オウンドメディア完全ガイド|生成AI時代の戦略と活用方法解説
この記事でわかること
⾃社でオウンドメディアを始めるべきだろうか」「オウンドメディアはどのように活⽤できて、どんな効果を得られるのだろうか」「AI時代におけるオウンドメディアの役割とは?」本記事を読んでいただいている⽅の中には、このように悩んでいる⽅もいるでしょう。
オウンドメディアを⽴ち上げたいという企業からのご相談は、現在も未だに増え続けています。オウンドメディアの成功事例やノウハウが広く知れ渡り、企業が以前よりも取り組みやすくなったことが要因の⼀つと⾔えるでしょう。
さらに近年では、ChatGPTをはじめとした⽣成AIの登場により、コンテンツ制作の⽣産性が⾶躍的に向上し、より多くの企業がオウンドメディア運⽤に取り組みやすくなっています。
オウンドメディアを運⽤する⽬的や意味には、主に以下のようなものがあります。
1. リード獲得
2. 認知拡⼤
3. ブランディング
4. 採⽤⼒の強化
5. 直接的な収益化(マネタイズ)
6. 社内の暗黙知の形式知化と活⽤
また、実際の施策がわかる成功事例を多く紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
オウンドメディアを立ち上げたいという企業からのご相談は、現在も未だに増え続けています。オウンドメディアの成功事例やノウハウが広く知れ渡り、企業が以前よりも取り組みやすくなったのが要因と言えるでしょう。
オウンドメディアを運用する目的や意味には、主に以下のようなものがあります。
リード獲得
認知拡大
ブランディング
採用力の強化
直接的な収益化(マネタイズ)
社内の暗黙知の形式知化と活用
さらにAI時代においては、企業独⾃の知⾒や経験を反映させることで、差別化された価値を⽣み出すプラットフォームとなり得ます。
しかし、その⼀⽅で、「オウンドメディアを⽴ち上げたけれども、なかなかうまく運⽤できず結果的に失敗に終わってしまった」「AIを使ったが思ったような成果が出なかった」といった声も多く聞かれます。
また、「売上に繋がりそう」「多くのトラフィックを集められそう」と考えて曖昧な状態で運⽤を始める企業もありますが、オウンドメディアの定義を理解し運⽤前に適切な設計を⾏わなければ、成果に結びつかない可能性は⾼くなります。特にAI時代においては、単にAIを活⽤して効率化を図るだけでは差別化が難しくなっている現状があります。
本記事を読むことで、オウンドメディアに対する理解を深め、AI時代においても効果的に運⽤するために何を⾏うべきなのかがわかります。
また、実際の施策がわかる成功事例を多く紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
オウンドメディアとは

まず、オウンドメディアとはどのようなものなのかについて、詳しく解説します。
オウンドメディアという言葉は、企業や媒体社(メディア)によって様々な定義付けがされています。そのため、オウンドメディアの本質がなかなか分かりづらく、 時に誤った捉え方をされてしまう場合があります。
オウンドメディアとは何のためのものなのかを明確に理解するために、まずは正確な定義を知っておきましょう。さらに、AI時代におけるオウンドメディアの役割の変化についても理解を深めることが重要です。
一般的なオウンドメディアの定義
一般的にオウンドメディア(Owned Media)は、
- 自社で運用するWebマガジンやブログのみを指す「狭義の定義」
- コーポレートサイトや採用サイト・SNSといった自社で運用するメディア全てをオウンドメディアとする「広義の定義」
のどちらかで捉えられることが多くなっています。
しかしながら、上記のようにメディアの種類だけを基準にして「オウンドメディアか否か」を判断するのは、オウンドメディアを本質的に捉えるものではありません。
オウンドメディアは「企業の事業・採用課題を解決する手段」としてのメディア
弊社では、オウンドメディアを「企業の事業・採用課題を解決するための手段としてのメディア」であると定義しています。
例えば、自社で運用するWebマガジンであれば、商品やサービスの認知拡大、お問い合わせ数の増加に繋げることで、企業のマーケティングや営業領域における「事業課題」を解決することができます。
また採用サイトであれば、自社に興味をもつ求職者へのブランディングや実際の採用エントリー数の増加など「採用課題」の解決に繋がるでしょう。
弊社(THE MOLTS)であれば、以下のURLがコーポレートサイト(オウンドメディアの一部)です。

さらにコーポレートサイトからWebマガジン「KAAAN」に遷移できるようになっています。

これらのページは、見込み客の獲得や採用課題の解決手段としての役割を持っており、弊社ではこのようなメディアをまとめて「オウンドメディア」と捉えています。
オウンドメディアを単に情報の発信をする場として考えるのではなく、「いかに企業の収益を増やし、人を集め、事業に貢献するのか」といった観点で考えていく必要があるでしょう。
AI時代の拡張定義:企業独⾃の形式知と暗黙知を活⽤する場
AI時代においては、オウンドメディアの定義をさらに拡張して考える必要があります。
⽣成AI の登場により、コンテンツ制作の⽣産性が⾶躍的に向上する⼀⽅で、AIを活⽤して作られるコ ンテンツはある程度類似したものになりがちです。この「60点問題」と呼ばれる課題を克服するためには、オウンドメディアを「企業独⾃の形式知と暗黙知を活⽤して差別化を図るプラッ トフォーム」と捉えることが重要になってきています。
オウンドメディアはこれまで主に対外的なコミュニケーションを通じて展開されることが多かったですが、AI時代においては社内の暗黙知を形式知化し、それを対外的な情報発信や社内活⽤に繋げるという役割も担うようになっています。
具体的には、以下のような課題解決にも活⽤できます。
- 社内教育
- チームとしての情報蓄積
- 社内⽂化形成
- ナレッジの循環による企業競争⼒強化
それぞれについて詳しくみていきましょう。
オウンドメディア運用の具体例

よりイメージを膨らませるために、弊社THE MOLTSを例に挙げ、オウンドメディアをどのように活用し、事業課題の解決に繋げているのかを説明します。
▼与件
| オウンドメディア | KAAAN|THE MOLTSをよく知る情報サイト |
|---|---|
| 事業内容 | さまざまな領域のデジタルマーケティングを用いて、クライアントの事業成長を支援する |
| ターゲット | デジタルマーケティングに課題を感じているマーケティング責任者や経営者など |
| オウンドメディアの目的 | リード獲得(問い合わせ獲得) |
| 主なタッチポイント (ターゲットとの接点) | 検索エンジン |
上記の通り、デジタルマーケティングに関する情報収集をしているターゲットと、検索エンジンで接点を作り、問い合わせに繋げることがオウンドメディアの目的です。例えば「リスティング広告」というキーワードでGoogle検索をしたときに、上位に弊社のコンテンツが表示されます。

※引用元:Google
この記事を通して検索経由でリスティング広告に悩んでいるユーザーと接点を持ち、価値提供をした上で、ユーザーを「記事」→「サービスページ」→「問い合わせ」へと誘導しています。
さらに、弊社のコンテンツは、社内のマーケティングプロフェッショナルの経験や知見を活かした独自の視点やケーススタディを盛り込むことで、AIだけでは生み出せない価値を提供し、差別化を図っています
▼記事からサービスページへ誘導

▼サービスページから問い合わせフォームへ誘導

これにより、弊社のサービスに興味を持ってくださったユーザーから問い合わせを獲得し、商談へと繋げています。
オウンドメディアを運用する目的・意味

オウンドメディアを運用する目的や意味として、以下の6つが挙げられます。
リード獲得
認知拡大
ブランディング
採用力の強化
直接的な収益化(マネタイズ)
社内の暗黙知の形式知化と活用
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1. リード獲得
特にBtoBオウンドメディアに多い運用目的が、サービスや商品のお問い合わせや資料請求といった「リード獲得」を目的とするケースです。
例えば、自社で法人向けの会計サービスを提供しているとします。
「会計ソフト 比較」「会計ソフト おすすめ」といった、会計ソフトの導入を検討しているユーザーが検索するであろうキーワードでコンテンツを制作し、上位表示を達成することによって、狙っているターゲットを効率良く集客することが可能です。

リード獲得施策にオウンドメディアが活用される要因として、「Google広告」や「Yahoo!広告」といった媒体をはじめ、従来に比べて広告手法が一般化したことが挙げられます。
誰でも広告出稿が可能になった結果、現状1件あたりのCVを獲得するまでの費用(CPA)が高騰しているのです。
対して、オウンドメディアは質の高いコンテンツを作り込み継続して運用することで、メディア自体を資産化することができます。長期的に費用対効果(ROI)を高めることができるので、広告だけでなくオウンドメディアに予算配分するという流れが加速しています。
さらにAI時代においては、AIを活用してコンテンツの量を効率的に増やしつつも、企業独自の形式知や暗黙知を活用して質的な差別化を図ることで、より効果的なリード獲得が可能になっています。
2. 認知拡大
オウンドメディアは、リード獲得だけでなく、サービスや商品自体を知らない「非認知層」に向けての、認知拡大施策にも用いられます。
先の例で言えば、自社の会計ソフトの認知度が低い場合、サービス名や会社名で直接検索してくるユーザーの集客は見込めません。
そのため、オウンドメディアで会計ソフトを実際に利用するであろう経理や総務の担当者が興味・関心を示しそうなコンテンツや、抱えている課題の解決に繋がるコンテンツを継続して発信することで、会社名やサービス名を知ってもらうきっかけを作るのです。
AI時代においては、認知拡大のためのコンテンツ制作が加速しており、より多様なトピックをカバーすることが可能になっています。ただし、単に量を増やすだけでなく、企業ならではの視点や価値観を反映させることで、他社との差別化を図ることが重要です。
3. ブランディング
ブランディング施策にも、オウンドメディアは用いられます。そもそも、ブランディングとは、「ブランドに意味を持たせ、受け皿を作ること」を指します。
ただ商品やサービス名を知ってもらうだけではブランディングは成り立ちません。「利便性を重視するならA社」「セキュリティを重視するならB社」といったように、自社サービスの強みや特徴をユーザーに認知してもらい、ユーザーが持っている「~を重視して選びたい」という評価軸とブランドを結びつけることを目指します。
オウンドメディアは、コンテンツを継続的に発信するだけでなく、コンテンツの内容や出し方を自分たちでコントロールすることができます。
「ユーザーにどのような印象を持ってもらいたいか」を意識して一貫したコンテンツを発信し、ユーザーとコミュニケーションを図ることによって、ブランディングの成果を上げることが可能です。
AI時代においても、ブランディングの重要性は変わりません。むしろ、AIによってコンテンツの量産が容易になればなるほど、企業のブランドアイデンティティを一貫して表現することが差別化の鍵となります。
4. 採用力の強化
自社の採用力の強化のために、オウンドメディアを活用するケースもあります。
例えば、社員へのインタビューやイベント、日々の働き方など、自社にフォーカスしたコンテンツを発信することで、会社のカルチャーやビジョンに共感する採用候補者を獲得することに繋がります。
また、求職者としても「入社してみないと会社の様子が分からない」といった懸念が解消され、納得した上で転職先を決めることができるため、入社後のミスマッチを防ぐことが期待できます。
AI時代においては、AIを活用してコンテンツ制作を効率化しつつも、社員の生の声や企業文化を反映した真正性のあるコンテンツを発信することが、採用ブランディングにおいてより重要になります。
5. 直接的な収益化(マネタイズ)
オウンドメディアとしてある程度トラフィックが集まった時点で、「SSP」や「アフィリエイト」などを活用して収益化を図ることによって、マーケティングツールとして自走することができます。
オウンドメディアはあくまでも自社の事業・採用課題を解決することが主な目的ですが、一部を商業メディア化することで、オウンドメディアの運用にかかる人件費やコンテンツ制作費を賄うことが可能です。
ただし、直接的な収益化ができるケースは、オウンドメディアの中でも限られています。
例えば、自動車やアパレルなど、「高級」「お洒落」といったブランドイメージをユーザーに植え付けたいと考えているのに、メディア内に収益化を目的とした広告が貼り付けられていると、かえってブランドイメージを損ねてしまう可能性があります。
また、ASPやインフィード広告を活用して収益化するためには、多くのトラフィックが必要です。ニッチ商材を扱っているケースなどは、収益化に十分なトラフィックを集めるのは、非常にハードルが高くなります。
AI時代においては、コンテンツ制作の効率化によって、より多くのトラフィックを集めやすくなっています。ただし、他社との差別化が難しくなっているため、独自の視点や価値提供がより重要になっています。
6. 社内の暗黙知の形式知化と活用
AI時代において新たに重要性を増している目的として、社内の暗黙知を形式知化し、それを活用することが挙げられます。
暗黙知とは、社内のプロフェッショナルが持つ経験や判断、ノウハウなど、これまでまとまっていなかった知識や情報のことです。AI時代においては、こうした暗黙知を形式知化し、それをオウンドメディアを通じて発信することで、他社との差別化を図ることが可能になります。
具体的な活用例としては、以下のようなものがあります。
- 社内教育:形式知化した情報を若手社員の教育に活用
- チームとしての情報蓄積:プロジェクトの知見や経験を蓄積し、共有
- 社内文化形成:企業のビジョンや価値観を浸透させる
- ナレッジの循環:社内の知識を循環させ、企業の競争力を高める
この取り組みは、対外的なオウンドメディアだけでなく、社内向けのナレッジベースにも応用できます。対外的には企業の専門性や独自性をアピールし、社内的には情報共有や教育に活用することで、オウンドメディアの価値を最大化することができます。
オウンドメディアを運用する際の5つの注意点

ここでは、オウンドメディアを運用する際の注意点を5つ紹介します。
成果が出るまでに時間がかかる
オウンドメディアは成果が出るまでには時間がかかることが一般的です。
例えば、獲得を目的として検索エンジンをタッチポイントにオウンドメディアを運用する場合は、1年以上成果が出ないケースも多いです。
そのためオウンドメディアの運用は、中長期的な観点で戦略を設計したり、体制構築を行う必要があります。
プロジェクトマネジャーやコンテンツディレクター、コンテンツ制作者などのメンバーを揃え、適切なリソース配分でコンスタントにコンテンツを公開し続けることが必要です。また思うように成果が生まれない中で、目標に向かって行動をし続けられる環境や予算なども必要になってきます。
AIを活用することで、コンテンツ制作のスピードは向上しますが、検索エンジンでの評価獲得や、ユーザーからの信頼構築には依然として時間がかかることを理解しておく必要があります。
目的と手段を一致させる必要がある
オウンドメディアには、リード獲得や認知拡大などさまざまな役割や形があるため、運用の目的と手段を一致させる必要があります。
例えば、リード獲得(顧客獲得)を目的としてオウンドメディア運用を始めたにもかかわらず、SNSの拡散を狙ったコンテンツばかりを公開していては、成果に繋がらない可能性もあります。
目的に応じて、自社サービスのターゲットと、流入経路(どこで接点を作るか)、どのように成果へと繋げていくのかという戦略設計を綿密に行わなければ、費用を無駄にしてしまうケースもあるのです。
ただオウンドメディアを立ち上げてコンテンツを公開しただけでは、成果に繋がらない可能性がある点に注意しましょう。
AI時代においては、効率的にコンテンツを制作できる一方で、戦略なくコンテンツを量産するだけでは成果につながらないリスクが高まっています。目的を明確にし、それに沿った戦略的なコンテンツ制作が一層重要になっています。
専門知識が必要になケースが多い
リード獲得を目的としてオウンドメディアを運営する場合は、検索エンジンをタッチポイントとすることが多くなります。検索エンジンから集客するには、上位表示するためにSEOの知識が必要です。
例えば、
- ユーザーに焦点を絞ったコンテンツの作成
- 被リンクの獲得
- E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の強化
- 適切な構造でのサイト構築
- 構造化データのマークアップ
- モバイルファーストインデックス(MFI)
など、検索エンジンの上部に表示させるためにはさまざまな要素を考えなければいけません。
場合によっては専門家の力を借りなければ進められないケースもあるでしょう。AI時代においても、これらの専門知識の重要性は変わりません。むしろ、SEOやコンテンツマーケティングの技術的側面に加え、AIの活用方法に関する知識も必要になっており、専門性の要求はさらに高まっています。
生成AIによる「60点問題」に注意する
AI時代に特有の注意点として、生成AIを活用した場合の「60点問題」があります。
これは、AIを利用することで生産性は劇的に向上するものの、同じ情報ソースから情報を引っ張って類似したプロンプトで生成するため、コンテンツのベースラインが揃ってしまうという問題です。
AIを活用しても、それはあくまでも公開情報から出される内容であり、プロフェッショナルから見ると「60点」程度の品質に留まることが多いのが現状です。60点が取れなかった人がすぐに60点取れるようになるという利点がある一方で、100点の品質を知らなければ、本当にそれが十分な品質かどうかを判断することが難しくなります。
この問題を克服するためには、社内のプロフェッショナルが持つ暗黙知(経験や判断、ノウハウなど)を形式知化し、それをAIによるコンテンツ生成に組み込むことが重要です。自社独自の視点や経験、事例を盛り込むことで、他社との差別化を図り、真に価値のあるコンテンツを生み出すことができます。
必ずしもオウンドメディアが最適な手段とは限らない
オウンドメディアを成功させている企業の事例を見ると、綿密な戦略設計と継続的な投資が実を結んでいることがわかります。しかし、すべての企業にオウンドメディアが適しているわけではありません。
特にBtoB企業では、より戦略的な判断が求められます。 BtoB領域では市場が限定的で方向転換が難しいため、初期の判断が特に重要です。オウンドメディアはあくまで多くの施策のひとつであり、自社の事業特性や他のマーケティング施策との関係を考慮した上で取り組むかを判断する必要があります。
デジタルサービス、全国展開、市場が大きい場合は有効ですが、アナログサービス、地域限定、狭い市場では投資対効果が見合わないケースも多いことを認識しておきましょう。
BtoB企業がオウンドメディアを検討する際に押さえるべきポイント:
- 自社の事業特性(デジタル/アナログ、全国/地域、市場規模など)に合わせた実現可能性の判断ができる
- 「とりあえず始める」という積み上げ式ではなく、最終的な事業収益への貢献を見据えた設計方法を学べる
- 営業部門やカスタマーサクセスとの連携の重要性など、成功のための社内体制づくりのヒントが得られる
オウンドメディアの運用を開始するまでの8ステップ
オウンドメディアの運用で失敗しないためには、最初の設計で正しいステップを踏むことが重要です。
運用開始までの具体的なステップは以下の通りです。

では、オウンドメディア運用を新たに開始するために必要な手順を解説していきます。AI時代を見据えた各ステップのポイントも含めて解説します。
STEP 1:目的の定義(AI時代を見据えた目的設計)
まずは「自社が抱える事業・採用課題は何か?」「オウンドメディアを用いて、それらの課題をどのように解決したいのか?」といったオウンドメディア運用の目的を明確にしましょう。
前述した通り、オウンドメディアの目的は以下のように企業によってさまざまです。
- 製品の売上拡大
- 認知向上
- ブランディング
- 人材の採用
- 社内の暗黙知の形式知化と活用
自社課題に合わせた目的を設定しましょう。
AI時代においては、特に最後の「社内の暗黙知の形式知化と活用」という目的が重要性を増しています。AIによるコンテンツ生成が一般化する中で、企業独自の知見や経験を活用することが差別化の鍵となるからです。
自社課題に合わせた目的を設定する際には、AIの活用によってどのような価値創出が可能になるかという視点も含めて検討しましょう。
STEP 2:成果の定義(AIによる生産性向上を加味した成果指標の設定)
次に、目的を達成したかどうかを正確に測るためには「成果指標」を定義する必要があります。
例えば、商品の売上拡大が目的であれば「お問い合わせ数」などが成果指標に置かれます。また、商品やサービスの認知拡大が目的であれば「ソーシャルでの(製品やサービスへの)ポジティブな内容の投稿数」などを指標に置くことができます。
目的に応じて定めるべき成果指標は様々ですが、それを達成すればSTEP1で掲げた当初の目的が叶ったと言うことができる状態を作る必要があるでしょう。
また成果指標を定義することは、オウンドメディアの重要性を経営層に理解してもらうためにも重要です。経営層がオウンドメディアに対して深い理解がない場合、オウンドメディアの効果に関して懐疑的な意見を持つことも少なくありません。
そういった時には、オウンドメディアを用いて具体的にどのような成果をもたらすかといった視点で説得すると良いでしょう。
AI時代においては、AIによる生産性向上を加味した成果指標の設定も重要です。例えば、コンテンツ制作量の増加だけでなく、コンテンツの質や独自性を測定する指標(オリジナルの事例や知見の数、ユーザーのエンゲージメント率など)も設定することで、単なる量的成⻑ではなく質的な成⻑も評価できるようにしましょう。
STEP 3:成果までのストーリー設計(AI活用による効率化を組み込んだプロセス設計)
STEP2で定めた成果指標を達成する為に、正しいストーリー設計(戦略)を描きましょう。
例えば、お問い合わせ数を成果指標に置いた場合、
- 記事コンテンツへの流入数
- 記事コンテンツからランディングページへの遷移率
- ランディングページから実際のお問い合わせへのコンバージョン率
などの指標を細かく設定しましょう。
また、検索エンジンをタッチポイントとした記事コンテンツで集客を行う場合、必ずキーワードのボリューム数(月間どのくらい検索されているか)をチェックする必要があります。
いくら質の高いコンテンツでも、ボリュームが限られていれば多くの流入は見込めず、お問い合わせの獲得には繋がりません。
事前にしっかりと市場をリサーチした上で、様々なパターンを想定して「お問い合わせ数の最大化」に繋がる最適なストーリーを描きましょう。
AI時代においては、このプロセスをより効率的に行うことが可能です。
例えば、AIを活用してキーワードリサーチや競合分析を行い、より効果的なコンテンツ戦略を立案することができます。ただし、AIによる分析結果は常に人間の判断でチェックし、企業独自の知見や経験と照らし合わせることが重要です。
また、AIを活用してコンテンツの下書きを作成し、それを社内のプロフェッショナルが独自の視点や事例を追加してブラッシュアップするといった、効率と質を両立させるワークフローを設計することも効果的です。
STEP 4:タッチポイントの設計(AI時代のユーザー接点の再設計)
ストーリーの設計ができたら、
- どのようなメンバーがいるか
- どのくらい予算が取れるか
- 成果をいつまでに出したいか
などの状況に応じて、流入経路(タッチポイント)の設計を行いましょう。
例えば検索を主軸とした流入設計を行う場合、コンテンツが検索の上位に表示されトラフィックを集めるまでには、少なくとも半年〜1年程度の期間が必要です。時間をかけて右肩上がりのトラフィックを作ることができますが、短期間で成果をあげたい場合には不向きです。
一方で、ソーシャルを流入の主軸としたコンテンツ設計を行う場合、比較的早い段階からトラフィックを集めることが期待できます。ただしトラフィックを継続的に集める為には、コンテンツを狙ってバズらせる能力といった高度なスキルを必要とします。
SNS上にはコンテンツが大量に溢れており、つい読みたくなる魅力や他人にシェアしたくなる内容がなければ埋もれてしまい、再現性高くバズらせることは不可能です。
優秀な編集者がいる場合や、マーケティング予算に余裕があり、外部の編集プロダクションに依頼できる場合に限られるでしょう。
AI時代においては、より多様なタッチポイントを効率的に設計することが可能です。例えば、AIを活用して複数のSNSプラットフォーム向けに適したコンテンツを効率的に制作することで、より広範なユーザー接点を作ることができます。
また、AIチャットボットなど新たなインタラクションポイントを設けることで、ユーザー体験を向上させることも検討しましょう。
STEP 5:コンセプト設計(差別化要素としての企業独自の暗黙知活用)
オウンドメディア全体でどういうコンセプトを立てるかを決めていきましょう。
例えば、本記事のオウンドメディアの成功事例にもあげた「ビギナーズ」では、自社で運営する楽器やカメラなどのレンタルサービスの集客にあたり、「レンタル」という切り口ではなく「趣味を探す」「趣味と出会う」といったコンセプト設計がなされています。
そのため顕在的にレンタルのニーズがないユーザーでも、「新しい趣味を始めるにあたって、長続きするか分からない趣味にいきなり高額な投資はできないから、まずはレンタルサービスを利用してみよう」といったコミュニケーションを図ることができます。
コンセプトの設計には、ターゲットとなるユーザーを深くリサーチして、カスタマージャーニーマップを描く必要があります。ユーザーが商品・サービスの購入や利用に至るまでにどのような過程を経ていくかをカスタマージャーニーとして整理していきます。

その際、上図のA.I.S.A.Sモデルを参考にしましょう。
「認知」「興味・関心」「比較・検討」といった様々なフェーズにいるユーザーをどのように態度変容(行動)させていくかという視点でコンセプトを決めていきましょう。
AI時代においては、差別化要素としての企業独自の暗黙知の活用がコンセプト設計において重要になります。他社が容易に模倣できない自社ならではの視点や経験、事例をコンセプトに反映させることで、AIによるコンテンツの均質化の中でも際立った存在となることができます。
例えば、社内のプロフェッショナルが持つ専門知識や実践知を引き出し、「○○業界の△△について、10年の実績から語る」といった独自性の高いコンセプトを打ち出すことで、他社との差別化を図りましょう。
STEP 6:運用体制の構築(AIと人間の役割分担を考慮した体制)
オウンドメディアの運用に対する予算やリソースに応じて、最適な体制を作っていきます。社内にリソースがない場合は、外部のライターを用いたり、制作するコンテンツの領域を狭めることでリソースを集中させたりするといった体制構築も必要です。
また成果をなるべく早く出したいといった場合には、予算を前半に多く配分しスタートダッシュをかけるといった戦略も考えられます。運用体制は、かなり蔑ろにされるケースが多いのですが、無駄なく効率的に成果を出していく為には、しっかりと考慮した上で構築しなければなりません。
AI時代においては、AIと人間の役割分担を考慮した体制構築が重要です。例えば、以下のような役割分担が考えられます。
- AI:キーワードリサーチ、競合分析、コンテンツの下書き作成、SNS投稿の自動生成など
- 人間:戦略立案、企業独自の知見の提供、AIが生成したコンテンツの編集・ブラッシュア ップ、質の管理など
また、AIを効果的に活用するためのプロンプトエンジニアリングや、企業の暗黙知を収集・形式知化する役割なども新たに必要になるかもしれません。AIツールの進化に合わせて、柔軟に体制を見直していくことも重要です。
STEP 7:サイト構築(AIツールを活用した効率的な構築)
予算が十分に確保できないのであれば、初期の段階でのサイト構築はシンプルなもので問題ありません。ただし重要なのは、運用を加味した上でサイト構築を進めていくことです。
ありがちな失敗例として、リソースが限られているのにも関わらず、初期の段階からカテゴリーだけを大量に設けてしまい、中身のないサイトになってしまうといったことが挙げられます。
STEP6で構築した運用体制と照らし合わせながら、サイト構築担当者とコンテンツ運用担当者で連携を取りつつ、決めていくことが大切です。
AI時代においては、AIツールを活用した効率的なサイト構築が可能になっています。例えば、コード生成AIを活用してサイトの基本構造を効率的に構築したり、デザイン生成AIを活用してビジュアル要素を作成したりすることができます。
ただし、サイトの基本設計やユーザー体験設計は依然として人間の専門知識が重要です。AIはあくまでもツールとして活用し、最終的な判断や方向性は人間が決定するようにしましょう。
STEP 8:計測すべき指標のデータ計測準備(AI活用効果も測定可能な指標設計)
成果の達成までに定めたストーリーがしっかりと機能しているかをデータ計測することでチェックする必要があります。例えばランディングページ(LP)のコンバージョン(CV)率や、コンテンツへの流入経路が当初に設計したストーリー通りになっているかを確認しましょう。
ただし、Googleアナリティクスをはじめとする計測ツールは非常に多くのデータを取得することができます。そのため、全てのデータをチェックしてしまうとかなり時間を要してしまうでしょう。
見るべきポイントをしっかりと定義し、それ以外は見ない・仮に変動があっても惑わされないとしっかりと割り切ることが重要です。
AI時代においては、AIの活用効果も測定可能な指標設計が重要です。例えば、以下のような指標が考えられます。
- AI活用によるコンテンツ制作時間の削減率
- AI生成コンテンツと人間が編集したコンテンツのパフォーマンス比較
- 企業独自の知見を含むコンテンツとAIのみで作成したコンテンツのエンゲージメント率の比較
これらの指標を通じて、AIの活用効果を定量的に把握し、より効果的な活用方法を模索していくことができます。
AI時代のオウンドメディア運用モデル
ここでは、AI時代におけるオウンドメディアの運用モデルについて解説します。生成AIの登場によって、オウンドメディアの運用方法や編集部の役割が大きく変わりつつあります。
生産性向上とクオリティ確保のバランス
生成AIの最大の特徴は、コンテンツ制作における生産性の飛躍的な向上です。AIを活用することで、これまで人間が行っていた業務プロセスの一部を置き換え、効率的にコンテンツを制作することが可能になります。
しかし同時に、AIを活用する際の課題として「60点問題」があります。AIを利用することで生産性は向上するものの、世間一般の公開情報から引き出された内容に過ぎないため、プロフェッショナルから見ると十分な品質ではないことが多いのです。
これを克服するためには、社内のプロフェッショナルが持つ暗黙知(経験や判断、ノウハウなど)を形式知化し、それをAIによるコンテンツ生成に組み込むことが重要です。具体的には、以下のような暗黙知を分類し、形式知化していくことが効果的です。
- 判断知:プロフェッショナルの経験に基づく、物事の良し悪しの判断や選択の感覚
- 実践知:効率よく業務をこなすための体感的なノウハウ
- 関係知:相手との関係を築くための、人への理解や対応の感覚
- 価値知:美的感覚や品質基準などの感覚的な判断
- 文脈知:状況の背景や暗黙のルール、表面に出ない前提理解
これらの暗黙知を形式知化し、AIによるコンテンツ生成プロセスに組み込むことで、生産性の向上とクオリティ確保の両立が可能になります。
オウンドメディア編集部の役割の変化
AI時代においては、オウンドメディア編集部の役割も大きく変化しています。従来のオウンドメディア編集部は、対外的なコミュニケーションを通じて事業課題を解決することが主な役割でしたが、AI時代においては、以下のような役割が追加されます。
- 暗黙知の収集・形式知化:社内のプロフェッショナルが持つ暗黙知を収集し、形式知化する
- 社内情報管理部門との連携:企業内の様々な知識や情報を統合し、活用する
- AIと人間の役割分担の最適化:AIの強みと人間の強みを生かした運用モデルの確立
- 情報の構造化と再利用:収集した情報を構造化し、様々な形で再利用する
オウンドメディア編集部は、単に情報発信するだけでなく、社内の暗黙知をどのように収集し、形式知化し、それを発信したり社内活用に繋げていくのかという役割を担うようになっています。
AI活用の段階的アプローチ
AI時代のオウンドメディア運用においては、段階的なアプローチが効果的です。
初期段階:コンテンツ生産効率化
- AIを活用してコンテンツの下書きを作成し、人間が編集する
- キーワードリサーチや競合分析にAIを活用する
- SNS投稿や画像生成などの定型業務にAIを活用する
中間段階:独自の暗黙知との融合
- 社内のプロフェッショナルの知見をAIに取り込む
- 企業独自の事例や視点をコンテンツに反映させる
- AIと人間の役割分担を最適化する
発展段階:暗黙知の循環による継続的な価値創出
- 収集した暗黙知を体系化し、社内全体で活用する
- 対外的な情報発信と社内活用の両面でオウンドメディアを活用する
- 継続的な知識の循環による競争力の強化を図る
このような段階的なアプローチを通じて、AIの活用効果を最大化しながら、企業独自の価値を創出し続けることが可能になります。
オウンドメディアを成功させる6つの秘訣

オウンドメディアの運用を始めるステップは上記の通りですが、オウンドメディアに取り組んだ企業がすべて成功しているわけではありません。オウンドメディアを成功させる秘訣は、以下の6つです。
目的・成果をしっかり定義する
運用前に「簡単な道のりではない」ことを理解する
目的やフェーズにあわせてキーワード設計を行う
ユーザーの求めるものを考え続ける
目先の数値だけを追いかけない
企業独自の暗黙知を形式知化し、AIを活用して効率的に発信する企
弊社がオウンドメディア支援を行った事例でも、成功したメディアは上記のすべてが徹底されていたと考えています。
オウンドメディアで中長期的な成果を上げるために、これらの秘訣についてひとつずつ詳しく見ていきましょう。
目的・成果をしっかり定義する
オウンドメディアは、戦略にしたがって適切な行動を継続的に行うことが重要です。
しかしながら、「とりあえずオウンドメディアを始める」といったように目的や成果が曖昧なまま運用を始めてしまうと、途中で継続する意味を見失い、運用を止めてしまうケースがほとんどです。
例えば、オウンドメディアを運用する目的の例として、
- 月のリード獲得数を300%に成長させる
- 採用への応募者を増やす
- 今のテレアポ営業からインバウンド文化へと転換させる
といったことが挙げられます。
「そもそも何の為にオウンドメディアを運用するのか」「何がオウンドメディアの成果なのか」という目的と成果を社内できちんと定義することが、オウンドメディアを成功に導く最初のポイントと言えるでしょう。
AI時代においては、AIの活用によって実現可能となる成果についても考慮することが重要です。例えば、「AI活用による生産性向上で、従来の2倍のコンテンツ量を維持しながら、独自の知見を反映した質の高いコンテンツを提供する」といった目標設定も検討しましょう。
運用前に「簡単な道のりではない」ことを理解する
オウンドメディアの運用には、想像以上にリソースがかかるものです。コンテンツを1本制作するだけでも、ユーザーニーズをしっかりと汲み取り、質の高いコンテンツに仕上げるために、相当な時間を要します。
検索をタッチポイントとする場合、コンテンツは作って終わりではありません。時には検索ユーザーのニーズも変化していきます。自社のコンテンツに足りないものを分析し、メンテナンスを繰り返すことによって、ようやく上位表示に至るケースがほとんどです。
専任のオウンドメディア担当者を設けずに、片手間でオウンドメディアの運用を行うと、どうしても成果を得るまでには時間がかかってしまいます。結果として継続することがないがしろになり、運用を止めてしまうことが多く見受けられます。
運用を止めないためには、運営担当者だけでなく経営層にもオウンドメディアは成果が出るまでに時間を要することを理解してもらうことが重要です。
AI時代においては、コンテンツ制作の一部をAIに任せることで、生産性は向上しますが、戦略立案や企業独自の知見の収集・形式知化、質の管理などにはやはり人間の労力が必要です。
AIは道のりを短縮する手助けにはなりますが、オウンドメディア運用が簡単になるわけではないことを理解しておきましょう。
目的やフェーズにあわせてキーワード設計を行う
オウンドメディアの成果が社内で定められていても、それを達成するためのストーリー(戦略)が正しく描けずに失敗することがあります。実際に様々な企業様からご相談を受ける中で、この理由が原因となりオウンドメディアで成果を上げられないケースが多々見られます。
例えば、製品への「お問い合わせ数の増加」を成果目標とした場合、まずどのようなユーザーがターゲットとなるかを定め、カスタマージャーニーを作成する必要があります。
そして、カスタマージャーニーを基にコミュニケーション設計を行い、ユーザーの流入経路を「検索」にする場合は、目的やフェーズにあわせてキーワード設計を行わなければなりません。
検索をタッチポイントにする場合、製品やサービスの比較検討フェーズにいるユーザーをどう集客するかが「お問い合わせ数」を向上させるポイントになります。
オウンドメディアの成果を出す為にかならず1位を取らないといけないマストキーワードを決めておきましょう。
例えば、リードの獲得が主な目的であれば、「会計ソフト 比較」のような、ユーザーが商材を購入する一歩手前に検索する「比較・検討フェーズのキーワード」をマストキーワードに設定します。

一方で、ブランディングが目的なのであればターゲットとするユーザーが多く集まる「ボリュームの多いキーワード」をマストキーワードとして選定することもあります。
マストキーワードを正しく選定できたら、マストキーワードと親子関係にあたる「サブキーワード」と呼ばれるものを、1つのマストキーワードに対して5つ〜7つ設定し、キーワードツリーを構成していきます。

つまり、どの検索ワードでコンテンツを制作して上位表示を狙うのかといった「キーワードの設計」に重きを置いて、戦略を立てて行く必要があります。ただし多くのトラフィックを集めても、比較検討フェーズのユーザーが少なければ、大きな成果には繋がりません。
コンテンツ制作において社内だけでなく外部パートナーを活用するなど、運用体制を含めた戦略設計が必要になってくるでしょう。
AI時代においては、AIを活用してより効率的にキーワードリサーチや競合分析を行うことが可能になっています。ただし、最終的な判断は人間が行い、企業の目的や戦略に合致したキーワード設計を行うことが重要です。
詳しいキーワード選定の方法を知りたい方は、以下の10ステップで解説した記事を参考にしてください。
ユーザーの求めるものを考え続ける
オウンドメディアのコンテンツを作成する際に、ただ「書きたいことを書く」のでは成果に繋がりません。ユーザーがどのような情報を求めているのかを常に考えながら、作成・メンテナンスを行っていく必要があります。
検索をタッチポイントとする場合、コンテンツを上位表示させるためには「検索ユーザーにとって有益なコンテンツ」に仕上げる必要があります。なぜなら、Googleの検索評価アルゴリズムがコンテンツの品質を優先的に評価する仕様になっており、品質とはユーザーにとって有益であることだからです。
また、ユーザーが記事を読んで有益だと感じなければ、PVを獲得できていたとしても次のアクションに繋がらず、自社の抱えている事業・採用課題は解決できないでしょう。
そのため、ユーザーが求めるコンテンツを作成する「コンテンツSEO」は、オウンドメディアを運用する上で非常に重要になります。
有益なコンテンツを作成する際には、どうすれば検索ニーズを最高の形で満たせるかという「ユーザーにとって最高のゴール」を考え・設定しましょう。ユーザーに寄り添い、態度に合わせたキーワードの検討・選定を行う、そして、コンテンツごとに最高のゴール設定を行い、態度変容を促すことがコンテンツSEOの鉄則です。

また、コンテンツ作成者にとってもゴール設定は重要です。「どこまで掘り下げて記事を書くのか」がわからなくなるといったことも、記事のゴールを明確にすることで予防できます。
コンテンツの目的・役割を明確にするためにも、設定したゴールから逆算しながらコンテンツの流れや骨格設計の作成を行いましょう。
ゴールは以下のようにコンテンツ全体と章単位で分けて考えましょう。これはKGIとKPIの考え方にも当てはまります。
- KGI=コンテンツ全体で目指す最高のゴール
- KPI=それを達成するための章単位のゴール設定
KPIの積み重ねがKGIの達成につながるため、骨格設計のすべてはコンテンツ全体における最高のゴール達成のために作り込まれる必要があるのです。
AI時代においては、AIを活用してユーザーニーズの分析や競合コンテンツの調査を行い、より効果的なコンテンツ設計を行うことが可能になっています。ただし、最終的にはユーザーの視点に立って、本当に価値のあるコンテンツを提供することが重要です。
目先の数値だけを追いかけない
目先の数値だけを追ってしまうことも、オウンドメディアの運用に失敗する大きな要因です。
オウンドメディアの運用目的は、月間で100万PVを達成することでも、先月よりもアクセスを伸ばすことでもありません。
あくまでも、自社のサービスや製品の売上を伸ばす・求めている人材を採用する・ブランドの認知度を高めるなど、自社の抱えている事業・採用課題を解決することが目的です。
PV数を増やすために、闇雲に記事を大量作成するといった方法が取られるケースもありますが、いくら記事を増やしても、「お問い合わせ」や「資料請求」など求めているアクションがユーザーから得られなければオウンドメディアが成功に至ることはないでしょう。
勘違いして欲しくないのは、PVやセッションといったアクセス数を追うことが悪という訳ではありません。ただし、これらの数値は目的を達成するための一つの成果指標に過ぎないということです。
「何のためにオウンドメディアを運用するのか」、その目的を明確にし、目的を達成するためには、どのような成果指標を立ててクリアしていけばいいのかを設計しましょう。
AI時代においては、AIを活用して効率的にコンテンツを量産することが可能になっていますが、量だけを追いかけるのではなく、質と量のバランスを考慮した運用が重要です。単にPVを増やすのではなく、企業の事業課題の解決に直結する指標を重視しましょう。
企業独自の暗黙知を形式知化し、AIを活用して効率的に発信する
AI時代において特に重要なのが、企業独自の暗黙知を形式知化し、それをAIと組み合わせて効率的に発信することです。
暗黙知とは、社内のプロフェッショナルが持つ経験や判断、ノウハウなど、これまでまとまっていなかった知識や情報のことです。これらを形式知化し、AIによるコンテンツ生成プロセスに組み込むことで、他社との差別化を図ることができます。
暗黙知を効果的に収集・形式知化するためには、以下のような分類を活用することが効果的です。
- 判断知:プロフェッショナルの経験に基づく、物事の良し悪しの判断や選択の感覚。例えば、顧客の反応で契約可能性が分かったり、相手の目線で刺さる言い方ができたりする直感的な判断。
- 実践知:効率よく業務をこなすための体感的なノウハウ。「この手順でやれば早い」「〇〇をやる前に××を入れるとミスがなくなる」など、実践で得られたプロセスや工夫、ノウハウ。
- 関係知:相手との関係を築くための、人への理解や対応の感覚。「上司には事前の根回しが必要」「〇〇さんは数字を重視している」など、関係性からなる知識。
- 価値知:美的感覚や品質基準などの感覚的な判断。「この表現はユーザーが嫌うだろう」「この表現は不安を与える」など、感覚的な品質基準。
- 文脈知:状況の背景や暗黙のルール、表面に出ない前提理解。「この社内文化でこれを言うと浮く」「以前〇〇があったから××には慎重になっている」など、その文脈特有の判断。
これらの暗黙知を収集し形式知化することで、AIによるコンテンツ生成の質を高め、他社との差別化を図ることができます。具体的な方法としては、インタビューやアンケート、録音・録画とその書き起こし、事例の収集などが挙げられます。
さらに、収集した暗黙知を効果的に活用するためには、情報デザインが重要です。最終的なアウトプット(SNS投稿、ブログ記事、提案資料など)に紐づいて、どのような暗黙知をどのように活用するかを設計することで、より効果的な情報発信が可能になります。
AI時代のオウンドメディア運用においては、AIと人間の役割を明確に分け、それぞれの強みを生かした運用体制を構築することが成功の鍵となります。
背景や施策がわかる!オウンドメディア10社の成功事例
ここからはオウンドメディアの具体的な成功事例を用いて、どのような施策を行い、どういった成果に繋がったのかを解説していきます。
BtoBのオウンドメディアの成功事例
まず、BtoBのオウンドメディアを運用する、以下の企業の成功事例を紹介します。
- ウィルオブ・ワーク|事業課題解決型
- パーソルホールディングス|事業課題解決型
- BOXIL Magazine|事業課題解決型
1.ウィルオブ・ワーク|事業課題解決型

| 課題 | テレアポを中心とするアウトバウンド営業中心のリード獲得をしており、インバウンドマーケティングの強化が必要だった |
|---|---|
| 実施施策 | オウンドメディアを立ち上げ、ユーザー視点のコンテンツ制作の実施 |
| 成果 | サービス全般への問い合わせ件数が毎月130件前後まで急増 |
ブランドビジョンに「Chance-Making Company」を掲げる株式会社ウィルオブ・ワーク。
同社ではもともとアウトバウンド営業を中心としたリード獲得を行っていましたが、より効率的にリードを創出するための施策として、検索をタッチポイントとしたオウンドメディアの運用に取り組むことになりました。
成果指標を、法人リードの獲得に設定し、検索からの流入を増やすために、コンテンツSEOに取り組み記事数を確保することに注力しました。
デジタルマーケティング部のマネージャー自身が、およそ3ヶ月間、1日1本のコンテンツを作成することに。とことんユーザーと向き合いながらオウンドメディア運営をし続けた結果、取り組みから約1年半でリード件数は毎月130件前後まで急増しました。
また、お問い合わせ件数が増えるだけではなく、獲得した問い合わせから億を超える売上を作り出すことに成功しました。
TAISHI TERAKURA
Marketing Planner
業界歴10年以上。事業開発、オウンドメディア、コンテンツマーケティング支援を展開し、延べ100以上のプロジェクトを経験。藍染職人、株式会社LIGを経て、マーケティングプランナーへ。
2.パーソルホールディングス|事業課題解決型

※引用:パーソルホールディングス
| 課題 | Web広告やイベント中心のリード獲得だったが、インバウンドマーケティング施策の一環としてオウンドメディアを強化する必要があった |
|---|---|
| 実施施策 | 戦略の立案・設計、それに付随するコンテンツ制作 |
| 成果 | 法人サイトへの流入数3倍増加月200件以上のCV獲得 |
パーソルホールディングス株式会社は、人材派遣サービス、転職サービス、ITアウトソーシングや設計開発などのサービスを提供する人材会社です。
これまではWeb広告やイベントからのリード獲得を中心とした施策を展開していましたが、さらなる新規顧客の獲得のため検索を接点としたコンテンツマーケティングに取り組んでいました。
しかし、コンテンツの量産で一定の流入数は確保できたものの、オウンドメディアには記事だけが大量にある状態で、作ったコンテンツが成果に繋がっていない、またそのためのノウハウが不足していました。
当時の喫緊の課題は以下の2つです。
- 「良質な潜在顧客を発掘するにはどうすればいいのか分からない」
- 「問い合わせ数や案件化率をどうやって改善すればいいのか分からない」
そこで「売上を伸ばすためのコンタクトを獲得するため、どのようなコンテンツであるべきか」」を念頭にこれまでの戦略を見直すことに。既存コンテンツの内容やその流入データを見ていくことで、伸ばす余地や課題を明確化しました。
またグループの商材やサービスが約200個ある中で、より売上に貢献する商材を見定め、どの商材・ターゲットに対して優先順位高く注力していくべきかを決定。実際にコンテンツを制作していくに当たっては、数ある商材の中でも商談や受注につながるキーワードを定義し、まずはその分野で勝ち切ることに注力しました。
結果として、プロジェクト開始から約1年で法人サイトへの流入数は3倍、月200件以上のCVが発生しています。
3. BOXIL Magazine|事業課題解決型

※引用:BOXIL Magazine
| 課題 | 課題 PV数・UU数ともに伸び悩んでいた実施施策 |
|---|---|
| 実施施策 | 戦略設計の立案・設計、それに付随するコンテンツ制作成果 |
| 成果 | 30万UUの増加/150記事のうち30記事で1位を獲得 |
『ボクシルマガジン』は、株式会社スマートキャンプによって運用されているBtoB向けのオウンドメディアです。
コスト削減や業務効率化を図るために、クラウド型サービスの導入を検討している企業担当者をターゲットとし、ツールの比較に必要な基礎知識や、各ツールの価格や特徴を解説しています。
製品を比較検討しているユーザーが検索からコンテンツを読みに訪れ、興味のあるサービスを無料で比較検討し、資料請求をすることで、メディアの収益化へと繋げています。
同社はオウンドメディアの運営を開始してからしばらくは、独学でのメディア運営やコンテンツ制作に伸び悩みを感じていました。
そこで改めて関わるメンバー全員が「成果を出すためのオウンドメディア」にはどのような戦略や記事制作が必要なのか、を体系的に学び直し、既存のコンテンツのメンテナンスを実施。
その結果、「マーケティングオートメーション 比較」「勤怠管理 比較」など、同社サービスの導入を実際に検討してくれるユーザーが検索するであろうキーワードでの上位表示を実現しました。見込み顧客を効率よく集客することで40万UUで伸び悩んでいたメディアが、70万UUまで増加。リードの最大化に繋げることができました。
BtoCのオウンドメディア成功事例
BtoCのオウンドメディアを運用する、以下の企業の成功事例を紹介します。
- ビギナーズ|事業課題解決型
- ライフテックス|事業課題解決型
- メルカン|採用課題解決型
- サイボウズ式|事業・採用課題解決型
4.ビギナーズ|事業課題解決型

※現在「ReReレンタル」のサービスは終了しています。
『ビギナーズ』は自社のサービスの利用者を増やしたいという事業課題を解決するため、株式会社マーケットエンタープライズが2017年6月より運用を開始した、BtoC向けのオウンドメディアです。
株式会社マーケットエンタープライズは、ネット型レンタル事業「ReReレンタル」を展開していました。カメラ・家電・楽器・モバイルWi-Fiといった幅広いアイテムをWebサイトから注文することで、3泊4日からレンタルできるサービスです。
ビギナーズでは、レンタルという切り口でオウンドメディアを展開するのではなく、”趣味と出会うメディアサイト”をコンセプトに置き、「趣味を見つけたい人」「趣味を始めたい人」をターゲットに、それぞれの趣味の魅力や上達方法、道具選びに関するコンテンツ発信を行いました。
これから趣味を始めたい人の多くは、必要な道具をすぐに購入するのではなく、まずはレンタルをしたいというニーズを強く持っています。こういったニーズを持ったユーザーに対して、「ReReレンタル」のサービスを訴求することで、利用者の獲得へと大きく貢献していました。
なお、ビギナーズでは「ReReレンタル」への送客を行い、事業に貢献して間接的なマネタイズを軸としながらも、一部アフィリエイトをはじめとする広告を貼り付けることによって、直接的な収益化も成功させました。事業貢献と直接収益化を両立したハイブリッド型のオウンドメディアの好事例と言えるでしょう。
5.ライフテックス|事業課題解決型
株式会社ライフテックスは、アンテナ工事や空調設備工事事業を展開する会社です。集客施策としてリスティング広告を中心とした施策を行っていましたが、CPAの高騰を背景に、コンテンツマーケティング施策に注力し始めました。
しかし当初は、外部のライターを交えてコンテンツ制作を進めてたものの、一向に成果が上がりませんでした。
そこで弊社に相談いただき、オウンドメディア運営の基盤となる制作チームの体制から見直すことに。オウンドメディアの戦略設計からKPIの設定、効果的なコンテンツの制作方法、データに基づいた意思決定を行う「データドリブン」の大切さを学びました。
改善点を反映させた新しい施策を実施したところ、開始から4ヶ月ほどで、検索経由でのリード獲得数・売上共に昨年比140%を記録。また、広告費の高いWeb広告からオウンドメディアに切り替えたことで、広告費の大幅な削減にも成功しました。
施策実施の過程でデータドリブンの文化が社内に根付き、現在でも持続的に成長しています。
SAORI NAGATA
Strategy & Project Manager
業界歴10年以上。オウンド・コンテンツマーケティングを中心に100社以上を支援。現在はデジタルマーケティングの立ち上げから実行、組織開発・コミュニケーション設計までの総合支援を行う。
6.メルカン|採用課題解決型

株式会社メルカリの採用向けのオウンドメディア「メルカン(mercan)」。“メルカリの人を伝える”をコンセプトに、活躍する社員へのインタビュー記事やサービスをリリースするまでに至った経緯などをコンテンツ化し、社内外へと発信しています。
メルカンを通して会社のカルチャーや人となりを積極的に伝え、転職先や就職先を探している人にメルカリについて興味を持ってもらうことを目的とした採用課題解決型のオウンドメディアです。
メルカリは、約6割近くがリファラルによる採用を行なっています。社員がソーシャル上で、オウンドメディアのコンテンツをシェアすることで、友人や知人がメルカリに興味を持ち、リファラル採用に繋がるといった背景が伺えます。
7.サイボウズ式|事業・採用課題解決型

中小企業向けのグループウェアや労務管理システムを提供する株式会社サイボウズは、“新しい価値を生み出すチームのメディア”をコンセプトに、会社や組織のあり方、多様な働き方に関する情報を、自社のオウンドメディア「サイボウズ式」で発信しています。
社内だけにスポットを当てるのではなく、社外の有識者のインタビューや対談記事が多いのが特徴です。
サイボウズの認知向上や広報を目的としており、ソーシャルを流入経路のメインとしたコンテンツ制作が行われています。
マネジメント層だけでなく多くの社会人をターゲットとしており、自社サービスや製品のお問い合わせといった事業課題解決のみならず、採用エンゲージメントの向上にも寄与しています。
その他のオウンドメディアの成功事例を見たい方は、以下の記事も参考にしてください。
まとめ|AI時代のオウンドメディアは企業の知的資産を循環・活用するプラットフォームへ
弊社では、オウンドメディアを「企業の事業・採用課題を解決するための手段としてのメディア」であると定義しています。
オウンドメディアを、「いかに企業の収益を増やし、人を集め、事業に貢献するのか」といった視点で見ていきましょう。
オウンドメディアを運用する目的や意味は以下の5つが挙げられます。
リード獲得
認知拡大
ブランディング
採用力の強化
直接的な収益化(マネタイズ)
社内の暗黙知の形式知化と活用
自社の運用目的はどれに当てはまるのかを明確にしておきましょう。
AI時代におけるオウンドメディアは、単なる情報発信の場から、企業の知的資産を循環・活用するプラットフォームへと進化しています。AIによる生産性向上だけでなく、企業独自の形式知と暗黙知を活用した差別化が成功の鍵となっています。
オウンドメディアは、ただ闇雲にコンテンツを発信すれば、成果があがるものではありません。まずは運用する目的を明確にし、成果指標を定めること、そして正しいストーリー設計に沿って辛抱強く運用をすることで成果に繋がることを覚えておいてください。
さらにAI時代においては、AIと人間の役割分担を明確にし、それぞれの強みを生かした運用体制を構築することが重要です。AIによる効率化と、人間による独自の価値提供を両立させることで、真に差別化されたオウンドメディアを構築し、事業の成⻑に貢献することができるでしょう。
著者情報
SAORI NAGATA
Strategy & Project Manager
業界歴10年以上。オウンド・コンテンツマーケティングを中心に100社以上を支援。現在はデジタルマーケティングの立ち上げから実行、組織開発・コミュニケーション設計までの総合支援を行う。
記事をシェア