「新コンセプトが、顧客、営業、社内の反応を変えた」アントレの新商品開発の問題とリリースまでのプロセス
「自分らしい、独立した働き方に、誰もが挑戦できる社会をつくる」をビジョンに掲げ、フランチャイズ・代理店などの案件紹介をはじめとした独立・開業の総合媒体「アントレ」など複数サービスを運営する株式会社アントレ。
25年以上の歴史を持つ「アントレ」ではこれまで多くの独立や起業、開業を目指す顕在層をターゲットとしてマーケティング施策を実施してきたものの潜在層をターゲットにした施策を打ち出せていない状態でした。そこで新しいコミュニケーション設計をもとにしたマーケティングを実施するため、THE MOLTSにお声がけいただきました。
今回は同社マーケティング部の笹平さま、広報の岡本さま、そして本プロジェクトを担当したTHE MOLTSの 寺倉 大史 を交えて取り組みを振り返りました。
これまでは届かなかった、特定の女性潜在層という「間」を埋めるプロジェクト
寺倉:今回の取り組みでは「アントレ」における独立・開業潜在層を掘り起こすため、「ワタシドキ」という新しいコンセプトの立ち上げにてご一緒させていただきました。私が参加させていただく以前より「間を埋めるプロジェクト」と題してスタートしていたと聞いていますが、改めてプロジェクト立ち上げの背景についてお聞かせください。
笹平:「アントレ」では、独立や起業、開業を検討しているお客さま、いわゆる顕在層に対してのアプローチには自信がありました。顕在層の多くは、現在はサラリーマンとして収入を得ているものの将来を見据えて挑戦し、一般的な定年である65歳以降も自身の力で収入を得ていきたいと考える、40代〜60代の男性層が中心になっています。
こうしたターゲット層に対し、主に広告やプロモーションを中心としたマーケティング戦略を展開してきたのですが、これからの成長を考えると独立・開業の顕在層のみのアプローチではなく、潜在層やこれまで対象となっていなかったターゲットにも目を向ける必要がありました。
そこで、これまで私たちがアプローチしきれていなかったターゲット層に「アントレ」に対する興味を持っていただき、行動に移していただくにはどのような施策を展開すべきかと検討するために始まったのが「間を埋めるプロジェクト」でした。私たちがアプローチできていなかった「間」を埋めようという意味でプロジェクト名が付けられています。
プロジェクト発足後は既存顧客のデータを参考に「どのような『間』を埋めていくべきか」と何度もディスカッションを重ねた結果、「アントレ」会員にはなっているものの、資料ダウンロードや説明会へ参加といったアクションに移した女性層が少ないこと、そもそも男性会員に対して女性会員の母数が少ないことに着目しました。実際、「アントレ」全会員のうち女性会員は15%ほどであり、さらにアクションを起こした全会員数のうち、女性会員の比率は10%程度まで下がっていたのです。
「独立」「起業」という言葉は、男性寄りのイメージが強い印象です。しかし「アントレ」がこれまで取材してきた成功事例には女性も多く、メッセージングさえ変えれば「独立」「起業」の選択肢が響くターゲット層も増えるのではと考えました。そこで、マーケティング施策として初めて、あえて性別でターゲットを設定し、新規の女性会員の獲得と既存の女性会員のアクションを促す施策に取り組むことになりました。
寺倉:新しい切り口でマーケティング施策に取り組むにあたって、どのような課題がありましたか?
笹平:これまで「アントレ」では性別問わず、「独立したい」「新しいキャリアに挑戦したい」という顕在層をマーケティングの対象にしていたため、独立・起業の潜在層をターゲットにして需要を掘り起こすような施策に取り組んだ経験は多くはありません。
ただ私自身、入社した頃からずっと潜在層のお客さまにも独立、開業という選択肢があるのだと知ってほしいという思いを持ち続けていましたので、やる気は充分であとは施策の企画から実行までをいかに進めるかという問題でした。
女性ユーザーが多いだろうと推測からInstagram施策を検討してみたのですが、何かしっくりこない……。リリースから20年以上経つサービスであり、男性の会員数が8割を超える状態が長く続く「アントレ」だからこそ、この形を変えての潜在層の掘り起こしは簡単なことでないと判断し、施策に協力してくださるパートナーさんを探すことになりました。
信頼できた理由は、全員が「本当は一人でも生きていける」人の集まりであること
寺倉:女性潜在層の掘り起こしという課題に対し、そもそも社内のリソースだけで解決しようとは検討されなかったのでしょうか?
笹平:これまで顕在層に向けたマーケティング施策に注力していたため、潜在層を掘り起こすコミュニケーション設計やブランディングのノウハウが社内にはありませんでした。また、弊社の文化としても社外の客観的な、プロのパートナーさんから力添えをいただくことに対して抵抗感がなく、「餅は餅屋」の姿勢からすぐに協力パートナーさんを探し始めました。
寺倉:女性潜在層の掘り起こしという課題を解決するパートナーは、どのような基準で比較検討されたのでしょうか?
笹平:「Instagramで女性向けの訴求に取り組む」「女性向けのデザインでLPを制作する」といった小手先の施策が先行した提案ではなく、マーケティングのもっと深いところ、つまり潜在層との心地よいコミュニケーションの設計に協力してくださるパートナーを探していました。なかなか珍しいと思いますが、「コミュニケーション設計支援」といったキーワードでGoogle検索し、たまたまヒットしたのがTHE MOLTSさんです(笑)。
寺倉:たまたまだったんですね(笑)。今回のプロジェクトをTHE MOLTSに、そして私にご依頼いただいた決め手を教えてください。
笹平:信頼できそうと感じたことですね。寺倉さんをはじめ、THE MOLTSの皆さんは「本当は一人でも生きていける」ような人たちの集まりだと初めて聞いたとき、正直驚きました。
これはあくまで一般論ですが、たとえばある程度の広告代理店さんとのお取り組みの場合、お預けしている広告予算に応じてどうしても経験が浅い方をアサインされてしまうことは起こり得ます。「大手だから安心」とは一概には言えないのです。しかしTHE MOLTSの皆さんは全員が第一線の経験豊富な方でどなたに担当いただいても信頼できると感じました。
特に寺倉さんの場合、言語化しにくい感覚的な印象なのですが、寺倉さんの頭の中に私たちが今回求めていたコミュニケーション設計の考え方や事例が詰まっているような「寺倉さんの考え方は、他の企業、他の人からは絶対に得られないだろう」という印象を持ちました。以上の理由から、今回のプロジェクトでは正式に寺倉さんにサポートいただくことなったのです。
寺倉:初回の商談では、THE MOLTSの紹介は1, 2分とそこそこで済ませ、残りの時間をフル活用してヒアリングとディスカッションさせていただきました。私は携わるすべてのプロジェクトに共通することとして「やりたいこと」はなるべく聞かないようにしています。
それよりもなぜ現在の状況に至ったのか、どういう背景からどんな課題を抱えているのかを重点的にヒアリングすることで、「やりたいこと」ではなく今お客さまがその課題に対して「やるべきこと」を特定するようにしています。今回の相談でもInstagram活用といった施策の話は出てきましたが、あまりそこを掘り下げず、初回からどのように潜在層とコミュニケーションしていくかをディスカッションしてプロジェクト化していきましたね。
独立・起業支援の新しいコンセプト「守りの企業」が生まれるまで
寺倉:プロジェクトが始まってからは、ヒアリングを通じて得た情報や背景を踏まえ、コンセプトを、コミュニケーションの軸を、施策を、施策ごとのKPIを設計していくこととなりました。また、今後のことも考え、私が答えを出すのでなく、皆さんで導き出すためのフレームをアントレ用に独自で作り、状況に応じて最適解が出るように進行していく形式をとりました。
最初に行ったのは、事前にお願いしていた過去の会員データの収集と分析情報を元にした、女性会員の解像度を高める3時間のワークショップでした。
笹平:そもそも男性・女性というわけ方自体あまりよくないかと思いますが、あえて女性と分けたとしてもさまざまなあり方があるため、過去の会員や実際に独立された方の情報を整理し、改めてターゲットを明確化。何故その人が独立するに至ったのかを可視化していきました。
それぞれ共通する要素を検証していくと、おおよそ3つの傾向にまとめられました。
・子どもとの時間と生活をより豊かにしたいシングルマザーの方
・家庭を専業で見続けている、いきたいが空いた時間を有効に使いたい方
・定年まで自分のペースで続けられる仕事を見つけたい40代・50代の方
ターゲティングした後は、ターゲットの解像度を上げるために独自に作られた項目が多いカスタマージャーニーを活用して埋めていき、共通項を探し、アントレが選ばれた理由、何故独立や開業に進むのか、そこにどんなニーズやペインがあるのかを可視化していきました。
私はこのワークショップでかなりスッキリしたのですが、これまで「アントレ」では独立や起業、開業を挑戦的なこと、より自由な働き方を勝ち取ることのような「攻め」や「上昇思考」のイメージで捉えていました。しかしこの考え方はすべての方には当てはまらないだろうなと、ぼんやり感じていたのです。
岡本:今回ターゲティングした女性に絞り分析していくと、アントレで過去独立を支援してきた人の多くは、挑戦や攻めとしてでなく、どちらかというと仕事以外の大事なものを大切にする傾向がありました。これは女性だけでなく、男性にも当てはまることでもあります。
ワークショップを通じて寺倉さんがポロッと言った、仕事以外の大切なものを守るために独立する「守りの起業」というのがしっくりきて、今回の間を埋めるプロジェクトの中心となる考えになりました。
その後も寺倉さんには終始ファシリテーターとして、今回のプロジェクト全体を進行いただきました。プロジェクトシートやフレームワークを上手く活用しながら議論を深めています。その後は最初の1ヶ月でコミュニケーション設計のコアとなる部分を固め、2ヶ月目はコアの考えをさらに深めて言語化し、3, 4ヶ月目で施策案に落とし込んでいく流れです。
私は初期フェーズの途中からプロジェクトにジョインしたのですが、寺倉さんの接し方がとてもフレンドリーだったおかげで、今回のプロジェクトにおける課題や迷っていることを変にカッコつけたり飾ったりすることなく、思った通りそのままの言葉でディスカッションすることができました。だからこそ、「守りの起業」のコンセプトへの納得感や「自分たちで練り上げた」という達成感につながったのだと考えています。
軸のあるコンセプトで外部コミュニケーションが円滑に。女性会員からも嬉しい声
寺倉:「守りの起業」というコンセプトが決まったことで自然と生まれたのが「ワタシドキ」という打ち出し方でしたね。アントレ女性版!といったこれまでの延長線上で考えず、攻めのアントレ、守りの何か、といった考え方からネーミングができました。
ネーミングを考えてきてくださいといったお題を出したら、ネーミングだけでなく、コピーや構想まで多く出てきたり(笑)。皆さんの動きが素晴らしすぎました。
2ヶ月目で「ワタシドキ」の言語化が進み、マーケティングや広報などお客さまとの接点ごとのコミュニケーション設計が進んでいきました。さきに一連のコミュニケーションフローを定めていたため、たとえば最初にあったinstagramの施策をやりたいといった場合でも、KPIは何で、訴求は何で、役割は何で、といった施策単位のあり方をゼロから考えず、もはややるべきこととして存在するような思考になったかと思います。
今回は立ち上げの支援であり、リリースされ、その後のフォローを定例で入れてプロジェクト自体は1年以上前に終わりました。
改めて、今回の取り組みによってどのような効果を実感していますか?
笹平:まずターゲットにした方々の登録はもちろんのこと、最終的に独立される方も増えており、しっかりとしたプロジェクトに成長しています。
しっかり軸のあるコンセプトをもとにコミュニケーション設計が進んだおかげで、その後のInstagram運用やメタ広告、LP制作といった施策がスムーズに進みました。たとえクリエイティブに迷うことがあっても、施策やKPIがまとまった今回作成したカスタマージャーニーマップをベースにいつでも立ち戻って考え直すことができます。
加えて寺倉さんにご紹介いただいた他社さんのご協力のおかげもあり、Instagramは運営開始から1年と少しでもうすぐ1万フォロワー達成し、登録や成約に貢献し始めている状況です。
また、営業担当者もクライアントも「ワタシドキ」のコンセプトはモヤっとしたものが言語化されたところがあり、提案や受け入れがされやすく、会員獲得だけでなく、事業にも大きな影響があると感じています。
岡本:私が所属する広報では、メディアの編集さんやライターさんなど外部の方とやり取りする機会が多く、自然と「ワタシドキ」を説明することも多かったです。説明するたび、外部の方からはよい反応をいただいており、「素晴らしいコンセプトですね」との言葉までいただきました。また、コンセプトがしっかりしているおかげでライターさんは原稿を作りやすく、また特にコンセプトに共感いただいたライターさんはいつも以上に前のめりで案件に取り組んでいただいています。
寺倉:「ワタシドキ」から「アントレ」の会員になった方の声を聞いたことはありますか?
笹平:少し前に対面のセミナーを開催した際に「守りの起業」のコンセプトについてお話しする機会がありました。そのセミナーの事後アンケートでは、以下のような嬉しい言葉をいただいています。
「起業は攻めたもので、がつがつ働かなければと思い込んでいた。しかし今回『守りの起業』という新しい考え方に出会えてよかった」
「(セミナー登壇者の方のような)物腰が柔らかい方でも独立して成功できるんだと自信につながった」
当初の「間を埋めるプロジェクト」の目的は、無事に達成することができたと言えますね。
まるで独立したサービスのような存在感まで成長した「ワタシドキ」の今後
寺倉:2023年8月に「ワタシドキ」をリリースしてから約1年半が経った現在、今後の展望をどのように描いていますか?
笹平:「ワタシドキ」は社内でもかなり浸透しています。アントレの中にはさまざまな企画やメニューがありますが、たとえば「『ワタシドキ』の売上げはどんな状況?」といった会話があったり、来期の計画を話し合う会議のアジェンダに「ワタシドキ」の項目があったりと、根本的なサービス自体は「アントレ」と共通であるにもかかわらず、まるで独立したサービスのように扱われるほど存在感を発揮しています。社内からもさらなる成長を期待されていますし、今まで「アントレ」では掘り起こせなかった潜在層を「ワタシドキ」で今後も開拓していきたいですね。
また、はじまりは女性起点でしたが、今の時代女性も男性と分けず、ワタシドキを必要とする方々に届けていきたいと思っています。
寺倉:今回の取り組みを受けて、THE MOLTSはどのような企業におすすめできそうでしょうか?
笹平:THE MOLTSさん、というより寺倉さんは私たちの漠然とした悩みに対して解決策を提示するのではなく、伴走しながら悩み、一緒に考えていただけるので、アウトプット一つひとつに対する納得感が違います。
自分たちが抱える課題解決の方法が分からず、マーケティング施策をやってみたけどそれも上手くいかず、サービスのコンセプトを見直さなければならない、と悩んでいる担当者にとって、THE MOLTSさんはすごくお勧めできるパートナーです。
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