なぜサイト滞在時間は「長ければ良い」とは限らないのか
こんにちは、THE MOLTSのデータアナリストの西です。
みなさんは、こんな発言をしたり、耳にしたことはありませんか?
「滞在時間が短いから、サイトに問題がある」
私もデジタルマーケティングの現場にいて、「滞在時間が短いのが問題だ」「もっと滞在時間を延ばす施策を考えよう」といった要望をよく耳にします。
たしかに、一般感覚的には「滞在時間は長い方が良い」とされることが多いですよね。でも実は、この一般論には大きな落とし穴があるんです。
今回は、滞在時間指標の本質的な捉え方と、UX改善時代における評価軸について、現場での実体験をもとにお話しします。
「滞在時間は長い方が良い」という一般論の背景
まず、なぜ「滞在時間は長い方が良い」という考え方が生まれたのかを整理してみましょう。
実際に私がクライアントワークをしていて感じるのは、この考え方は直帰率との対比で語られることが多いと考えています。
直帰する人や数ページで離脱する人は、必然的に滞在時間が短くなります。一方で、コンバージョンする人はフォーム入力などにかかる時間を考えると、滞在時間が長くなります。
つまり、
- 直帰・早期離脱 = 滞在時間短い = 悪い
- CV到達 = ページ閲覧+フォーム入力時間 = 滞在時間長い = 良い
という相関関係から、「滞在時間が長い = 良いユーザー行動」という一般論が生まれているわけです。
理論的に考えればこの流れは納得できますし、多くのケースで当てはまる法則でもあります。
タイパの時代に何が起きているか
ここで「タイパ」という言葉を思い出してみてください。
タイパとは「短い時間で目的を遂行できること」を意味します。つまり、効率よく、迷わずに、最短ルートでゴールに到達することが、ユーザーにとって最高の体験になります。
Webサイトやアプリにおいても、なるべくCVまでのステップを短くする努力をすることがありますよね。
分かりやすい例として、Amazonでの買い物体験があります。
あの1クリック購入機能、めちゃくちゃ便利じゃないですか?慣れ親しんだユーザーなら、商品を見つけて即座に購入完了。滞在時間はめちゃくちゃ短いですが、これは明らかにUXの勝利パターンです。
私自身もAmazonで買い物する際に、欲しいものがすぐ見つかって1クリックで購入できる体験は素晴らしいと感じます。
LPの鉄則が教えてくれること
LP(ランディングページ)制作の鉄則として、「ファーストビューにCTAを置く」というものがあります。また、ファーストビュー内にフォームを設置しているケースもあります。
これは、サイト訪問前から「買いたい」「予約したい」といったCV意向の高い方が来たときのための動線です。このような方は、最小の時間で購入したいはずですよね。
だから、ファーストビューのCTAを使ってくれるユーザーは、滞在時間が圧倒的に短くなります。でもこれは、従来の「滞在時間が長い方が良い」という指標で測ったら、「悪い」ユーザー行動として捉えられてしまう可能性があります。
私たちがLPの改善支援をする際も、この点はクライアントと丁寧に話し合うことが多いです。
滞在時間を正しく評価するための3つの視点
では、どのように滞在時間指標と向き合えばいいのでしょうか。私の経験から、3つの視点が重要だと感じています。
1. ユーザーストーリーごとに滞在時間の意味を考える
各ユーザーストーリーにおいて、滞在時間が長くなるケース・短くなるケースを想定しておくことが大切です。
- 情報収集フェーズのユーザー → 滞在時間が長い方が良い
- 購入意向の高いユーザー → 滞在時間が短い方が良い
- 比較検討中のユーザー → 適度な滞在時間が理想的
といった形で、ユーザーの状況によって理想的な滞在時間は変わるということを認識しておくと良いでしょう。
2. ページの役割を理解する
とくに重要なのが、ナビゲーションの役目となるページへの着目です。
カテゴリページやサイトマップのようなページは、基本的に長く滞在してもらうことではなく、さくっと目当てのページを見つけられることが重要になります。
つまり、ページ単体で見れば滞在時間が短い方が良いということです。滞在時間が長いということは、「迷っている」状態を示している可能性すらあります。
3. 滞在時間指標を使わない
前述の通り、滞在時間は曖昧性を持った指標です。サイトをちゃんと閲覧してくれているかを評価したいのであれば、直帰率やPV/セッション、フォーム到達率を見た方が、ミスリードしにくいです。あえて利用しないというのも合理的な判断です。
ただし、代替指標としてPV/セッションを利用する場合であっても、PVを伸ばすことが本当に正なのか(ただ迷ってるだけでは?)という点には注意を払う必要があります。やはり、ユーザーストーリーやページの役割を考えて、利用すべき指標を選定する必要があります。
「直帰の場合は、滞在時間として計上されないんじゃないの?」
昔からアクセス解析ツールを利用してきた方は、滞在時間は直帰されると正確に計測できないと理解している方もいらっしゃるのではないかと思います。これは、一般的なアクセス解析ツールでは正しい認識です。
一方、GA4に関しては滞在時間の計測精度を高めるために、かなり細かな工夫がされており、直帰した方も比較的正しく滞在時間が計測できるようになっています。興味がある方は以下のヘルプを参照してみてください。
「私はユーザーストーリーとかじゃなく、定量的に評価したいのだ!」
アナリストとしての矜持として、この考えはとても理解できます。そういう方は、滞在時間やPV/セッションとCVRの相関をGA4のローデータ(BigQuery)から出して、サチる(saturation/飽和する)ポイントを見つけてみるのもよいでしょう。
これはこれで綺麗な対数関数グラフを描くので、分析してみると面白いと思います。得られることも多いです。
UX改善施策では滞在時間が短くなることを狙う
タイパやUX改善を狙った施策においては、滞在時間はむしろ短くなることを目標にすることもあります。
この場合に見るべき指標は、以下になります。
- そのエクスペリエンス(体験)に触れた方の滞在時間が短くなっているか
- CVRは改善したか
- ユーザビリティ指標(タスク完了率など)は向上したか
従来の「滞在時間が短くなった = 悪化」という単純な評価軸では、優れたUX改善を見落としてしまう可能性があるんです。
結局、何を基準に判断すればいいのか
「ページや機能がもたらすユーザー体験を考えたときに、この体験は滞在時間を長くするものか、短くするものか、長い方が嬉しいのか、むしろ短い方が嬉しいのか」
この視点で、滞在時間指標に向き合うことが重要だと思います。
具体的には、
- ECサイトの商品詳細ページ → 十分な情報提供で滞在時間長めでもOK
- 決済フローのページ → 迷わず短時間で完了できる方が良い
- ブログ記事 → 最後まで読んでもらえる滞在時間が理想
- FAQ・ヘルプページ → 求める答えを素早く見つけられる方が良い
といった形で、ページの目的や役割に応じて理想的な滞在時間を設定するのが良いのではないでしょうか。
さいごに
正直、この話をクライアントにするときに特別なコツがあるわけではありません。理論的に考えたらそうだよねという話なので、しっかりお話しして理解・検討してもらうに尽きるかなと思います。
ただ、重要なのはデータや指標に振り回されず、常にユーザー視点を持ち続けることだと感じています。
「この数値が良い・悪い」の前に、「ユーザーにとって良い体験になっているか」を考える。そうすることで、滞在時間という指標も、ビジネス成長のための有効なツールとして活用できるはずです。
著者情報

MASAHIRO NISHI
Marketing Strategist / Data Analyst
業界歴16年以上。データ戦略の立案、アクセス解析、 CVR改善、データ活用基盤の構築など、データドリブンなマーケティング組織の構築を支援。電通デジタルを経て2019年にTHE MOLTS参画。
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