グロースフェーズから始める運用型広告の基本的な7つの考え方

サービスが売れ始めている。市場の手応えもある。ここから広告を使って本格的にグロースさせたい。

そう考えて運用型広告を始めようとした時、よく聞かれるのがこんな声です。

「何から着手すればいいのか分からない」
「どうテストを進めればいいのか知りたい」
「テストをいつまで続ければいいのか迷う」

この3つの悩み、実はテストマーケティングの定義が明確でないことから生まれています。

デジタルマーケティングは仮説検証の繰り返しです。テストできるパターンは無数にあり、改善の余地は常に見つかります。だからこそ、何を優先し、どう進め、どこで終わるかという明確な定義が必要です。定義がなければ、ずっと仮説検証を繰り返し続けることになってしまいます。

定義は状況によって変わります。

この記事では、グロースフェーズにおけるテストマーケティングのゴールを「踏み込める軸を見つけること」と定義し、そのための7つの考え方をまとめました。

ただし、これらはあくまで基本的なフレームワークです。予算規模、業種、ビジネスモデル、市場環境によって、実際に取り組むべき内容や優先順位は変わります。

この記事の対象フェーズ

この記事は、以下のような状態を想定しています。

  • サービスが売れ始めている、または一定の手応えがある
  • 既存チャネル(SEO、紹介、既存顧客など)で顧客獲得の実績がある
  • ここから広告を使って本格的にスケールさせたい

つまり、ゼロから訴求を探すフェーズではなく、既にある程度の手応えがある状態から、広告でグロースさせるフェーズです。

逆に、以下のフェーズは対象外です。

  • まだ売れるかどうか分からない状態
  • コミュニケーション軸を開発するフェーズ
  • サービスやプロダクトそのものを改善するフェーズ

グロースフェーズにおけるテストマーケティングのゴール

私は、テストマーケティングのゴールを「踏み込める軸を見つけること」と定義しています。

踏み込める軸とは、「この訴求で、このターゲットに、予算を積み増せば、目標CPA(顧客獲得単価)以内で拡大できる」という確信が持てる状態です。

この確信が持てたら終了。持てなければ継続。シンプルですが、この定義があるだけで判断が明確になります。

例えば、「500万円の予算でテストマーケティングをやりましょう」というオーダーを受けた時、考え方は2つに分かれます。「500万円をどう使い切るか」を考えるか、「300万円で検証が終わったら、200万円を返す」と考えるか。

この違いを生むのは、終わりの定義があるかどうかです。定義がなければ予算を使い切ることが前提になり、定義があれば必要最低限で終わらせることができます。

私の経験上、テストマーケティングとは「本気で成果を上げるために、複数のパターンを検証する期間」です。論理的に整理されたテストパターンを作ることが目的化してしまうと、肝心の成果に繋がりません。だからこそ、ゴールから逆算した明確な考え方が必要になります。

このゴールを達成するために、実際に使っている7つの考え方を、準備・実行・判断という3つのフェーズに分けてまとめました。

なお、これらの考え方は多くのケースに共通する基本的なアプローチです。実際のプロジェクトでは、予算、期間、業種、ビジネスモデルに応じて柔軟に適用していくことが重要です。

準備フェーズ:始める前に握ること

テストマーケティングを始める前に、最も重要なのは「期待値の調整」です。関係者全員で現実的な見通しを共有しておかないと、途中でプロジェクトが止まってしまいます。

1. 最初のシミュレーションは外れる前提で進める

過去データを使う際、よくある失敗が「文脈を無視して数値をそのまま使ってしまう」ことです。

例えば、指名検索のCVR(コンバージョン率)50%を、新規広告のシミュレーションにそのまま適用してしまう。しかし、指名検索は「すでにサービスを知っているユーザー」が能動的に検索している状態です。一方、新規広告は「まだ知らない潜在層」へのアプローチ。同じCVRという指標でも、ユーザーの状態が全く異なるため、新規広告では1/100(0.5%程度)まで下がることも珍しくありません。

だからこそ、「どのチャネルで、どんなユーザーが、どんな状態で出た数値か」を分解して把握する必要があります。

ただし、文脈を理解してシミュレーションを組んだとしても、最初はほぼ外れます。

だからこそ、外れる前提で進めることが重要です。具体的には、楽観・現実・悲観の3シナリオを用意します。「ストレッチ目標ならこのライン、現実的にはこのライン」という幅を持たせる。そして「初月の実績を見てシミュレーションを作り直す」と最初に宣言しておく。

データが溜まるたびにシミュレーションを更新し、精度を上げていく。この前提を関係者全員で握らないと、「想定と違う」という理由でプロジェクトが止まります。

シミュレーションの目的は「当てること」ではなく「現実を共有すること」です。

実行フェーズ:検証の進め方

テストできるパターンは無数にあります。だからこそ、何を優先し、どう絞り込み、どう検証するかが重要になります。

2. 仮説の強い順に検証する

3ターゲット × 3訴求 × 3オファー(資料請求、問い合わせなど)= 27パターン。予算と時間を考えると、全てを検証するのは現実的ではありません。

だからこそ、最も刺さる可能性が高い組み合わせである「コア仮説」に予算を集中させます。早期に勝ちパターンを見つけたら、残予算を次の検証へ回す。ダメなパターンは早期に切り捨てる。

このメリハリが、限られたリソースで「踏み込める軸」を見つける鍵になります。網羅的に検証したくなる誘惑はありますが、ゴールから逆算したときに本当に必要な検証なのかを常に問うことが重要です。

例えば、あるサービスでは「ファミリー」「投資家」「パワーカップル」など複数のターゲット候補がありました。セオリー通りなら全てをテストしますが、「パワーカップルに最も刺さる」という仮説に絞り込み、検証を集中。結果、早期に勝ちパターンを発見できました。

3. チャネルを1つに絞る

「Google、Yahoo、Meta、全部の広告チャネルで試したい」

よくある発想ですが、これは成果に繋がりにくいパターンです。予算が分散すると、どのチャネルも中途半端になります。「どの訴求が刺さるか」という本質的な検証が進まず、判断に必要なデータも集まりません。

効果的なアプローチは、1つのチャネルに集中 → 勝ちパターン確立 → 横展開です。たとえば予算500万円なら、まずGoogle検索に絞って訴求を検証。勝ちパターンが見つかってから、残りの予算でYahoo、Metaへ展開していきます。

勝ちパターン(訴求とターゲットの組み合わせ)が見つかれば、それを別のチャネルに横展開することで、効率的に拡大できます。

いろんなチャネルで試すよりも、「刺さる訴求を見つける」方が重要です。その訴求を軸にして、後から複数の媒体に広げていく。この順序を守ることで、「何が成果に繋がったのか」が明確になります。

4. 大きな仮説から検証する

まず検証するのは、Who × What(誰に・何を訴求するか)という大きな仮説です。「30代子育て世帯に時短訴求」と「40代共働きに品質訴求」、どちらが刺さるか。勝ち筋が見えてから、細部(ボタンの色、背景、人物 or イラスト)を最適化する。

この順序を逆にすると、テストパターンが煩雑になり、肝心の軸が見つかりません。

論理的に網羅性を重視して細かく整理されたテストパターンを作ることは、一見正しいアプローチに見えます。しかし、ボタンの色や背景といった「点」の検証から始めてしまうと、最初の段階で勝ち筋を見出すことが難しくなります。

より大きな「Who/What」を軸にしたクリエイティブのAパターン、Bパターンで勝ち筋を見出してから、細部の最適化に進む。この順序が重要です。

判断フェーズ:終わりの見極め方

データが集まってきた。ある程度結果も見えてきた。ここで重要なのは、「まだ続けるべきか、終わりにするか」の判断基準です。

5. 初期数値で判断しない

運用型広告には特性があります。初期フェーズでは、データが蓄積され配信が最適化されることで、CPAが当初の1/10まで改善することもあります。一方、安定フェーズでは数%の改善が現実的なラインです。

にもかかわらず、初期の高CPAを見てすぐに止めてしまう。これが最も多い失敗の原因です。

運用型広告は、データを見て改善するというPDCA(計画・実行・評価・改善)を重ねることで成果を最大化していく仕組みです。だからこそ「初期は成果が低く、段階的に改善する」という前提を関係者で握ります。

楽観・現実・悲観のシナリオを事前共有し、期待値を調整しておく。この期待値調整がないと、テストマーケティングのフェーズを最後まで進めることが難しくなります。

ちなみに、広告クリエイティブ(広告素材)は70-80点でスタートするのが現実的です。完璧を求めて時間をかけるより、データを見ながら改善する方が早く成果に繋がります。ブランド価値とマーケティング効果のバランスは、テストしながら調整していくものです。

6. 目標CPA以内で拡大できるかで見極める

通常、広告予算を増やすとCPAは悪化します。売上は上がっても、採算が合わなくなるというジレンマです。

しかし、予算を積み増してもCPAが変わらない、むしろ改善するという状態が見えてきたら、その訴求とターゲットの組み合わせは「拡大できる軸」だと判断できます。

「この訴求で、このターゲットに、予算を積み増せば、目標CPA以内で拡大できる」という確信が持てた時点で、テストマーケティングは終了です。拡大フェーズへ移行します。

この「目標CPA以内で拡大できるか」という判断基準が、テストマーケティングの終わりを見極める最も重要な指標になります。

7. 自動化を過信しない

Google広告やMeta広告などの自動化機能は強力ですが、テストマーケティングにおいては注意が必要です。

自動化アルゴリズムは、早く成果が出たものに配信を集中させる特性があります。A・B・C・Dの4つの訴求をテストした場合、Aがわずかに良い反応を示すと、配信の9割がAに寄ってしまうことがあります。

短期的な効率は上がりますが、これでは「本当にB・C・Dがダメだったのか」という検証ができません。配信条件や時期を変えれば、Bの方が良い結果を出すこともあります。

テストマーケティングの目的は、効率化ではなく「踏み込める軸を見つけること」です。すべての選択肢に均等な機会を与えて検証する。自動化は活用しつつも、最終的な判断は人間が行うという意識が重要です。

実務的には、一度Aの有効性を確認した上で、B・C・Dだけで再度検証するといったアプローチを取ることもあります。アルゴリズムの特性を理解して、訴求やターゲットの良し悪しを判断していくことが必要です。

グロース後の展開

踏み込める軸が見つかると、それは広告運用の成功にとどまらず、事業全体の成長の起点になります。

組織と予算獲得

まず組織の話になります。成果が見え始めると、「さらに拡大するために人員が必要だ」という議論が始まります。成果が出ているからこそ、組織を拡張する判断ができます。

事業計画全体にも影響を与えます。踏み込める軸が見つかれば、事業計画を上方修正できます。逆に、想定通りの成果が出なければ、下方修正が必要になります。

現実的な話をすると、多くの企業では実績がないと次の予算がつきません。四半期ごと、半期ごとの予算計画のタイミングで、「この実績があるから、次はこの予算でこれだけ拡大できる」という説明が求められます。

だからこそ、テストマーケティングの段階で確実に実績を作り、次の予算を確保する流れを作ることが重要です。これは「社内政治」かもしれませんが、事業を前に進めるための現実的な戦略です。

プロダクトとマーケットの拡大

「どんな訴求が刺さったのか」というデータは、プロダクトやサービスの改善にも活用できます。

たとえば、ある健康経営サービスでは、当初想定していた「健康経営」というマーケットが小さすぎることが判明しました。そこで検索クエリを分析すると、「福利厚生」や「メンタルヘルス」の方が検索ボリュームが大きかった。サービスの本質的な価値は変えずに、訴求の切り口や強化するカテゴリーを見直すことで、市場を広げることができました。

新規チャネルへの展開

1つのチャネルで踏み込める軸が見つかったら、その勝ちパターンを別のチャネルにも展開していきます。すでに確立した訴求とターゲットの組み合わせを、新たな接点で試すことで、成長の幅を拡大させていきます。

このように、テストマーケティングで見つけた軸は、広告運用にとどまらず、組織、事業計画、プロダクト、新規チャネルへと、さらなる成長の起点になっていきます。

まとめ

グロースフェーズにおけるテストマーケティングのゴールは「踏み込める軸を見つけること」。この明確な定義があれば、何から着手し、どうテストを進め、いつ終わらせるかを判断できます。

この記事で紹介した7つの考え方は、あくまで基本的なフレームワークです。実際には、予算規模、業種、ビジネスモデル、市場の成熟度、競合状況など、個別具体の状況によって取り組む内容や優先順位は大きく変わります。

ただし、このベーシックな考え方を土台にすることで、テストマーケティングは「予算を消化する期間」ではなく「事業成長の確実な足場を作る期間」になると考えています。

著者情報

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SHINYA KIKUCHI

菊池 真也

Marketing Strategist / Consultant

業界歴16年以上。運用型広告のコンサルティング、インハウス化支援、代理店の組織構築などを行う。 成果を最大化するためのチームビルディングが得意。

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