プロンプトはどんなときに必要か?
「プロンプトは覚えるべきか?」
生成AIを使い始めた人なら一度は抱く疑問だと思います。私の立場は明快です。9割の用途には不要。AIはあなたが曖昧に聞いても、勝手に噛み砕いて答えてくれるからです。それに、「◯◯をしたいからプロンプトを考えて」と指示すれば、AIが代わりに組み立ててくれます。
しかし残りの1割、この部分を軽視してはいけません。この1割を押さえられるかどうかで、AI活用は成功と失敗に分かれます。
私自身、それなりにAIを活用している自負はあるものの、プロンプトというものをAIとの対話の中で用いなくとも目的が達成できると感じています。1、2年前は確かに精度も今ひとつではあったので、工夫を施してうまく自分が得たいものを得るためにプロンプトを活用することも一定の価値がありました。しかし、現在の最新モデルでは推論が効いているため、そんなことをせずとも人間側の意図を読んでくれるようになったと感じています。
プロンプトが必要な“1割”の場面
一発で決めたいとき
例えば弊社では、お問い合わせメールをAIで分類しています。スパムか、営業か、テスト送信か、有効な問い合わせか。ここでブレがあると、商談機会を逃すことになります。だからこそ「必ずこの4分類に振り分けよ」というプロンプトが必要です。
明確にエージェントモードを意識するようになったのは、n8n(AIワークフロー)を触り始めてからです。n8nはAIの出力を安定させる必要があるため、プロンプトでコントロールする必要が出てきました。AIの使い方にも分類があり、相棒や師として使うのか、部下として使うのかでプロンプトの要否も決まるなと感じています。
リスクを避けたいとき
データアナリストの私は、SQLをAIにつくらせることがしばしばあります。この用途におけるAI利用はとても便利ですが、DELETE文を出力されたらテーブルを破壊しかねません。だから「DELETEは禁止」とあらかじめルールを明示する。これはプロンプトが“ガードレール”の役割を果たしている典型です。
再現性を確保したいとき
チームでAIを共有して使うなら、誰が実行しても同じ結果になる必要があります。「このフォーマットで」「この粒度で」とプロンプトを統一することで、属人化を防ぎます。
AIとの対話モードを切り替えるとき
実はこの記事を書いている今もそうです。この記事の下書きはChatGPTで行っていますが、GPT-5モデルは推論が得意すぎて、放っておくと、私の意見を聞く前に持論を展開してしまいがちです。使えばわかると思いますが、私が1を伝えたら100を返してくる感覚です。そして、その答えは概ね合っているのですが、主題にしたいことを無視して論を展開するので、自分が言いたいこととは違うのでちょっと傾聴してという意味で「推論はいらない」と伝えました。
すると出力のスタイルが変わり、私にとってちょうどよい“対談相手”になった。GPT-5モデルは優秀なので、推論はいらないと言えばちゃんと傾聴モードになって、いい相棒になります。これも立派なプロンプトの効用です。
相棒として使うか、エージェントとして使うか
生成AIには二つの顔があります。一つは自由度を活かした相棒モード。もう一つは、期待どおりに正確に動くエージェントモードです。
相棒モード
- アイデアを一緒に考えたい
- 相談に乗ってほしい
- 別の視点から意見を聞きたい
- 文章をラフに下書きしてほしい
- 気づきをもらえれば十分
この場合、プロンプトを練り込む必要はあまりありません。自由度を残す方が成果につながります。
エージェントモード
- 必ず決められた分類に仕分けたい
- 禁止事項を破らせてはいけない
- 誰が使っても同じ出力を保証したい
- やり直しが効かない処理を任せたい
- 定型作業を自動化して任せたい
この場合はプロンプトが命令書になります。出力の安定性と再現性を確保するために欠かせません。
こうして整理すると、プロンプトが必要かどうかは「相棒として使うのか、エージェントとして使うのか」によって決まることがわかります。だからこそ大切なのは、どんな場面でもプロンプトを駆使することではなく、自分が今どちらのモードでAIを使おうとしているのかを見極めることです。
「プロンプトは覚えるな、見極めろ」
最後に強調したいのはここです。私は「プロンプトは場合により必要」とは言いましたが、「プロンプトの書き方を覚えろ」とは言っていません。
どんなプロンプトにすべきかは、人間が頭をひねるよりも、AI自身に考えさせた方がシンプルで漏れが少ない。人が覚えるべきは小技の数ではなく、「これは相棒として自由に振る舞わせる場面か、それとも部下として制御すべき場面か」を見極める力なのです。
やはりAIを活用しようと考える人が、プロンプトを覚えなきゃと考えてしまうことが機会損失だなと感じています。もっと気軽に使えばいいし、どういう時にプロンプトが必要になるのかを押さえておけば、そこで初めて学べばよい。敷居を低くするためのお話として展開したいのです。
難しいことは考えずに、とにかく生成AIと向き合えばいい。プロンプトが必要な局面に出会ったら、AIに作ってもらえばいいから、やっぱり難しいことは覚えずに気軽に使ってみることから始めてほしい。もちろん機密情報をそのままインプットしちゃいけませんが、それさえ気をつければ、AIはあなたの良きパートナーになってくれるはずです。
著者情報
MASAHIRO NISHI
Marketing Strategist / Data Analyst
業界歴16年以上。データ戦略の立案、アクセス解析、 CVR改善、データ活用基盤の構築など、データドリブンなマーケティング組織の構築を支援。電通デジタルを経て2019年にTHE MOLTS参画。
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