広告代理店頼みからの脱却、3倍の投資対効果
KEY STATIONが挑んだ自社主導マーケティング改革

「カギ管理の常識を覆すインフラを構築し、人々の可処分時間を製造する」というビジョンを掲げ、時間と場所に縛られずにカギの受け渡しを可能にするサービス「KEY STATION」を展開するKeeyls株式会社。全国で130箇所以上に設置されるなど新しい「社会のインフラ」を目指して事業を展開する同社では、マーケティング実務の経験と知識の不足といった課題を抱えており、マーケティング戦略の立案と実行、成果を生み出すためにお取り組みさせていただきました。
今回はKeeyls株式会社で取締役CTOを務め、マーケティング実務も兼任されている望月さまと本案件を担当したTHE MOLTSの高橋翔太を交え、これまでの取り組みを振り返りました。
カギに関わる「時間」と「場所」の制約をなくし、幸せな時間を1秒でも多く生み出したい
望月:弊社では「幸せな時間を、1秒でも多く」というミッションを掲げ、「時間」と「場所」の制約をなくし、自由を提供するためのKEY STATION事業を展開しています。「KEY STATION」はいわゆる「カギの受け渡しサービス」で、駅や商業施設、宿泊施設、マンションなどにカギを保管する専用ボックスを設置することで、より自由なカギの受け渡しを実現します。いつ、だれが受け取ったかといったカギの取出履歴を確認できること、2025年4月時点で累計231万回以上の利用実績で盗難は一度も発生していないことがサービスの特徴です。
お客さまの主な利用シーンとしては、宿泊施設の無人フロントにおける部屋の鍵の受け渡しや、家事代行サービスの鍵の受け渡し、不動産賃貸における内見・内覧時の鍵の管理などが挙げられます。
高橋:時間と場所の制約やカギが抱える課題について、望月さん自身はどのように感じていますか?
望月:CTOとして主にサービス開発に携わるなかで感じているのが、カギにはまだまだ課題が残されていることです。実は副業として2020年頃から数年間、箱根で民泊を運営していたのですが、オープン当初に最も悩んだのがやはりカギの問題でした。民泊物件では無人システムでカギの受け渡しをしていたのですが、箱根と東京は離れているので何かトラブルがあってもすぐ現地に駆けつけることはできません。
そのため、「キーボックスの中には、いま本当にカギが戻されているのだろうか」と不安に感じることが多々あり、そうした不確かな情報から判断を下して行動しなければならなかったのです。また、カギの存在や物件の状態を直接確認するだけでも、往復4時間もかけて現地へ行く必要があることも悩みでした。場所に縛られず、「〇時〇分、カギはキーボックスの中にある」という確実なログデータが得られるだけでも、より正しい判断を下し、より正しい行動に移すことができます。
「セキュリティは大事である」と誰もが理解していても、なぜカギの問題はなくならないのか
高橋:最近、無許可のキーボックスが街中に設置され、騒動にまで発展するといったニュースを目にしました。昨今のカギに絡む問題やトラブルには、どのような背景があるのでしょうか。
望月:「セキュリティは大事である」ということは誰しも頭では理解していると思います。しかし日々の生活や仕事においては、手間と時間がかかってしまうことからセキュリティ対策は疎かにされがちです。なぜならば、盗難や物損などのトラブルは起きない可能性のほうが圧倒的に高く、「日々の忙しさ」と「起きない可能性が高いトラブル」を天秤にかけてしまうと、どうしてもセキュリティ対策は後回しにされてしまうのです。
その結果として発生したのが、街中に部屋の鍵が入ったキーボックスが無断で設置されるといった問題です。こうした社会的な問題に対して「KEY STATION」は、カギの管理者にとってセキュリティとトレーサビリティが担保された安心できるサービスであるだけでなく、カギを使うユーザーにとっても手間と時間がかからない、便利なサービスでなければならないと考えています。そして「カギの管理はもっと安心で、便利であるべき」という認識を広めるため、問題提起の発信にも力を入れていきたいですね。
高橋:最近ですと、行政からの摘発だけでなく、ニュースを目にした近隣住民からの通報も発生してきているようで、盗難や物損のリスクだけでなく、企業イメージにまで影響を与えかねない事態にまで発展してきているようですね。
マーケティングは未経験、知識なしの広告運用。広告代理店との取り組みでも成果が得られなかった
高橋:今回の取り組みでは、貴社のマーケティング施策のインハウス支援にてお取り組みさせていただきました。取り組み以前はどのような課題を抱えていたのでしょうか。
望月:もともと私と若手社員1名がマーケティングに取り組んでおり、具体的な施策として一般的なリスティング広告や、Meta広告(Facebook)、オウンドメディアの運営などを進めていました。しかし2人ともマーケティング実務の経験や知識はなく、インターネット上の記事や書籍で学んだ知識だけで施策に挑み、上手くいかずにやめたり、また再開したりと不安定な状態が続いていました。明確なカスタマージャーニーも描けていなかったのです。
また、一部の広告運用やLPの制作で代理店さんに力添えいただいていたのですが、思っていたような成果は得られず……。私たち広告主側から、どの数字がよくないのか、どうすればよいのかといった意見を出すこともできず、結果として広告代理店さんとの取り組みは長続きしなかったのです。
高橋:初回のヒアリングで広告アカウントを拝見させていただき、広告媒体側に都合のよい広告運用をしてしまっているなと感じました。広告運用の管理画面では、「こういう設定をしましょう」「このキーワードに入札しましょう」という媒体側からの一般的な推奨設定項目がたくさん出てきますが、それらは必ずしも成果に直結するものではなく、時として配信ターゲットが広がりすぎてしまい、本来やりたかった広告配信とは異なる状況に誘導されることも珍しくありません。
媒体管理画面上の推奨項目はあくまで参考としつつ、広告主である自分たちが主体となって施策を見極め、実行していけるような知識を身につけていくことをご提案させていただきました。
定量的な成果創出の実績と、マーケティングにとらわれない姿勢が決め手に
望月:THE MOLTSという会社と高橋さん個人を知ったのは、たしか弊社の取締役COOからの紹介だったと記憶しています。まずTHE MOLTSさんがフィロソフィーとして掲げる「美味い、酒を飲む。」という言葉が、個人的にとても気に入りました。私自身、やりきって結果を出し、祝杯を挙げた時の一口目がとりわけ美味しかった経験がいくつもあります。
また、高橋さんはTHE MOLTSのトッププレーヤーのひとりで、これまで多くのクライアントさんとの取り組みで定量的な成果を出し続けてきたという安心感と、成果を出すためにはマーケティングだけに留まらずサービス自体を変えるほどの主体性を持って取り組む姿勢が評価されていると聞きました。
高橋:お褒めいただき恐縮です!
望月:弊社が抱える課題と照らし合わせても、高橋さんはベストな存在だと感じました。ご依頼する私たちも、マーケティング領域以外へのコミットはぜひともお願いしたいところだったので、高橋さんへのご依頼を決定しました。
広告運用の戦略・実行だけでなく、受注率向上の目指した営業体制の見直しも
望月:高橋さんとの取り組みでは、弊社の方針をヒアリングいただき、世の中のトレンドや環境の変化に合わせて、出稿する広告媒体や運用の方針を決めていただき、実際の運用までお願いしました。たとえば、これまでは主に無人フロントの宿泊施設をターゲットにキーワードを選定して広告を運用してきましたが、「謎のキーボックス騒動」のニュース以降は、より検索数が増加するキーワードに乗り換え、さらに企業だけでなく個人が利用できる「KEY STATION」に商材を変更して広告を運用いただきました。
高橋:その他で印象に残っているのは、Meta広告への出稿を停止したことでしょうか。たしかにCVこそ獲得はできていたのですが、ほとんど商談にはつながらない質の低いCVだったので非効率だと判断しました。
望月:広告運用をお願いしてからしばらく経ち、週次会議の中で高橋さんから厳しく指摘を受けたのが、リード獲得後の受注率の低さです。これまで獲得してきた顧客データを集計し、獲得したリードの質や制作したLPの良し悪しには問題がなかったことを確認し、営業体制の見直しに着手しています。
CVRの改善で3倍以上の投資対効果。若手社員の成長にも貢献
高橋:私自身もKeeyls社の社員になった気持ちで、広告運用のインハウス支援でお取り組みさせていただきました。取り組みを振り返って、どのような成果を得ることができていますか?
望月:毎月だいたい50万円前後の広告費を運用いただいており、以前と比べてCVRが格段に向上しました。以前はCVRが1%でも成功だと捉えていましたが、高橋さんにお願いしてからは平均して3%前後を維持しており、単純な計算で3倍以上の投資対効果が得られています。この数字は経営会議でも共有させていただき、別の取締役からも評価いただきました。
また、営業体制への見直しも少しずつ効いてきたようで、少しずつ受注件数も増加しつつあります。
高橋:それを聞いて安心しました。少し前にご転職されましたが、マーケティング施策を担当されていた若手社員の育成でもお手伝いさせていただきました。特に印象に残っているエピソードはありますか?
望月:若手社員と高橋さんのやり取りは私が一番近くで見ていたと思います。高橋さんが若手社員に投げかけた言葉で特に印象に残っているのは、リスティング広告のキーワード選定に関する宿題で「このキーワードで獲得できなければ、もう事業を畳んだほうがよいレベルの、大事なキーワードだけ選んで」というアドバイスです。これまで自分たちで広告を運用していた頃は、広告媒体がサジェストしてくるキーワードを鵜呑みにしており、自分たちの頭で考えていなかったと思います。
しかしこの厳しい言葉のおかげで、理想のペルソナと私たちが提供できる価値など、より本質的にビジネスを理解しようと若手社員が取り組み始めました。結果として、その後の広告運用ではCVRが向上しています。私個人としても、若手社員がここまでビジネスのことを深く理解しようと努力してくれたことを嬉しく感じました。
「社会のインフラ」を目指し、競合他社とともに市場を築いていきたい
高橋:事業全体における今後の展望をお聞かせください。
望月:新型コロナウイルスの感染拡大という大きな市場の変化を経て、ITを活用して安全にカギの情報を共有するといったサービスは増えています。こうした競合他社とともに市場を築いていき、カギが抱える課題やセキュリティの重要性などを発信し、そして社会全体をどんどんと盛り上げていきたいですね。そのためにも私たちは「KEY STATION」の設置箇所を増やすことで「社会のインフラ」になることを目指していきます。
高橋:「社会のインフラ」を目指していくうえで、弊社との取り組みにどのような期待をしていますか?
望月:これまでの取り組みから引き続き、私たちにとって耳が痛いことをズバズバ指摘してほしいですね。第三者の立場から忖度せずにアドバイスいただけるのは、成長の機会を与えてもらうようなものです。
高橋:「KEY STATION」を伸ばしていくために「クライアントとパートナー」という関係性から贔屓目で見るのではなく、ユーザーからの視点や競合他社を含めたマーケット全体からの視点で捉え、今後どのようにアクションしていけば良いか提案することが大事だと考えています。今後も第三者の立場から、忖度なくアドバイスさせてもらいますね!
著者情報

SHOTA TAKAHASHI
Marketing Director / Consultant
業界歴9年以上。リスティング広告を中心とする運用型広告の代行、インハウス化支援を担当。また企業の広告担当としての既存代理店との折衝にも従事。
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