CPA半減、新規獲得コスト1/4削減
バイセル社が実現した催事マーケティング組織変革

着物やブランド品などの総合リユースサービス「バイセル」を展開し、テクノロジーの力で循環型社会の実現を目指す企業、株式会社BuySell Technologies(バイセルテクノロジーズ)。グループでは年間で40万件以上の出張訪問査定を実施し、400店以上の買取店を展開するなど、業界トップクラスの事業規模を誇る同社では、オフラインのリユースきもの販売催事事業として「リユースきものセレクトショップ バイセル」を手掛けています。
催事場によって規模や客層が異なり、さらに不定期開催の催事への集客という難易度の高いマーケティングに苦戦していたことから、今回マーケティング戦略や実務へのコンサルティング、広告運用支援にてお取り組みさせていただきました。
今回は「リユースきものセレクトショップ バイセル」のサービス展開を担う販売戦略本部アライアンス営業部の福井氏と永田氏、テクノロジー戦略本部の黒沢氏、そして本案件を担当したOAR FREE(オールフリー)の松尾 謙吾を交え、これまでの取り組みを振り返りました。
全国の催事場でリユースきものを販売。リユース大手のバイセルが考える、オフライン施策の狙い
松尾:BuySell Technologiesさんはグループ全体で買取・販売のリユースビジネスを展開されていますよね。バッグ、ジュエリーといったブランド品、そして着物については年間100万点以上取り扱っていると聞きました。改めて、今回の取り組みで支援させていただいた「リユースきものセレクトショップ バイセル」についてお聞かせください。
福井:百貨店さんの催事場、常設店舗をはじめ、全国各地の会場で厳選されたリユースきものを販売する事業が「リユースきものセレクトショップ バイセル」です。2017年に事業が立ち上がり、現在はほぼ毎月のペースで日本全国の催事場にて着物の販売会を開催しています。また、新宿・大阪・京都の3店舗の髙島屋さん内に常設店舗を設置させていただきました。
本事業を推進するにあたって大事にしているのが「オフラインだからこそ提供できる価値」を考えていくことです。オンラインのやり取りのほうが圧倒的に効率的ではありますが、お客さまとの接点を丁寧に重ね、「バイセル」へのロイヤルティを高められることは、オフライン施策が持つ強みだと考えています。
松尾:「リユースきものセレクトショップ バイセル」だけでなく、BuySell Technologiesさんのマーケティング体制全体として、多くの領域でインハウス化されていますよね。なぜインハウス化に力を入れているのでしょうか?
福井:最も大きな理由は、施策のスピード感ですね。たとえばバナーやLPといったクリエイティブの制作を外注した場合、イメージ通りの成果物が出てこなければ納得のいくクオリティに達するまで時間がかかってしまい、それだけ施策のスケジュールが厳しくなっていきます。特に「リユースきものセレクトショップ バイセル」が手掛ける催事は開催期間が限られているため、スケジュールの遅れは深刻な問題です。また、施策のスピードが上がれば、それだけPDCAサイクルを回すことができます。
もうひとつの理由は、扱っている商材の特殊性です。「着物」というだけでも珍しい商材ですが、さらに「リユースきものを扱う、不定期の催事」ですので、過去に類似案件の実績、ノウハウをもつ協力会社さんは、ほとんどいないと思います。インハウス化によって自社にノウハウを蓄積していくべきと考えたことが、インハウス化を志向した背景です。
催事ビジネス特有の「難しさ」と経験不足によるインハウス化の壁から、抜本的な体制の見直しへ
松尾:「リユースきものセレクトショップ バイセル」の集客とマーケティングには、どのような難しさがあったのでしょうか?
福井:不定期の催事というサービス特性上、データを取得、活用しにくいという壁があります。実際にどのような広告を見て催事に足を運んでいただいたのかといったデータを取得するには、LINEなどを活用した会員証の仕組みを活用する必要があります。
また、なんとかデータを取得できたとしても、不定期かつ全国の催事場で開催しているためにPDCAを回すことが簡単では有りません。百貨店内の催事場によっては会場規模も、客層もまったく違いますし、季節によってもニーズがガラッと変わるため、前回のデータをそのまま参考にできないのです。
松尾:「リユースきものセレクトショップ バイセル」のマーケティング体制には、どのような課題があったのでしょうか?
福井:広告運用の専門的なノウハウと経験をもつ社員がチームにはおらず、マーケティング施策の精度に不安がありました。インハウス志向が強い弊社ではありますが、こうした課題から広告代理店さんに広告運用を委託していました。しかし、集客がうまくいっている際は課題に感じていなかったものの、成果が悪化した際の対応など、運用体制に課題感を感じ、新たなパートナーを探していました。
広告代理店ではなく、マーケ戦略の提案とインハウス支援まで含めた“本質的なパートナーシップ”を重視していた
松尾:新しいパートナー企業としては、どのような要素を重視して情報を集めたのでしょうか?
福井:単に広告運用だけをお願いするのではなく、マーケティング戦略全体とインハウス化に対するアドバイスも含めたサポートが受けられることを重視していました。「インハウス」「マーケティング支援」といった関連するキーワードで検索をかけ、いくつかのサービスをピックアップしています。
松尾:複数のサービスをどのように比較検討されましたか?
福井:各社さんからご提案をいただく上で意識していたのは、「弊社の事業にコミットしてくれそうか」という点です。OAR FREEよりも先に検討を進めていた企業さんのご提案内容は、どこか私たちの課題にフィットしていない感覚がありました。
その一方でOAR FREEの松尾さんからのご提案では、「リユースきものセレクトショップ バイセル」が抱えていた課題をヒアリングいただき、その場で施策案や今後の道筋をお話しいただけたことが印象的です。週一の頻度で壁打ちを実施していただけること、ご提案いただいた松尾さんがそのまま弊社担当としてサポートいただけるとのご提案があり、私たちにコミットしていただけそうだと安心できたことで正式に契約させていただきました。
松尾:インハウス文化が強い社内に対して、どのように予算を確保いただいたのでしょうか?
福井:予算感の伝え方は工夫しました。広告運用にかかる費用が抑えられるだけでなく、浮いた予算分でLPOツールを導入することでインハウスでLP施策のPDCAを回せるようになることを特に強調して社内に説明しています。社内からも施策の精度と成果の向上を期待いただき、問題なく稟議を通すことができました。
お客さまの要望に対する「NO」から始まったマーケの立て直しと、若手社員の育成
福井:最初の松尾さんとの打ち合わせでは広告代理店的なアプローチ、つまり一般的なマーケティングのフレームワークと手法を適用した戦略を立案してほしいとお話ししました。その要望に対して松尾さんからいただいたご指摘をいまだに覚えています。
松尾さんからは「フレームワークがはまらなかった場合、それまでの施策が無駄になってしまいます。そうした事態を避けるため、まずは目先の課題をしっかり解決していくべきでしょう。もちろんご希望するならフレームワーク通りの施策もできますが、それはバイセルさまのためにはならないと思います」と率直かつ的確なアドバイスをいただきました。
松尾:福井さんを困らせるようなご提案でしたよね(笑)。長年広告運用に携わってきた私から見ても「リユースきものセレクトショップ バイセルは特殊な商材であり、オフライン催事ならではの特性を踏まえた、一般的なフレームワークには当てはまらないアプローチが必要だと判断しました。競合となるような同規模の他社サービスがなく、他業界のオフライン催事を参考にしたとしても「リユースきもの」という商材だとまったく事情が異なってきます。
そこでご提案したのが、類似サービスのマーケティング戦略を参考にしたり、一般的なマーケティング手法を採用するのではなく、「リユースきものセレクトショップ バイセル」としてマーケティングのPDCAを回していける仕組みと体制を整えることでした。催事ごとに会場規模や客層、季節などが変化したとしても、運用の結果を踏まえて広告の設定方法やクリエイティブを検証していけるように、チーム内の意識を統一していただきました。
福井:体制を整える取り組みの一貫として、マーケティング未経験である若手社員の育成にもお力添えいただきました。新卒2年目の永田には、主にバナー作成やLINE運用を担当してもらっています。
永田:マーケティング未経験の頃は、インターネット広告はもっとAIなどで自動化されている印象を持っていたのですが、実際に取り組んでみるとアナログな部分が多く、泥臭いものなのだと知りました。松尾さんからはさまざまな助言をいただきましたが、クリエイティブの考え方に関するアドバイスによって、泥臭い作業の中でいかにマーケティング施策の意図や狙いを反映させていくのかが重要だと学ぶことができています。
おかげで当初は入稿や配信設定などの基本的な業務が中心でしたが、次第に施策の意図やターゲットであるお客さまのインサイトや見やすさを考慮したクリエイティブ制作ができるようになっています。
松尾:黒沢さんは福井さん、永田さんとは違い、テクノロジー戦略本部から部門の垣根を越える形で、今回のプロジェクトに途中参加いただきました。普段は買取のWebサイト構築・運営を担当されていますが、今回はLPOツールの導入支援と運用、そしてLP改善でご一緒させていただきました。
黒沢:通常業務でもLP制作には毎日のように携わっているのですが、アンケートLPと記事LPの制作は初めてのチャレンジでしたね。新しいLP施策によって、これまで掘り起こせていなかった新規層にアプローチすること、そして得られた新しいノウハウを全社のマーケティングに横展開していくことが狙いです。
松尾さんには戦略的な観点だけでなく、細かいクリエイティブについてもアドバイスをいただいています。たとえば適切なアンケート項目の数や内容、LP全体のデザインと色味、そしてLP施策における効果的なPDCAの回し方などのアドバイスをよく覚えています。
広告全体で大幅にCPAを改善。マーケティング体制の再現性と安定性が飛躍的に向上
松尾:初回のご提案から約8ヶ月が経った現時点で、どのような成果が得られましたか?
福井:定量的な成果として最も顕著なのは広告施策全体のCPAが安定し、大幅に改善されたことです。当初の狙い通り、マーケティングの仕組みと体制の再現性が高まったおかげで、以前は平均CPAが3,000〜4,000円で大きく上下していたのが、現在では安定して2,000円を切っています。
従来は成果の良いMeta広告に寄せ続けていましたが、追加投資による成果の最大化を目指す中でMeta広告だけの広告運用に限界が見えていました。そこで松尾さんからの助言を受け、停止していたGoogle広告を活用するようになり、より効率的な集客が可能になっています。これも催事ごとのCPAを安定化させられた大きな要因です。
そして、マーケティングの最終的な目標である催事への集客目標も安定して達成し続けることができるようになりました。
黒沢:LP施策の定量的な成果では、アンケートLPと記事LPの導入によって新規獲得コストが従来の1/4にまで削減することに成功しています。また、CVRは以前の数値より2%も向上しました。
LP施策の新しいチャレンジによる成果であることはもちろん、LPOツールを活用しながら安定してPDCAを回し、LP改善に取り組める仕組みの構築も大きく貢献しています。あくまで私個人の見解ですが、弊社内でもここまでLP運用がうまくいっているケースはないと思いますね。今後は「リユースきものセレクトショップ バイセル」で得られたLP施策のノウハウを成功事例として、全社のマーケティングにも反映していく予定です。
福井:安定したマーケティングの体制とPDCAを回す仕組みを確立できたことに加え、短期間で若手のチームメンバーが成長できたことも、大事な成果だと評価しています。
永田:以前は頭から煙が出そうなほど日々の実務をこなすだけでも精一杯でしたが、今ではマーケティング会議の会話にしっかり参加できるようになっただけでなく、私から問題提起することもできるようになりました。広告を配信した結果の数字からクリエイティブを改善したり、お客さまコミュニケーションの視点で広告運用を考えたりと、以前では想像できなかったほど業務に対する解像度が高まっています。
催事マーケティングの成功体験を、店舗施策や全社規模へ拡大していきたい
松尾:取材の最後に、「リユースきものセレクトショップ バイセル」とマーケティングの今後の展望をお聞かせください。
福井:催事マーケティングの成功体験を活かし、次は店舗マーケティングへの投資拡大を検討しています。不定期かつ場所がバラバラな催事とは違い、百貨店さんの中の店舗マーケティングはPDCAを回しやすいと思いますので、売上の最大化を目指して取り組んでいきます。
もちろん催事についても追加投資を行い、積極的に展開していく予定です。松尾さんの分析通り、明確な競合他社が不在の市場においても「バイセルにしか提供できない価値」に向き合い、お客さまへ提供していくことが大事だと考えています。
松尾:マーケティング体制のインハウス化に対しては、今後どのように取り組まれていきますか?
福井:インハウスでできる施策の幅を広げ、「リユースきもの」を専門に扱う私たちだからこそできることに注力していきます。そのためには私たち自身が常に成長しなければならず、今後も松尾さんには良き“壁打ち相手”として一緒に議論していただき、今後もさまざまな課題解決に取り組んでいただけると嬉しいですね
黒沢:OAR FREEさんは私たちに忖度することなく、また自身の利益を優先してごまかすのではなく、良いものには良いと、悪いものには悪いと率直なアドバイスをいただけたことが、本当に嬉しかったです。今後も外部の協力会社としてではなく、同じプロジェクトに取り組む仲間としてお付き合いいただきたいです。
松尾:ありがとうございました!
著者情報

KENGO MATSUO
Marketing Strategist / Consultant
業界歴17年以上。デジタルマーケティング戦略設計・運用型広告(月額広告費10万円から数億円まで)を中心に支援。新規事業のテストマーケや計画設計も含め、様々なフェーズの支援を経験。
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