データ分析の成果は、前工程で決まっていた
「データ分析をしてほしい」という依頼をよく受けます。
ところが、いざ取り組もうとすると、データ分析以前の問題に直面することが少なくありません。
GA(Google Analytics)の計測設定がされていない、複数サイト間のユーザー行動が追えていない、データの定義が揃っていない。「分析してください」と言われても、「まずはデータの整理から始めましょう」とお伝えするケースが本当に多いのです。
実は、完璧にデータ整備ができている企業はほぼありません。データ基盤で有名な企業でさえ、何かしらの不備があります。特に深刻なのは、2〜3割の企業で見られる「ゼロからやり直す」レベルの不備です。
この記事では、なぜ前工程が成果を決めるのか、そしてどう整備していけばいいのかについて、私の経験からお伝えします。
見落とされがちな「前工程」
マーケティングにおけるデータ分析には、大きく4つの工程があります。
- 分析設計(何を分析したいのか、なぜ分析したいのか)
- データ収集(必要なデータを取得する設定)
- データ整備(取得したデータを使える形に整える)
- データ分析(整備されたデータを分析する)
多くの人は「データ分析」の部分だけに注目しがちです。しかし、実際には前の3つの工程が整っていないと、正確な分析はできないのです。
前工程でよくある問題
たとえば、GA4のキーイベント設定が全くされていないケースがあります。また、設定はされているものの不十分で、必要なデータの一部しか取れていないケースもあります。「分析してください」と依頼されても、まずは設定を見直すところから始めなければなりません。
別のケースでは、オウンドメディアをサブドメインで展開している場合、本サイトとサブドメイン間のユーザー行動が追えていないことがあります。
また、広告効果測定ツールを使っている場合、そのツール内だけで完結しようとしがちです。しかし実際には、SEO、SNS、メールマガジンなど様々な接点があります。広告だけを見ていても、全体像は見えません。
これらに共通するのは、「データを取得する段階で設計ミスがある」ということです。一度設定を間違えると、過去に遡ってデータを取り直すことはできません。データは取得した瞬間から資産になる。だからこそ、最初の設計が重要なのです。
では、なぜこの前工程は見落とされるのでしょうか。データ整備は時間がかかる泥臭い作業で、利益を直接生むわけではないからです。そのため、後回しにされがちです。
なぜ前工程が成果を決めるのか
理由1:データは資産だから
データは資産です。後から過去のデータを取り直すことはできません。
たとえば、GA4でキーイベントの設定がされていないまま数ヶ月経ってしまったら、その期間のデータは永遠に失われます。正確なデータがなければ、どんなに分析しても正しい判断ができず、成果につながる施策を打つことができません。
つまり、前工程でデータを正しく取得できていないと、その後どれだけ努力しても成果は出ないのです。
理由2:施策実行のための基盤だから
データ分析そのものは、直接的に成果を生むわけではありません。データ分析の結果をもとに施策を実行して、初めて成果につながります。
そして、施策を実行するには、前工程で整備したデータが不可欠です。
たとえば「顧客を興味度別に分けてメールを出したい」と思った時、ホット・ミドル・ローといった分類ができるデータ状態になっていなければ実行できません。広告配信で類似オーディエンスを作りたくても、コンバージョンした顧客のデータが正しく取れていなければ、精度の高いターゲティングはできません。
つまり、前工程でデータを整備していないと、どんなに良い施策のアイデアがあっても実行できないのです。
さらに、前工程でデータの定義を揃えておかないと、施策の成果を正しく評価できません。
たとえばECサイトの「売上」を考えてみます。デジタルマーケターは、お客様が購入ボタンを押した時点(受注)を「売上」と見ることが多いです。しかし企業会計では、商品が実際に出荷された時点(出荷基準)を「売上」とするケースがあります。
この2つの間には、銀行振込の未払い、キャンセル、返品などがあるため、数値に差が出ます。もし事前に「どの時点の売上を見るか」を定義していないと、マーケ施策の成果を測る時に「施策で売上が増えたのか、それとも出荷タイミングの問題なのか」が分からなくなってしまいます。
このように、前工程でデータの定義を揃えておくことは、施策の成果を正しく評価するために不可欠なのです。
また、こうしたデータ定義を組織全体で統一して使えるようにするには、データ基盤が重要です。
たとえば、マーケティング部門がHubSpotで顧客データを管理し、営業部門がSalesforceを使い、カスタマーサポート部門が別のツールを使っている、という状況はよくあります。この状態だと、同じ顧客でもツールごとにバラバラにデータが存在し、「この顧客は今どの段階にいるのか」が分かりません。
前工程を重視している企業では、BigQueryやSnowflakeなどのデータ基盤(DWH)にデータを一元管理し、そこから各ツールへデータを連携しています。こうすることで、どの部門でも同じ定義のデータを使え、施策を実行しやすくなります。
つまり、前工程で作るデータ基盤は、分析のためだけではなく、施策実行のための基盤でもあるのです。
前工程をどう整備していけばいいのか
理想を言えば、最初にお金をかけてデータ整備をまるっとやることです。しかし、データ整備自体は利益を生まないので、稟議が通りにくいという現実があります。
そこで私が最近取り組んでいるのは、段階的に前工程を整備していくアプローチです。
ステップ1:小さく始める
最初はスプレッドシートベースで小規模にデータを統合します。たとえば、GoogleアナリティクスのデータとHubSpotのデータを手動でつなぎ、「こんな分析ができるんだ」「こんな施策が打てるんだ」という価値を感じてもらいます。
この段階では、完璧を目指しません。重要なのは、データを統合することで「何ができるか」を体感してもらうことです。
ステップ2:クイックウィン(早期の成果)を出す
小さく始めたデータ統合で、すぐに使える分析レポートや施策を提案します。たとえば、「このセグメントにメールを送ると反応が良い」といった具体的な示唆を出すことで、データ活用の価値を実感してもらいます。
ステップ3:要望が広がったら本格化
価値を感じてもらえたら、「もっとこういう分析をしたい」「あのデータも統合したい」という要望が自然と出てきます。その段階で、「じゃあBigQueryやETLツール(データ統合ツール)を入れて本格的にやりましょう」と提案します。
このように段階的にデータ基盤を構築していく流れが現実的だと考えています。
おわりに
データ分析で成果を出すには、分析そのものよりも、その手前の前工程が重要です。
前工程(分析設計、データ収集、データ整備)が整っていないと、成果にはつながりません。ただし、最初から完璧を目指す必要はありません。小さく始めて、段階的に本格化していく。このアプローチが、現実的で成果につながる進め方だと考えています。
もし今、「データ分析がうまくいかない」と感じているなら、一度立ち止まって、前工程が整っているかを確認してみてください。そこから始めることで、データが本当に使える資産になっていくはずです。
著者情報
MASAHIRO NISHI
Marketing Strategist / Data Analyst
業界歴16年以上。データ戦略の立案、アクセス解析、 CVR改善、データ活用基盤の構築など、データドリブンなマーケティング組織の構築を支援。電通デジタルを経て2019年にTHE MOLTS参画。
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