「お客様満足度」は、売上につながらないのか?
先日、X(Twitter)でこんなポストを見かけてハッとしました。
数十年前、あるSaaSサービスで「お客様満足度」を追ってたのですが、数年分の売上データから生存時間解析を行ったら「満足しても解約するし、満足しなくても使用料が増える」という残酷な事実を発見したことがあります。もっと言えば、満足度の向上が売上を押し上げる直接効果がほぼ無く(1番効果があ… pic.twitter.com/1rf6fcUuS0
— 松本健太郎 (@matsuken0716) September 2, 2024
数十年前、あるSaaSサービスで「お客様満足度」を追ってたのですが、数年分の売上データから生存時間解析を行ったら「満足しても解約するし、満足しなくても使用料が増える」という残酷な事実を発見したことがあります。(中略)満足度を押し上げるだけで、売上が伸びるというのは、あまりに一足飛び過ぎたなと思うのです。
※松本健太郎さんご本人に了承を得て引用しています。ポスト全文もぜひご覧ください。
……まさにおっしゃる通りだと思いました。
我々THE MOLTSのビジネス(デジタルマーケティング支援)においても、いくら事業成長に貢献できていても必要なプロジェクトが完了すれば契約は終了しますし、こちらから終わらせることもあります。逆に、お客様満足度とは関係なしに、市場が追い風であれば予算が増額になるケースなども存在します。
「お客様満足度を上げること」と「売上を伸ばすこと」は必ずしも直結しない、というのは私も肌で感じていたことでした。
しかし一方で、「いかなるビジネスにおいても、お客様満足度を上げたとて売上は伸びない」とまでは思っていません。
松本さんの投稿も、あくまで “とあるSaaSサービスにおける実際のデータにもとづいたエピソード” を前提としていました。ですが、このポストを見た知人が「お客様満足度を上げたとて売上は伸びない」と短絡的に結論付けてしまっていて、少し危ない捉え方をしているなと感じました。
松本さんご本人からも、「抽象化すると当てはまらない具体は必ずありますし、逆に一部の具体だけで抽象化すると特例となります。この場合はこう、この場合ならこう、と指差し確認したいところですね」とのコメントをいただいています。
そこで今回は、「お客様満足度は、本当に売上につながらないのか?」というテーマに対して “弊社の場合は当てはまるのか否か” を、一部データを交えながら解説していきたいと思います。
「お客様満足度」と「推奨率」の関係性
結論、弊社(プロダクトを持っていない労働集約型のデジタルマーケティング支援会社)の場合は「売上の最大化」「コスト・リソースの削減」により、「お客様満足度」は最終的な「利益拡大の向上」につながっていると考えています。
数年前、クライアントの声を聞くために、半年以上お付き合いのある全企業・合計141名にアンケートを実施したことがありました。
我々はクライアントに成果を提供する会社なので、「THE MOLTSがプロジェクトに関わってから、求めていた事業・マーケティングの成果は向上しましたか?」という質問で「お客様満足度」を調査したところ、59.6%が「向上した」、30.5%が「試行錯誤中だが向上を実感できそう」と、約90%がポジティブに回答。
また、同アンケートにて「THE MOLTSが関わった領域において、知人、または他部署の方から相談があった際、THE MOLTSを紹介しようと思いますか?」と尋ねたところ、「紹介する」が88.7%を占めており、その回答者は満足度の高い人たちとおおよそ重なっていました。
つまり、「お客様満足度の高さ」と「周囲への推奨率」には関係があったわけです。
続いて、別のデータを紹介します。
次の表は、お問合せフォームに「THE MOLTSをもともと知っていた」「THE MOLTSを知らなかった」を選択する項目を用意し、
- クライアントや知人経由(紹介)
- サイト経由、かつTHE MOLTSをもともと知っていた場合(認知)
- サイト経由、かつTHE MOLTSを知らなかった場合(未認知)
の3パターンに分けて、直近3ヶ月間の相談から受注までのプロセスを追いかけたものです。
ご覧のとおり、「相談からの受注率」は「③未認知」が3%であるのに対し「①紹介」は38%と、10倍以上の開きがあります。また、「提案からの受注率」も3倍以上です。
相談時点でTHE MOLTSに期待してくれているかどうかで、受注率にこれだけ大きな差が生まれることが明らかになりました。
また、認知からの相談は、「誰かに聞いて」という理由を多く見受けられます。
売上だけでなく、利益を増やす
試しに、30件の受注を生み出したい場合に必要なコストを算出してみました。
あくまでざっくりですが、問い合わせを獲得するためのマーケティング費用が1件1万円、提案にかかる人件費が1件3時間×時給3,000円=9,000円とすると、「③未認知」は1,540万かかるのに対し「①紹介」は474万円と、1,066万円のコスト差があります。約1,000万円も浮くとなるとP/Lに大きなインパクトがありますし、これだけ営業時間が短縮できるのであれば、そもそも営業の人員を減らすことも検討できるでしょう。
つまり、紹介案件が多いと営業効率が上がり、利益が向上します。
そこで得た利益をプロモーションや広告などに投資すれば直接的な売上UPも見込めます。また、労働集約ビジネスの場合、営業効率が高まれば生産時間を増やせるため、売上がダイレクトに伸びていきます。
よって「お客様満足度は、売上につながらないのか?」という問いに対する弊社の回答は、日々のマーケティング活動をよりよくしてくれた結果として、「つながる」です。
・お客様満足度が高ければ、周囲への推奨率が上がる
・推奨率が高いと、クチコミで事前期待のあるお問い合わせが増える
・紹介案件は受注率が高く、営業効率がグンと上がる
・マーケティング費用や営業の人件費が削ぎ落とされて、利益が向上する
・利幅分を投資に回せば、売上UPにもつながる
→お客様満足度の向上は利幅UPに貢献し、売上にもつながる。
「お客様満足度の高さがクチコミにつながる」「受注確度の高い顧客が流入すると営業効率が高まる」といった要素は、プロダクトの有無やBtoC/BtoBを問わず共通しやすいものかと思います。
しかしながら、我々は結局自社のエビデンスしか出せません。「どのビジネスにも当てはまる」とは断言できませんし、一概に当てはまらないビジネスもたくさんあるだろうと思っています。
満足度は「高いと継続」ではなく「低いと解約」かもしれない
……少し脇道にそれますが、「お客様満足度」はハーズバーグの二要因理論でいう「衛生要因」の考え方に近いかもしれない、と私は感じています。
ハーズバーグの二要因理論とは、「職場において、給与や職場環境(衛生要因)は不十分だと不満を引き起こすが、充足しても満足にはつながらない。一方で達成感や成長機会(動機づけ要因)は、充実すると満足度が上がる」というもの。ポイントは、満足につながる要因と不満足につながる要因は別物であることです。
お客様満足度は、一定の基準を下回ると解約につながるが、高めても継続にはつながらないものなのかもしれない。……現時点ではまだ明確なファクトがあるわけではありませんが、もしこの仮説が当てはまるようであれば、「お客様満足度」の評価基準を見直す必要があるなと考えています。
目の前の情報を疑う・立ち止まる習慣を
冒頭の松本さんの投稿は、私にとって「自社の場合はどうだろうか」「こういう理論に通ずる部分があるのではないか」と思考を深める非常によいきっかけになりました。
これがもし仮に「いかなるビジネスにおいても、お客様満足度を上げたとて売上は伸びない」と盲目的に受け止めてしまっていたとしたら、事業成長のために本来やるべきことを見落すことになったかもしれません。
……今回のテーマに限らず、記載されている前提条件を踏まえずに、点だけを見て判断してしまうことは往々にして見受けられます。
たとえば、「BtoBマーケティングはTHE MODELを採用するとうまくいく」などもその一つ。THE MODEL自体はすばらしいフレームワークですが、資本集約と労働集約とでは管理会計の成り立ちが違ったり、売る商材があるかないかでマーケティングのアプローチは大きく変わったりするため、自社や自分にフィットするか、最適かどうかは別問題です。
目の前の情報を短絡的に「正解」として受け止めてしまわないよう、気をつけなければいけません。これはもちろん自戒を込めて、です。
自社や自分のエピソードに紐付けながら「本当にそうだろうか」と疑ってみたり、「いざ試してみたけど、なんか違うな」と感じたときはすぐに軌道修正したり。情報が溢れている現代だからこそ、あらゆる角度から本質を捉えようとする姿勢が求められていると思います。
BtoC、BtoB関係なく、総合的にデジタルマーケティングを手段として事業成長を提供する弊社は、より一層その視点を持ちながらこれからも活動していきたい、と改めて感じました。
著者情報
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