基本をやり切るかどうか。
130の施策実行で分かったSEOでV字回復を作れたワケ
世界各地の現地体験型アクティビティやツアーといった旅ナカ商品をオンラインで予約できるデータベース型サイト「ベルトラ」を運営するベルトラ株式会社。コロナ禍を経て旅行市場が大きく変化する中、同社のマーケティングでは、競争の激化や検索エンジンのアップデートといった外部環境の変化に直面していました。特にオーガニック流入のゆるやかな減少は、将来の事業成長に直結する深刻な課題となりつつありました。
こうした状況を打開すべく、同社ではコンテンツSEOからテクニカルSEOへの転換を掲げ、全社横断型で取り組む「SEOプロジェクト」の推進役をTHE MOLTSにお任せいただきました。
今回は同社で事業統括責任者を務める坂田さま、マーケティング統括を担っている藤田さま、そして本プロジェクトを担当したTHE MOLTSの岸 晃を交えて取り組みを振り返りました。
競争の激化や検索体験の変化に伴い、自然検索流入が減少トレンドに

岸:ベルトラさんでは、150カ国以上、約22,000件の旅ナカ体験の商品をデータベース型サイト「ベルトラ」にて展開されています。改めて、ベルトラさんにおけるマーケティングの軸について教えてください。
藤田:ベルトラの根幹にある理念は「心ゆさぶる体験を未来に届ける」ことです。特に海外旅行は、不安を抱えながら年に一度、あるいは一生に一度の挑戦として出かける方も少なくありません。だからこそ安心できる環境で、日本ではできないユニークな体験をしていただきたいと考えています。競合他社と価格で争うのではなく、私たちが提供できる体験価値をいかに伝え、いかに届けるかがベルトラにおけるマーケティングの軸になっています。
岸:新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ、ここ数年間の旅行業界は大きな変化の連続だったと思います。今回の取り組みの背景には、どのような市場環境の変化があったのでしょうか?
坂田:コロナ禍以前は、旅ナカ領域のOTA(オンライン旅行代理店)には競合が少なく、商品をサイトに掲載すれば、自然とユーザーに届く環境でした。しかしパンデミック以降、グローバル企業や既存の大手旅行代理店、新興企業が旅ナカ領域の事業に続々と参入し、競争が一気に激化しました。競争激化に伴ってWeb広告では入札単価が上昇し、さらに現地のツアー会社自身が直接Web広告で集客できる環境も整いつつあります。
そして今回の取り組みにつながるSEOについても変化が激しくなっています。競争の激化に加えて、直近では生成AIの台頭により、ユーザーの検索体験が変化していると感じています。また、事業全体を俯瞰して見たときに、オーガニック流入が明確にマイナストレンドに入っており、これは今後の成長に対してかなり大きなマイナス要因になるなと感じていたのです。
岸:特に2025年3月以降、生成AIが複数のWeb情報を要約し、検索結果の上部に直接提示するAIO(AI Overviews)の表示が急増するなど、AI時代の検索体験は大きく転換しつつあります。そのような変化の中で、どのような課題を抱えていたのでしょうか?
坂田:最大の課題は、SEOを意識したサイト構造に対する対策がほとんど打てていなかった点です。ベルトラのような大規模サイトのSEOは、膨大なページ数や複雑な構造を前提に、技術面とコンテンツ面の対策が求められます。
今回のプロジェクト以前にもSEO対策のチームは存在していたものの、「VELTRA旅行ガイド」というオウンドメディアのコンテンツ制作に集中しており、いわゆるコンテンツSEOが中心でした。その一方で、データベース型の本体サイトに対するテクニカルSEO、つまり技術的なSEO最適化にはほとんど手を付けていないと言ってよい状況だったのです。
売上へのインパクトが最も大きいのは、テクニカルSEOによる本体サイトの改善であり、ここが下がり続ければ事業全体も必然的に右肩下がりになると危機感を抱きました。そこで私がベルトラの事業責任者に就任したタイミングで、コンテンツ施策はいったんすべて止め、サイトの根幹を支えるテクニカル面の改善にリソースを集中させる判断を下しました。
コンテンツSEOからテクニカルSEOへの方針転換。求めたのは、やり切るパートナー

岸:コンテンツSEOからテクニカルSEOへの転換を意思決定されてからは、どのような取り組みを進められたのでしょうか?
坂田:既存のSEOチームでテクニカルSEOに取り組むことも考えましたが、当時の組織は縦割り意識が強く、マーケティング部門、開発部門、仕入れ部門がそれぞれ独立して動いており、関係部署を巻き込み、施策を推進するのは簡単ではありませんでした。さらに検索エンジンの構造を的確に捉え、技術的な施策に落とし込むノウハウも不足していたため、体制を根本から変える必要がありました。そこでSEOプロジェクトを立ち上げ、全社を動かせるパートナーに任せることを検討し始めました。
岸:SEOプロジェクトを任せられる協力パートナーの比較検討にあたって、どのような要素を重視していたのでしょうか?
坂田:THE MOLTSさんを含め、3社で比較検討を行いました。私がベルトラに入社してまだ日が浅く、1日でも早く成果を出す必要があるという状況で最も重視していたのは、「信頼できるパートナーであるかどうか」です。
私自身はマーケティングのプロではないので、本当に事業成果がでるかどうかはやってみないと分かりません。だからこそ、その不確実性に対して真摯に向き合い、最後までやり切れるパートナーであるかどうかを重視しました。その時にふと思い出したのが、前職時代に一緒に働いた岸さんの仕事ぶりやコミットメントです。
前職で新規メディアの立ち上げ初期からコロナ前までの3年間、人数は少ないながらも勢いのあるスタートアップの環境で、岸さんからは強いコミットメントを感じていました。若くして重要なポジションを任されるなど、周囲からの評価も高く、仕事に対する姿勢も含めて「やり切る力」があると感じていました。
誰かと一緒に仕事をする上で怖いのはうまくいかないことではなく、「本当にやり切ったのか分からない」状態です。その点で岸さんが裏切ることはないという確信があり、結果としてSEOプロジェクトの舵取りは、THE MOLTSさんにお任せすると決定しました。
基本的な施策を地道にコツコツと。部門横断で巻き込み、全社プロジェクトとして推進

岸:まず始めに、サイト上の課題の洗い出しとやるべき施策をリストアップし、施策の優先順位を付け、実行スケジュールを設計して、「あとはやるだけ」という状態にしました。施策自体はオーソドックスなSEOの考え方に基づいたもので、目新しい手法やウルトラC的な特別な施策を講じたわけではありません。
だからこそ、誰が見ても共通している課題を実装までやり切ること、数字を見ながら改善し続けていくこと、開発部門や仕入れ部門と連携してアクションを進めること、つまりはPMの推進力がプロジェクト成否の鍵になると考えました。
坂田:岸さんとの取り組みを「SEOプロジェクト」として立ち上げたのは、まだまだ縦割り意識が強かった部門を横断して巻き込み、「やり切ってもらいたい」という思いからでした。最初のフェーズの段階で、部門を横断して関係者を巻き込み、「これは全社的に取り組むプロジェクトなのだ」という共通認識をつくれたこと、試行錯誤を重ねながら前に進むための土台が整ったことが、最初の成果だと思います。
岸:立ち上げフェーズが落ち着いて以降は、PM/ディレクターとしてエンジニアさんやデザイナーさんとコミュニケーションを取りながら各種施策を進めていきました。週一回の定例会に加えて、随時オンラインMTGやチャットツールで会話させていただき、自らも手を動かしながら一つひとつの疑問点を解消していった形です。
当然ながら、開発部門の方々はSEOプロジェクト以外にも優先度の高いタスクを抱えていますので、柔軟にスケジュールを切りながらできる限りの配慮をさせていただきました。
藤田:2024年9月にスタートしてから1年強が経った現時点で、大小含めリリースした施策数は130ほどになります。特に印象に残っている施策は、カテゴリの整理です。以前は営業部門の判断でカテゴリページを自由に作成できる状態であり、カテゴリの全体像も可視化されていませんでした。つまり「カテゴリがどれだけあるのか」「どういう意図で作られたカテゴリなのか」がまったく分からない状態だったのです。結果として、内容が同一または非常に似ている重複ページがいくつも生まれ、本来1ページに集約されるべき評価が分散してしまい、検索順位が上がりにくくなっていました。
岸さんには、このカテゴリ整理という一大プロジェクトに正面から取り組んでいただきました。不要なページを一つひとつ削除し、検索エンジンから正しく評価される構成へと整理していただいただけでなく、営業部門へのヒアリングを通じて現場の事情も踏まえた対応を行っていただいたことは、社内からも特に評価されています。
主要競合が落ち込む一方でV字回復を達成。継続的なSEO改善の体制も構築

岸:SEOプロジェクトが本格的に走り出した2025年は、検索エンジンのアップデートによってAIOの表示拡大などの大きな変化がありました。ベルトラの主要な競合サイトでも、自然検索からの流入が昨対比で50〜80%まで落ち込んでしまったケースもあります。改めて、プロジェクトスタートから1年強が経った現時点で得られた成果についてお聞かせください。
藤田:2025年の期初は、とにかく検索エンジンからの評価がマイナスになる要因を一つひとつ潰していく作業を続けていきました。ようやく定量的な成果として現れてきたのは2025年5月頃からで、右肩下がりに落ち続けていた昨対比の流入数が底を打ち、そこから右肩上がりにV字回復したのです。主要な競合他社が軒並み落ち込むほどの厳しい外部環境の変化を踏まえると、相対的にベルトラのサイトへの評価が増したと感じています。
さらにSNSや生成AIの台頭によってユーザーの検索体験が多様化している中でも、直近の2025年11月には昨対比100%を順調に突破している現状は、数字以上の意味があると思います。
坂田:2025年にかけて自然検索流入がさらに下がるリスクについて、正直私はプロジェクト開始当時は認識しきれていなかったところがあります。しかしマイナストレンドに陥っていた検索エンジンからの評価を改善する取り組みを、愚直に、地道にやり続けていただいた結果、気がつけば「これはすごい成果なんじゃないか」と感じられるようになりました。もし今回のプロジェクトがなかったらと想像すると、かなり厳しい状況に追い込まれていたんじゃないかと思います。
岸:定量的な成果に加えて、サイトのSEO改善に対する社内の反応や体制に変化はありましたか?
藤田:一番大きな変化は、開発部門などを巻き込んだSEO改善の体制が整ったことです。DailyやWeeklyで数値をモニタリングし、変化を検知してアラートを出し、モニタリングして、必要な施策を打って計測する、というPDCAサイクルが自然と回るようになりました。今後も大きなアップデートが起きたとしても対応できる体制が整っていることは、とても心強いです。
さらにSEOの観点から、営業部門へ情報をフィードバックする流れも構築できました。SEOのデータから検索ボリュームが伸びているトレンドやテーマを取りまとめ、「こういう旅行商品を仕入れたほうがよさそうだ」と営業側に相談したことで、実際に新しい商品化を実現したケースもありました。厳密にはSEOの施策ではありませんが、顧客の利益に貢献することを最優先に考えるという岸さん、そしてTHE MOLTSさんの成果主義の姿勢を象徴したアクションだったと思います。
坂田:社内にはどことなく「わざわざテクニカルなSEOは対策しなくてもよいのでは」「商品数とコンテンツを増やすことがSEOである」という空気がありました。しかし今回のプロジェクトを通じ、確かにテクニカルSEOはすぐに成果が出るような施策ではないが、ベルトラにとっては必要な施策であるとの共通認識が芽生えたと感じています。
ユーザーの感情に刺さる情報を発信し、体験価値の最大化を目指す

岸:今後のマーケティング戦略と展望について教えてください。
藤田:SEOの領域では、これまで課題だったテクニカルな課題はかなり解消されていますので、今後はアドオン施策でいかに積み上げていくか、というフェーズに入っていきます。これは単に「コンテンツをどんどん増やしていこう!」という簡単な話ではなく、ユーザーが本質的に求めている情報をいかにキャッチアップし、どのようなコンテンツとして表現していくのか、そしてドメインの評価を高めるための情報発信などの新しい観点が重要になります。
より本質的には、ベルトラを使うユーザーにとって欲しい情報が見つかる、興味がある商品に出会えるサイトを目指していくことであり、そのためにどのような施策に落とし込んでいくかは岸さんと引き続き考えていきたいですね。
坂田:旅行領域のtoCサービスは繁忙期と閑散期の波がとても大きく、顧客接点にはどうしてもボラティリティがありますが、その一方で仕事そのもののボラティリティはできる限り下げていくことが重要です。また、情報が高度にパーソナライズされ、求められる体験が多様化する現在では、感情に刺さる価値を生み出すことがベルトラには必要不可欠です。
こうした背景から、データドリブンな業務基盤で生産性と品質を安定させ、そこから生まれた余剰リソースを投じて、新しい付加価値やクリエイティブな取り組みを生み出していきたいですね。
岸:最後にマーケティング施策に悩む企業の担当者へ、アドバイスをお願いします。
坂田:コンテンツSEOだけでなく、マーケティングは企画することよりも一度決めたことを最後までやり切ること、もしダメそうなら認めて次に進んでいくという実行と成果へのコミットが重要だと思います。岸さんとの取り組みでは、この実行と成果へのコミットを常に感じていました。施策ありきの縛りの強い取り組みよりも、一定の裁量を任せたい企業こそ、THE MOLTSさんの価値を最大限に引き出せるのではないでしょうか。
岸:ありがとうございました!
著者情報
AKIRA KISHI
Marketing Director / Consultant
業界歴8年以上。オウンドメディア、コンテンツマーケティングを担当。SEOを軸としたメディア・サービスのグロース支援、インハウス運用支援を行う。
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