月間予算5,000万円など広告アカウントが大規模化するとき意識すべき9つのポイント

菊池 真也

Marketing Strategist / Consultant

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月間予算5,000万円など広告アカウントが大規模化するとき意識すべき9つのポイント

本記事を訪問くださりありがとうございます。

今回は、大規模な広告アカウント運用の話をしようと思っていますが、広告費の額が大きければ良いとか、「5,000万」という絶対額に意味があるものではありません。業界やマーケットによっても単価やボリュームは大きく変動します。しかし、今回あえてテーマを「5,000万円超」としたのは、月1,000万前後までのアカウント運用とは、広告戦略・攻め方自体が大きく変わってくるためです。

この攻め方自体の変化に気づかず、今まで順調に成果を上げていた運用が予算5,000万円を超えたあたりから、なぜか伸び悩んでしまうケースも少なくありません。私も例外なく、今までにありとあらゆる試行錯誤を経験してきました。

月5,000万円を超えるアカウント(以下、「大規模アカウント」と表記します)の攻め方は、ひとことで言えば、「個人戦」から「チーム戦」だと思っています。予算5,000万円を超えるような大規模アカウントになると、ステークホルダーが増え、アカウントが複雑化し、分業が進んで業務が細分化する……予算1,000万前後の運用時とは全く別の組織体制で戦わざるを得なくなるからです。全体像を把握しにくく、自分だけの判断で事を前に運べないこともざらです。だからこそプロジェクト担当者には事業計画・ミッションをベースとしたチーム全体の最適化を今まで以上に強く意識していくことが求められます

そこで本記事では、運用改善をアジャイルに進めたいけどうまくいかない、大規模アカウントの成果が頭打ちで伸び悩んでいるといった広告プロジェクトの推進者に向けて、組織やヒトを動かすポイントや成果を引き上げるためのポイントをお伝えします。

大規模アカウントの運用で成果を出すために必要なことは山ほどありますが、プロジェクト推進者が意識すべきポイントは、これからご紹介する9つに分けられると思います。

もちろん全てこなさなければプロジェクトが成功しない訳ではありません。あくまでも、コントロールしやすい個人戦と比べ、アンコントローラブルな事柄が増大するチーム戦で解像度を上げてコントローラブルに近づけていくヒントになれば嬉しいです。

1. 正論を突き通すよりも、まずは前に進むことが大切

運用データを分析し、ボトルネックを把握、現状の問題点に対するクリティカルな打ち手は分かっている。それなのに、ステークホルダーが多いが故に、「クライアントに施策を提案しても却下されてしまう」「社内で提案したものの工数の関係で、提案自体がうやむやになってしまう」……こうした経験をしたことがある担当者も多いのではないでしょうか。

代理店の運用担当者と事業側(あるいはクライアント側)の担当者は、しばしば利害関係が一致しないものです。大型の運用案件となれば当然、関係者や予算、企業にとってのリスクも大きくなりますから、思い通りにプロジェクトが進まないことはよくあります。

▼よくあるケース例
代理店の場合 クライアントから成果改善の依頼を受け、アカウントの分析を開始。CVRを上げなければ、ターゲティングの絞込・入札戦略の見直しなどを行っても、これ以上の改善が望めないと分かった。
そこで成果のボトルネックとなっている遷移先のページの改修を提案したが、検討ステータスのまま進展しない。

こうした時にクライアント側は大抵、改修にかかる工数や費用対効果を、彼らの視点から考えています。上記ケースにあるサイト改修はシステム部・各商品担当・宣伝部などとの合意形成が必要となってくるため、「短期間での成果向上が見込めない」「調整に時間や工数がかかる」「事業やサイト全体から見れば優先度が低い」といった社内の裏事情・関係者のモチベーションが理由となり提案がペンドとなることも珍しくないでしょう。

こうした時、皆さんならどうするでしょうか。「ここは改善すべきです」と折れずに提案し続けるべきでしょうか。

これは私の経験上ですが、大規模案件になればなるほど、ただ正論を伝え続けるだけでは物事はうまく前に進んでいきません。運用担当者としては頭の痛い話ではありますが、一見本質的ではないと考えられることでも、清濁併せ呑んで推進することが中長期的なゴールに近づく場合もあるのです。

例えば上記のケースの場合は、クライアント側に提案を積極的に進められない何らかの理由があること、またそれを自身が汲み取れていない可能性があることを理解しましょう。その上で、短期間でサイト改修が終わるような代替案を出す、ページ改修を進めるための材料をこちら側で用意する、ステークホルダー間の調整を率先して行うといった前に進めるための「プランB」「プランC」……を出し続ける胆力が求められます。ここが、大型案件を推進する際にもっとも大切なポイントの一つといっても過言はありません。

2. チーム全員が常に同じ方向を見ているとは限らない

代理店とクライアントの利害関係の不一致はあるあるですが、同じ社内でもステークホルダーが多い場合、ミッションの違いからコンフリクトが発生することがあります。例えば先のサイト改修の例で言うと、宣伝部のAさんにとっては相当優先度が高い業務が、システム部のBさんにとってはできるだけ後回しにしたいものであるといったようなことが起こります。これは背負っているミッションに共通項が見えないと起こってしまうことで、つまり「何故やるべきか」の理由が曖昧になっている状態です。

こうした時は、本質的な課題解決に向けてチームが見ている方向は一緒であること、またその重要性を粘り強く伝えましょう。

先の例で言えば「ページのリンク先を既存の別ページに飛ばしたい」「LPOツールを導入したい」といった行動ベースではなく、まずは「CVR向上」などチーム共通のミッションが理解されているか確認します。その上で、必要な施策を実行していけるようにフォローしましょう。

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3. 組織や事業のタイムラインと、広告運用の時間軸のズレを意識する

大規模なアカウント運用になると、年間の事業計画にもとづいて予算を決めて動いていくケースが一般的です。しかし一方で、運用型広告の特性上、日々変化する配信ニーズに応じてその都度タイムリーな施策を講じていく必要があるときもあります。

この年間計画とリアルタイムの配信状況のズレによって、やりたい施策・やらなければいけない施策を迅速に実行することが難しくなるのも大規模アカウント運用の特徴です。

誰しも、自分のコントロール下にある「小さな石」なら真っ直ぐに投げることは簡単です。ですが一人ではコントロールできない「大きな石(組織・ヒト)」を動かすためには、ある程度の準備が必要です。

  • 戦略(どのくらいの人数や工数が必要か)
  • 計画(予算を算出しステークホルダーとの合意形成)
  • リソース調達(施策実行時に予算・人を集める)
  • 実行(決めたタイミングで施策を実行する)

といった手順を、年間計画とリアルタイムの配信の双方において、明確な時間軸で整理することが求められます。ポイント1と同様に「正論はこれなので、石はこっちに投げれば良いですよ」と提案するだけだと、事は決して前に進んでいかないことがここでもお分かりいただけるかと思います。

▼関連記事
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4. キーマンの不安を払拭する

事を前に進めていくためにはプロジェクトや組織のキーマンとなる人物を把握し、そのキーマンとの関係性は非常に重要です。過剰な「接待」をする必要はありませんが、「仲良く」なりましょう。

ここで言う「仲良くなる」とは、決して媚びを売るだとか、酒を飲み交わして楽しい時間を過ごすことではありません。重要なのは「キーマンからの信頼を獲得し、不安を払拭する」ことです。つまり目の前のタスクに真剣に向き合い、愚直に成果を出すこと、そして日々の行動を積み重ねることによって信頼を獲得することに注力します。そうすれば自ずとプロジェクトに対する提案にも耳を傾けてもらいやすくなります。

「なぜ上層部が分かってくれないのか」「クライアントの広告に対する理解が足りない」と愚痴を溢していても、状況は好転しません。もしプロジェクトがうまく回っていないと感じているなら、組織・ヒトを動かすという視点から、キーマンとのコミュニケーションを見直してみましょう。

5. 作業することが仕事になっていないか

大規模アカウントでは、一つのミスが数十万〜数百万単位の損失に繋がる可能性があるため、入稿のダブルチェックをはじめ、膨大なレポーティングなど特有のプロセスを踏みます。もちろんこれらのプロセスはミスを減らすため、誤った施策を講じないために必要不可欠なことでありますが、それ自体が運用成果を改善するものではないことは、実際に運用を経験している皆さんならよくご存知かと思います。

そのため、作業工程の無駄はないか、定期的にフローを見直すことが大切です。

フローの確認シート例

例えばチーム全体で入稿作業に時間を取られすぎているなら、運用担当者が本当に自らの手で行うべきことなのか(アシスタントをつけられないか)等の代案を考えるべきです。

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アカウント運用チームに未経験者を採用することになった、あるいは未経験者の育成にお困りの方は、下記も合わせてご覧ください。
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6. アクションしないことが悪ではない

アカウントを運用してから成果が出るまでは、日々の分析を積み重ね高速でPDCAサイクルを回し続けることが求められます。しかし、成熟したアカウントにおいては必ずしも施策(アクション)を打たないことが悪ではないと考えています。

現場の運用担当者は上司やクライアントをはじめとしてステークホルダーから、日々の改善を求められます。そのため不必要なアクションを起こし、なんとなく「やっている感」を出してしまうケースも今まで何度も見てきました。松下幸之助やウォルトディズニーなどが唱えていたとされる「現状維持は衰退である」という有名な言葉は、私も新人の時に教わり、意識していることではあります。ですが、タスクに追われて本来の目的を見失っては元も子もありません。自戒を込めて申し上げると「タスクに逃げるな」という姿勢も大事です。

例えばアカウントの勝ち筋がはっきりと見えていて、主要なキーワードKW・ターゲティング・クリエイティブが売上の大半を占めるなど成果が出ているのであれば、むやみに手を加える必要はないと思います。その代わりに、新たな施策を検討したり、ミッションを見直したりと、長期的に改善すべき本質的な課題に向き合うことが大切です。

7. KPIの先に事業の展望が見えているか

大規模アカウントの運用では、KGIとKPIがリンクしているのか、それぞれのKPIに対してどういう施策を打っているのかといった全体像を把握しにくくなります。そもそも担当者が追っているKPI自体が、事業目標と異なっているといった可能性もあるからです。

担当者レベルで全体像を掴みにくい環境にある場合は、IR資料に目を通すことをおすすめします。それによって、クライアント企業あるいは所属部署として今期目指しているものが、売上重視なのか、利益重視なのか、新規の顧客獲得を重視しているのか等の動向を把握でき、追うべき指標やKGIとKPIをリンクさせやすくなるからです。プロジェクト責任者であれば、こうした企業方針を定期的にチームと共有することも、足並みを揃える一手段になると思います。

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8. 計測データと媒体データが相関しているか

事業側(特に経営層)にとって、媒体データやGoogleアナリティクスの細かなデータだけで投資対効果を判断するケースはそう多くありません。ただし実際は、何かしらの解析ツールのデータや基幹データを、実際のCV・売上として、予算計画を立てる・投資対効果を判断するケースが多いため、現場の運用担当者との現状の認識にズレが発生することがあります。

▼よくあるケース例
媒体CVではスマートフォン経由のCVが多く見られたが、基幹データ側でそのデータが取れていなかった。またマーケットのニーズとしてモバイルユーザーのアクションを重要視したいものの、事業側の判断でPC優先となってしまいなかなか改善が進まない。

こうした場合は、組織的な課題とテクニカルな課題の2つが関わってきます。少人数のベンチャー企業であればアジャイル的に即日改善も可能ですが、大型案件の場合は承認プロセスが長く、すぐにチームの要望が反映されないケースも多々あります。そこで最初から「モバイルユーザーのデータが計測できていないため意味がない」とするのではなく、まずはPCでの成果改善を図りつつ、計測しているデータと媒体データがズレている可能性を指摘し、スマートフォンユーザーを対象とした施策の必要性を中長期的に説いていくこともあります。

クロスデバイス、クロスブラウザ、マルチチャネルに加えて昨今はITPの影響もあり、データの分断化、複雑化が加速しています。この件については本論とズレますので割愛しますが、コントローラブルなところにフォーカスし、全体の投資対効果は実データで共通認識を合わせ、媒体データは最適化のためのシグナルとして活用するのが肝要です。

9. 媒体や他社からの提案に右往左往しない

媒体の営業担当者がつくことで、最新のアップデート情報や具体的なアカウント改善策を提案されることも多くなってきます。最近では、最適化案の適用や自動入札、レスポンシブ広告の提案などの自動化を促進するものが多いです。

こうした全ての提案がNGとは申し上げませんが、「媒体側が言っているから」といった思考停止した理由で提案を受け入れることは避けましょう。提案を受けたら一歩引いて、本当に追うべきKGIやKPI、今期の経営目標、そしてアカウントの成果改善を妨げている本質的な課題といった部分を踏まえて上で、提案を受け入れるか否かを判断できるのが理想です。

おすすめの方法は、媒体側からの提案をリストアップし、緊急度 x 重要度を吟味してから、施策の実行可否を決める管理表を作ることです。なぜやるのか、なぜやらないのかといった理由付けをします。そうすることで「媒体が言っているから」「他社がやっているから」といった理由で話が進むことを防ぐことができるでしょう。

まとめ

本記事では、月間広告予算5,000万円超のアカウントで成果を引き上げるために見直したい9つのポイントを解説しました。記事の冒頭でも述べた通り、5,000万円という絶対額に意味はありませんが、大規模アカウントの戦い方は個人戦ではなく、多くの人や複数の組織を巻き込んだ「チーム戦」です。つまるところ代理店であればクライアントの担当者を、インハウスであれば直属の上司を出世させることが一つの解ではないかと思います。そうすることで組織やチームが一段前に進んでいくでしょう。

最後に改めて、記事のポイントを改めてまとめておきましょう。

1. 正論を突き通すよりも、まずは前に進むことが大切

2. チーム全員が常に同じ方向を見ているとは限らない

3. 組織や事業のタイムラインと、広告運用の時間軸のズレを意識する

4. キーマンの不安を払拭する

5. 作業することが仕事になっていないか

6. アクションしないことが悪ではない

7. KPIの先に事業の展望が見えているか

8. 計測データと媒体データが相関しているか

9. 媒体や他社からの提案に右往左往しない

広告運用とは、企業にとっての「投資活動」です。中〜長期的に売上・利益といった成果が上がらなければ、その投資は失敗と言わざるを得ません。運用の最適化といったことはよく言われますが、これは決して部分的・局所的なものではなく、最終的な成果を出すことに他なりません。何か施策を講じる時には、全体最適のための部分最適となっているかを、いま一度振り返る必要があるでしょう。

多くのステークホルダーが介在するため、正直コンフリクトが起こりやすい環境ではあります。全てを綺麗に進めることは不可能と割り切っても良いかもしれません。

私も市場の流れに、データの海に、組織の渦に溺れないように日々もがいています。ただ、結局は市場も組織も「人と人との関係」で成り立っており、大事な答えはデータでは見えない先にあることも多いです。

そうした悩める時に、本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いたメンバー

SHINYA KIKUCHI

菊池 真也

Marketing Strategist / Consultant

1982年生まれ。広告代理店で100社以上のリスティング広告を運用し、株式会社アイレップにて総合通販、大手人材会社の運用型広告コンサルタントを経験。中小から大規模の広告運用を経験したのち、GMOペイメントゲートウェイ株式会社にてEC企業の集客支援を行う組織を構築。2018年3月にMOLTSへ参画し、子会社STAUTに所属。業界問わず、また大手企業からスタートアップまで幅広く事業成果の獲得を軸とした運用型広告のコンサルティング、インハウス支援を行う。2020年3月よりSTAUTの代表取締役に就任。

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