ある案件でさまざまなギミックを試していた中から「偏差値」という切り口に行き着いたことがあります。最初は「自分のビジネスの立ち位置を偏差値でスコアリングできたら面白いかも」という直感的なアイデアでした。

これを根源的欲求と照らし合わせてみると、偏差値は「他人に勝りたい」「後れを取りたくない」という動機と結びついていました。ターゲット層は学生時代に偏差値を見て進路を選んできた世代が多く、偏差値というフォーマットで自分の立ち位置を知ることに興味を持つ可能性が高い。「面白そう」から始まったアイデアが、根源的欲求で検証した結果、確度が高いと判断できた。だからこそ、本格的に取り組む決断ができました。

このアプローチは、チームでのアイデア出しにも使えると思っています。ホワイトボードにアイデアを出し切った後で、根源的欲求のチェック表と照らし合わせて「どれが一番チェックがつくか」で選ぶ。個人の好みや声の大きさではなく、客観的な基準で方向性を決められるようになります。

広告で小さくテストする

アイデアの確度が見えてきたら、すぐに広告でテストします。

私が1つの基準にしているのは、CVR(コンバージョン率)1%です。100人にアプローチして1人が反応すれば、そのコミュニケーションは成立していると考えています。リアルに想像してみても、100人に声をかけて誰にも響かないなら、何かが根本的にずれていると思うからです。

ただし、1つのLP(ランディングページ)でCVRを1%から10%に引き上げるのは大変です。10人中1人を口説き落とすのはしんどい。それよりも、別の切り口のコミュニケーションを10個作って、それぞれ1%を目指す方が現実的です。

テストの規模は300人程度です。100人だとノイズの可能性があるので、3セットやって、繰り返し1%が出るかどうかで再現性を確認します。100人に声をかけて誰にも響かなかったが、もしかしたら101人目で響くこともあり得るので、とりあえず3倍までは誤差の範囲として許容しテストします。

ここで気をつけているのは、結果の判断はユーザーに委ねるということです。新しいアイデアに取り組んでいると、どうしても「うまくいってほしい」という期待が入り込みます。恋は盲目というか、自分のアイデアに思い入れが強くなりすぎてしまう。でも、判断するのはユーザーです。手応えがなければすぐ止めて次に行く。この割り切りが、テストの精度を保つために大事だと思っています。

もう一つ注意しているのが、広告配信プラットフォームのAI最適化に頼りすぎないことです。GoogleやMeta(Facebook)などの広告プラットフォームは、「広めに配信してAIに任せる」ことを推奨しますが、大量のデータで最適化するAIは、体力のある企業には有効です。

ただ、300人規模の小さなテストでは事情が違います。

特定の相手に向けて「ラブレター」を書いたのに、AIに配信を任せた結果、宛先の違う人にばかり届いてしまう──これでは反応がなくて当然です。届けたい相手は決まっているのだから、自分でターゲットを絞って配信する。媒体が「ターゲットが小さすぎます」とアラートを出してきても、それは本質ではないと考えています。

まとめ

広告を作ることは、ラブレターを書くことに似ていると思っています。

「あなたのために準備したもの」を、ちゃんとその人に届ける。そのために、日常の好奇心でポケットを満たし、ユーザーの声で届け先を見定め、根源的欲求で中身を確かめ、小さく試す。

特別な才能やひらめきがなくても、この習慣の積み重ねが、成熟市場でも新しい打ち手を見つける力になっています。

著者情報

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SHOTA TAKAHASHI

高橋 翔太

Marketing Director / Consultant

業界歴9年以上。リスティング広告を中心とする運用型広告の代行、インハウス化支援を担当。また企業の広告担当としての既存代理店との折衝にも従事。

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